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1.獣人

明日、投稿できないので、その分をここで投稿しておきます。

後、節約の申し子の方は、続けるのがしんどくなったので、完結設定にしました。


それと、少しだけ汚い描写がありますので苦手な方は読まないことをお勧めします。



天が味方をしてくれているというか何というか、兎にも角にも俺の奴隷脱出計画を手伝うかのようにトントン拍子に話は進み、現在見張り役を気絶させることに成功した。


「ふぅ〜、これで後は逃げるだけ。っと、その前に食料とかちょっと頂戴させていただこうかな」


鎖で雁字搦めにされていた男からまさか襲撃されるとは思ってもいなかったらしく、ゲルドさんは何の反応も出来ずに後頭部を殴打されている。

勢いがつき過ぎたためか、俺が頂戴しようとしている食料も含め、色々な品物に彼の血液が付着してしまっているのだが……まさか、このまま死んじゃったりはしないよな?

少しの間とはいえ、それなりに話した間柄ではあるので、何となく殺してしまうのは後味が悪いのだが……。


ま、そこまで気にしてはいないけど。


ゲルドが血溜まりに伏す姿を発見されるのは厄介かな、と考えて、一応素人なりに隠蔽工作をしてはみたものの、馬車内にべったりと残った血の跡が、むしろ心霊的な恐怖を煽るような光景になってしまっていた。

俺は、事情を知ってるから何も感じないけどね。


ゲルドを気絶(もしくは殺害)した俺は、これから一人旅を行うのに必要であろう道具を一通り盗り終えると、馬車を後にしようとした。


……が。



『オラ、テメェちょっとは大人しくしろやぁ!』


『そうっす、兄貴の言うこと聞くっす!』


『イヤ、イヤぁあああああ!はなせ、はなせぇええッ!でないと、また噛むぞ!!!』


『チッ、このガキャぁああ!』


洞窟の前を通ろうとしたところで、中から何やら騒がしい声が聞こえてくる。

どうやら、先ほどの会話通り、あの女の子を強姦している真っ最中だったのだろう。


『オラッ!静かにしろ!』


『ンッ……おえっ!』


ドゴッ、バギッ、と女児を相手に発してはいけない音が鳴り響く。


…………。



本当なら放置のつもりだった。

何せ俺の力は一般人未満だから……助けに行こうとしても返り討ちにあうだけだろう。

と、そう考えてリスキーな行動を避けようとしていた。


けれど、こういった暴行の様を耳にしてしまうと、さすがに思うところがないわけじゃない。

だからーーー



「チッ、やっと大人しくなったか……。手間かけさせやがってッ!この凶暴さについては、クライアントに報告する必要がありそうだな」


「そうっすね。でも、獣人とはいえこんだけ殴られればこいつもこれ以上暴れられないっすよ!そろそろいただきましょうや」


「だな。じゃあ、お先にーー」



「ーー必殺!ただのラリアットおおおお!!!」


髭もじゃ大男が下半身に手を伸ばした隙を見計らって、俺は渾身のラリアットを放った。


「ぐおっ……テメェッ!?」


「兄貴!?」


今からヤろうと考えていたこともあってか、隙だらけだった奴はラリアットをもろに食らって地面に倒れ伏した。


ーーーが。


「おいおい、テメェ……なんでこんなところにいやがるよぉ?というか、ゲルドの奴はどうした?」


「ーーッ」


絶句。

その二文字が頭を過ぎった。


一応、成人男性の本気のラリアットをノーガードで食らったのだ。

ゲルドのときみたく石で殴ってはいないとはいえ、それなりにダメージを負う予定だったのだが……。


「おい、聞いてんのか?」


まさかのノーダメージ。

むしろ奴にぶつけた俺の腕の筋肉の方がダメージを負ってる気がする。


やばい、勝てないかも……。


「あ、兄貴……こいつ、服に血がついてますぜ。もしかして、こいつがゲルドをーーー」


「ナンだとぉぉおおおッ!テメェがヤッたってのかぁ!?」


「ひっ……」


マジか。

めっちゃ怒らせちゃったじゃん、どうしよう!?


こめかみ、否顔中それどころか全身が怒りによって震え上がっている奴は、歯型のついた一物をブルンブルンと震わせながら俺に向かってくる。


「おぉおおおッ」


「うおっ!」


酒を飲んでいたのか、普段よりも覚束ない足取りに大振りな拳。

この二つに助けられる形で俺は、洞窟の奥つまりは獣っ娘の方へと駆け出した。


「待てや、クソガキぃぃぃぃぃッ!!!」


「うぉおおおッ!」


のしのしと追っかけてくる大男。

対面にはガンクも居るが、ガンクは大男の怒り具合にビビって竦んでいるみたいだ。

難なく横を通り抜けて、獣っ娘の側へと近寄る。


「……?」


「今から、俺がお前の鎖の錠を外す。だからあの男と戦ってくれないか?」


「別に、いいけど……これを、外せるの、ですか?」


「まぁ、見てろって」


俺の情けない嘆願に関して、獣っ娘は特に疑念を抱いた様子はない。

そりゃそうか。

だって、獣人はーーー


「おい、クソガキぃッ!もう逃げられねぇーぞ、テメェ!?」


「……ッ」


おっと、俺が無駄なことを考えているうちに大男が到着してしまったか。

はやく錠を開けねえと……ッ。


俺は素早くポッケから鍵を取り出す“振り”をした。


「なっ、テメェ……いつの間に鍵を……!?」


「こんなこともあろうかと思ってな。ゲルドって、奴から盗っておいたのさ」


真実は違う。

俺の能力、『全知全能の解鍵(マスターキー)』の力で獣っ娘の身体を縛っている鎖の錠の鍵を模倣して貰ったのだ。


ま、そんなことは相手からすれば関係のない話か。

何故なら、この鍵で獣っ娘の身体が解放される、ということが何よりも重要なのだからーーー


カチャリ、と解鍵される音と共に、一瞬でこの場が血の海となった。



「ーーーよくもおまえら、下等種族のぶんざいで上等種族にあたるわたしを甚振ってくれた、です。万死にあたいする、です」


メキョ、ギョチャッ、ガキョッ!


と、人体がなってはいけない音がしたかと思えば、その瞬間に大男の身体が爆ぜた。


「ひっ、ひぃいいいッ!!!?」


先ほどまで大男の怒り具合にビビっていたガンクは、その大男が一瞬で肉塊へと化すシーンを目撃して、放尿してしまった。


「きたない、です」


それが人間よりも嗅覚の鋭い彼女の癇に障ったのか、こめかみをピクリと歪ませると手刀でガンクの首を切り落とした。


ここまで僅か1分足らず。

強い強いと噂を耳にしていたが……それにしても圧倒的じゃないか。

獣人が人間にとって忌避される所以をそこはかとなく思い知った瞬間であった。






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