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14.冒険者登録《下》

本日二話目の投稿です。

これからも1日一話投稿を目標に頑張っていきたいと思っていますので、できれば最後まで読んでいただけると幸いです。



訓練室は固い土を均して作ったグラウンドのような場所だった。

そこに数人の冒険者たちが木で作られた武器を持って打ち合いをしていたり、素振りをしている様が見えた。


「へぇ、冒険者は粗暴な者ばかりだと思っていましたが……それなりに武芸に励む者も居るんですね」


「まぁ、命かかってるからな。実力を磨くのは当然のことだろう」


「それもそうですね、お兄様」


うん、やっぱりそのお兄様呼び止めにしない?

さっきもその呼び方のせいで受付嬢さんからあらぬ誤解を受けた気がするんだけど……。


そう言い出したかったが、あいにくと今の俺は模擬戦をしなければならない身であるので、そちらに意識を集中させた。


「おう、お前が冒険者になりたいって言ってる坊々か?」


「あ、はい。そうです」


しばらく訓練室の端っこで待っているとそう声を掛けられた。


別に被害妄想ってわけじゃないが、その冒険者の物言いは何だか棘がある気がした。

今も、キーラを見て少しコメカミをひくつかせていたし。


「そうか。じゃあ、ちょっと待ってろ。おーいッ、テメェらぁああッ!今から試験を始めっから!訓練室を借りるぞッ!見てぇ奴は、端っこで座って見学しろやぁああッ!」


「「「ウーッす。りょーかいしやしたぁああッ!!!」」」


目の前の人間が突如として大声を発する。

それに対して、俺たち以外の人間は特に臆することもなく大声で返答ずる。


おぉ……このいかにもな体育会系なノリって感じ。

陰キャ文化系男子の俺にはキツイっす。


既に先制攻撃を食らった気分だった。


「うーし!審判ッ、こっちに来てくれ!今からこいつの試験を始めるからよッ!」


そう言って、冒険者は審判を連れてくる。


どうでもいいけど、お前なんで一々『!』が付きそうなほどの大声で話すんだ?

もうちょっと静かに呼べるだろ。


隣で煩そうに耳をふさいでいるキーラも、俺の似たような表情を浮かべていた。


審判が近づいてきて、ルールを説明してきた。


「木製の武器で打ち合って、試験官に有効打を与えることができれば合格となります」


「有効打というのは?」


「手の骨折、膝の打撲などが主ですね。かすったぐらいでは有効にはなりません」


「えーと、それだと大怪我をするのではないですかね?」


「打ち合いとは言っても、試験官は手加減をしてくれますので怪我の心配は不要です。万が一大怪我を負った場合、ギルドにいる腕利きの治癒師が治してくれるので大丈夫です」


治癒師の名前が挙がると、端っこの方に立っていた白い服を着た女性が手を上げてその存在をアピールしてくれた。


「わかりました。では、武器はどちらに?」


「こちらの壁に立てかけられている分で全部ですね」


そう言って、木製の武器を見せてくれたのだが……。


長剣、槍、斧みたいな奴、ハンマー、小楯……。


一通りメジャーな武器は揃ってはいたが、あいにくと俺は元農民。

使い慣れている武器と言えば、精々が小さな鎌と鍬ぐらいのもの。


それを鑑みると、いっそ武器なんか持たない方が良いんじゃないか、と俺は考えてしまった。


「武器は絶対に持たないといけないんですか?」


「え?いや、別にその必要はないですが……」


「だったら、俺は武器なしでいいです」


「ーーは?」


何言ってんだ、こいつ?みたいな目で審判は俺を見てきた。


「俺は武器なんて握ったことないですし……。下手に使うよりも素手で戦った方がまだいけると思うんですよ」


「いやいやいや、ちょっと待ってくださいよ」


審判は試験官である冒険者に一言二言ほど話していたが、やがて諦めたかのような顔つきになった。


「いいですか?刃引きしているとは言っても、これらも立派な武器なんです。当たったら痛いなんてもんじゃすみませんよ」


「大丈夫です」


「そうですか。じゃあ、そちらの奴隷を後ろに下げて位置についてください」


「わかりました」


俺はキーラの手を引いて、観客のいる端っこの位置まで連れていった。





「では、両者位置について!ーー始め!」


その言葉と共に、俺は全身を氣で覆って構えたがどういうことか相手は手に持っている長剣を構えることなくこっちを見つめていた。


「ガハハッ!テメェ、さっきは愉快なことを言ってたらしいじゃねぇか!なんでも!武器を持たない方が強い!とかよッ!」


試験官のその言葉に周りは騒然となる。


「はぁ?武器を持たない方が強いぃぃ?」「ありえねーし、バーカッ」「イタタタっ、いるんだよなぁ、こういう妄想と現実の区別がつかねー奴」「ははっ、それな」


周りの嘲笑の声を聞いて、試験官は調子が良さそうに手元の剣をクルクルさせる。


「ククッ、まぁ俺も若い頃はそんな無鉄砲な時代もあったもんよ。ただ、さすがに素手で勝てるとは思わなかったがなー」


「……えーと、もう殴って良いんですか?」


「クハハハッ、イイぜ。どっからでもかかってこいよ」


そう言って試験官は余裕な態度を取る。


しかし、いくら俺が素手とはいえ練氣の一つもしないというのはあまりにも無防備に過ぎるのではないだろうか?

俺が氣を込めたパンチを放てば、木製の剣なんか一瞬でバラバラになることは目に見えているだろうにーー


と、そこまで考えて俺は試験官の思惑に気付いた。


そうか!

こうやって、あえて無防備な状態を見せることで俺に油断を誘い、長剣を壊させてその隙に何も持っていない左手で俺にトドメをさそうという魂胆だな?

となると、このバカにしたような笑みも作戦の一つというわけか。

相手を挑発し、冷静さを失わせることで視野を狭める。

なるほど、理に適った戦略だ。


俺は今、まさに魔物と戦う男たちの戦略を目にしてるというわけか。


しかし、思惑がわかったところで武器を何一つとして持っていない俺にはこれといった策がない。

異能は、キーラの件を考えると悪魔憑きとか言われる可能性もあるから人前で使うわけにもいかないし……。


となれば、ここは正々堂々とアタックを仕掛けるしかないか。


方針の決まった俺は、右足に練氣を集中させ跳躍の構えを取った。

その構えに、試験官はピクリと反応するものの相変わらず右手にある長剣はダランとしたままだ。


「ーーフッ!」


俺はタイミングを見計らって、跳躍した。

その刹那、試験官は驚愕の表情を浮かべながら右手の剣を構えた。


なるほど、あえてその表情を浮かべることで更に俺を油断をさせようというのか。

まったく、試験官の策略家っぷりには戦慄するばかりだ。


俺はあえて試験官の思惑通り、構えた長剣に向けて、氣を集中させた右拳を放った。


ーーーバゴンッ!!!


その瞬間、訓練室中に響き渡るかのような大きな打撃音がしたかと思えば、試験官の長剣が俺の右拳によって粉々に粉砕されていた。

しかし、俺の右拳はそれだけにとどまらず、勢いそのまま試験官の腹部へと突き刺さった。


ーーしまった!これじゃ、俺の体勢が悪すぎるッ!


俺は拳を試験官に突き刺した状態のまま、試験官の追撃に備えようとして左手を構えーーー


「ーーーガバァッ!!!?」


「……え?」


試験官は俺の攻撃を受けて、そのまま数メートル先の地面へとスライディングしていき白目を剥いたまま失神してしまった。


ーーえ?何これ、どういうこと?


俺はあまりの試験官の弱さに呆然としていたが、後でよく考えてみたらそれも当然と言えた。

そもそもの話、普通の人間は操氣術が使えない。

そして、いくら筋肉ムキムキのゴリマッチョにしようが、操氣術が使える人間とそうではない人間では、出せる馬力が圧倒的に違うのだ。


俺は試験官が、俺を油断させるために態と氣を出していない判断していたが、そもそもの彼のランクはD。

Dランクというのは、駆け出しを抜け出したばかりのランクであり、世間的に言うとちょっと身体を鍛えた一般人みたいな部類に入る。

そのため、当然氣なんか使えない。


だから、俺の攻撃に対して試験官は本気で俺に恐怖していた、というわけだ。


ただ、当時の俺はそこまで思考を巡らせようとは思ってなかったので、ただ一言こう言った。


「ーーこれって、有効打ですか?」






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