13.冒険者登録《上》
お待たせしました、本日一話目の投稿です。
金を稼ぐために冒険者登録をしよう。
そんなふわふわした計画のもと、朝食後に俺たちは冒険者ギルドへと向かった。
さすがにギルドの場所はわからなかったので、道行く人に道を聞いた。
ギルドはちょうど町の中心部に位置しており、俺が今まで見てきた建物の中で一番高いと思うぐらいに立派な造りをしていたので、まったく迷うことなく到着することができた。
ガタン、とウェスタンドア風の扉を開けて中に入る。
中は酒場と事務所がごちゃ混ぜになったかのような様相をしていた。
「……随分と酒臭いところなのですね、ギルドというものは」
「まぁ、冒険者になる奴の大半は荒くれ者だ、って話だからな。酒好きが大勢いるんだろう」
ここに来るまでの道中でも、俺みたいなヒョロイ奴には冒険者は向いていない、と色んな人から忠告を受けてきたくらいだ。
やはり、相当の粗暴な輩がいるのだろう。
酒の匂いに顔をしかめているキーラの横顔をちらりと見た俺は、せめて彼女に危害が及ばないようにしなければならない、と気を引き締めた。
「とりあえずは、冒険者登録をしないとな。受付はあれか?」
「多分、そうですね……」
カウンターっぽい場所は店内に二つあったが、片方がゴリゴリマッチョの酒場のバーみたいな感じの人が立っていたので、消去法で美人な女性たちが三人並んで座っている方へ向かった。
こっちに多くの冒険者風の男性が並んでいたことも判断する材料の一因になった。
俺は真ん中のおっぱいが大きい娘の列に並んだ。
「……何で態々一番並んでいる人が多い列に来たんですか?」
「へぁ?と、特に理由はないですけど、何か!?」
「そう……ですか」
並んだ際に、奈落を思わせる真っ黒な瞳で顔を覗き込まれながら尋ねてくるキーラにドキッとさせられた。(意味深)
そんな感じで、軽い雑談をしながら待っているとようやく俺たちの番になった。
「……ようこそ、冒険者ギルドへ。どのようなご用件でしょうか?」
一瞬、キーラの首元を見て表情を歪めるものの、すぐさま笑顔で対応する。
そうだよな……普通、女の子の奴隷なんか引き連れてる奴の接客なんかしたくないよなぁ。
若干、メンタルにダメージを受けながらも俺は登録の件について話した。
「冒険者登録をしたいんですけど……」
「登録、ですか。すみません、お客様。当ギルドは奴隷の登録を認めておりませんので……」
「いえ、自分が登録したいんですけど」
「……へ?」
いや、『……へ?』じゃないでしょ。
何だよ、普通女の子に戦わせるとか有りえないだろう。(なお、カイリちゃんに戦闘を全部任せていたことは忘却の彼方にある模様)
それとも何か?俺がそんな下衆野郎に見えるって言いたいのか?
俺が被害妄想で勝手に自分を傷つけていると、慰めるかのようにキーラが背中を撫でてくれた。
うん、ありがとう。元気でました。
「あ、いえ……ですが、その……。冒険者という職業は基本的に危険を伴います。戦闘訓練などを積んでいないことにオススメできませんが……それでも、登録なさいますか?」
えぇ……何だよ、それ。
キーラから聞いた話と全然違うんですけど。
冒険者の仕事ってそこまで危ないことはそんなにないって話だったんじゃ……。
俺がそう思ってキーラを見ると、彼女は任せろと言わんばかりに大きく頷いてから一歩前へと出た。
「大丈夫です。私は魔法のようなものを使えるので、それを使ってお兄様を全力でサポートしてみせますからッ!お兄様はただ私の主人として立ってるだけで大丈夫ですよ」
「ちょっ、何言ってーーー」
しかし、俺が訂正する間もなく受付嬢と周囲の人々の目が冷たくなってしまっていた。
「なるほど……。(典型的なクズタイプね。見た目は一般市民みたいな装いをしているからもしかしたら……なんて思ったけど、やっぱり変態貴族の冒険者ごっこみたい。しかも、奴隷にお兄様呼びとか……。シスコン拗らせたわがまま貴族に構ってる暇なんてないのよッ、こっちは!……でも、規則は規則。ちゃんとルールに則って排除しないと)」
受付嬢は一度コホンッ、と咳払いをすると改めてこちらを向き直った。
「話はわかりました。しかし、ギルドは実力のある人間しか雇わないことになっていますので、一度模擬戦をしてもらうことになります」
「模擬戦……ですか?」
「はい。こちらで所属しているDランク冒険者の方に相手をしてもらって、その戦闘の如何によって登録できるか否かが決まる、ということです」
「なるほど」
冷やかしや道楽を防ぐためには当然の処置といったところだろう。
別に俺からしたらそこまで悪くはない話ではあるが……。
問題はそいつがどのくらい強いか何だよなぁ。
受付嬢はDランクとか言ってたけど、それってギルドだとどのくらいの実力なんだ?
まぁ、少なくとも冒険者してるぐらいだから俺よりは強いんだろうし……。
俺が頭を悩ませていると、キーラが任せろみたいな目で見てきた。
あぁ、そうか!
お前のその異能を使えば遥かに楽になるな。
と、考えたところで受付嬢から待ったが掛かった。
「奴隷は戦闘には参加できません」
「え?そうなんですか?」
「はい。あくまで貴方が冒険者登録をするのですから、貴方一人で戦ってもらわないと実力が測れませんので」
「そ、そうですか……じゃあ、仕方がないですね」
「はい。ですから、諦めてーーー」
「ーーー普通に受けさせてもらいます。武器の貸し出しは行ってるんですか?」
「え?……あ、いえ、行ってはいますけど……」
「わかりました。とりあえず、勝つとはいかないまでも善戦できるように頑張りたいと思います」
「あ、はい、頑張ってください……」
「で、どこに向かえばいいですかね?」
「……あちらの扉の向こうに冒険者専用の訓練室があるので、そちらに向かってください」
「わかりました」
こうして、俺はDランク冒険者と模擬戦をすることとなりましたとさ。