11.治療《下》
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結論から言うと、俺の思惑は見事に成功した。
現在の俺は、普段とは比べ物にならない量の氣を全身に纏っている。
が、それにより弊害も出てきていた。
それは、力が強すぎてマトモに動くことができない、ということだ。
氣はその人の運動エネルギーを増強する効果がある。
そのため、氣を使えば通常ならば持ち得ないであろう重さの物を持ち運ぶことが出来たり、凄まじいスピードで走れるようになるわけだが……。
それが極まった結果、俺が手を振った衝撃の余波だけで部屋の窓にヒビが入ってしまった。
他にも、一歩踏み出すだけで地面がメキメキと嫌な音を立てるようになったり、部屋の飾りとして置かれていた花瓶がまるで鉛筆の芯のようにあっさりと破れてしまったりと散々な結果になっている。
このままだと、俺は部屋の弁償代に幾ら払わされるかわかったものではない。
早急に、氣をキーラへと送る必要がある。
氣を送る方法については、どうやら体内に直接触れる必要があるのではないか、と思い始めていた。
というのも、俺が怪我したときにカイリちゃんは氣を直接傷口に当てていたのを思い出したのだ。
そのため、もしかしたら傷口に直接触れる、もしくは体内に触れることで氣を送ることができるのではないか、と俺は考えた。
というわけで、思いついたら即実行である。
俺はキーラをガラス細工にでも触れるかのように丁寧に服を脱がせると、傷口を確認した。
大きな傷口は計三つ。
その傷口に沿って、カイリちゃんと同じようにやっていけばあるいはーーー
俺は口先に氣を集中させると、ゆっくりと傷口を舐めていった。
「ーーんっ、あっ……あふっ………」
クチュクチュという水音と、俺が舐める度に悶えるキーラの声が聞こえ、何とも妙な気分にさせられる。
ーーーいや、これは治療行為。治療行為なんだ!何もやましいことはない。しっかりしろッ、俺!
俺は必死に脳に過る煩悩の数々を押し殺し、無心で舐めた。
すると、その甲斐あってか俺の氣がどんどんキーラの傷口へと付着し始め、傷口を癒し始めた。
治癒のスピードはそれほど速くはない。
されど、確実に癒えており1時間ぐらいしたときには傷口には薄い膜のようなものができていた。
念のため、他の小さな傷口も舐めておいたが、目に見えるところは治癒を始めたので、俺は頃合いを見て氣を送るのをやめた。
「うん、俺が止めても傷口の再生は進んでいるし……特に問題はないだろう」
俺はキーラに服を着せ直すと、やり遂げた達成感からかどっと疲れた身体を床へと横たえた。
「うえー、なんかすごい怠い……。身体中の気力を持ってかれたかのような……」
まさしくそうなのだろう。
俺がほぼ全力で氣をキーラに送ったので、俺の身体にはほとんど氣が残っていないに違いない。
俺はあまりの疲労感にそのまましばらく寝ていようかな、と微睡み始めていた。
ガチャン、と何かが施錠された音に気付く様子もなくーーー
◆
ーー寒い。
満足に食う物も食えなかったあの頃を思い出すかのような寒さ。
食べ物がないから、体内でエネルギーが生成されず常に低体温であった。
さらに言えば、俺の村は帝国内でも随一の寒さ。
出来の悪い、ボロ布を纏った程度ではその寒さを凌ぐことが出来なかった。
ーー寒い、寒いんだ。
それにしても、久しぶりだなこの感覚は。
まだ、村を発って一週間も経ってないというのに10年も20年も昔のように感じる。
俺が転生者だからだろうか?
この肉体年齢に似合わない感慨深さを感じるのはーー
ーーそれにしても、寒い。
ガタガタ、ブルブルと身体を小刻みに震えさせて、俺は身体を丸める。
そうすれば、少しだけ長生きができると、あの頃に習った処世術だ。
今を耐えれば、必ず将来は楽になれる。
そう信じてやまなかった純粋無垢なあの頃を思い出してーー
ーー暖かい……。
不意に俺はそう感じた。
麻のようなゴワゴワとした布の感触に何らかの柔らかいクッションのような物に覆われて、俺は温もりを感じた。
まるで人肌のような感触ーー
それは俺を赤ん坊のように全身をぎゅっと包み込んでくれた。
何だか安心する。
母親の胎内で育てられていた胎児の時のような安堵感……。
いくら転生者とは言えども、胎児だったころの記憶なんてないわけだが……この安堵感はその他に例えようのないものだったのだ。
俺はその柔らかい何かにしがみつくと、また意識を手放した。
◆
「おはようございます、お兄様」
「……うぅ?」
シャー、とカーテンを開けられ、一気に日の光を全身に浴びる。
あまりの眩しさに思わず、顔を顰める。
「朝ですよ、起きてください」
ゆさゆさ、と誰かに揺すられて仕方なく目を開ける。
すると、そこには黒髪黒目をした和風な少女が俺の顔を覗き込んでいた。
「ーーッ!?だ、誰だ、お前!」
「まだ目惚けておいでですか、お兄様?キーラです。お兄様が治療してくださったおかげで一命を取り留めたキーラです」
「………………あぁ、なるほど」
そういえば、そんな奴がいたなぁ。
ちょっと懐かしい記憶に浸っていたから頭が働いてないのかもしれない。
俺はベッドに横たえていた身体を起こして、自己紹介をする。
「あぁー、そうか。元気になって何よりだ。俺はマティス。一応、お前の主人ってことになるけど気楽に接してくれるとありがたい」
「はい、承知しました、お兄様」
いや、全然口調がかたいままなんだけど?
まぁ、それが素であるというのなら無理して変えろとは言わないが……。
「いやー、それにしても随分と綺麗になったな。以前とは見違えるようだぞ」
「はい。一応、お兄様は主人に当たるお方ですので……。失礼に当たらないように身なりを整えておく必要があると思い、こちらの宿で湯浴びをさせていただきました」
「へー、湯浴びの施設があるのか……」
「はい。こちらの宿は、宿泊客に対して無料で提供しているようです。後で、お兄様も如何ですか?是非、私に背中を流させてください」
そんな頬を染めて言われたら断るわけにはーー
いや、その前に疑問の追求をしておいた方が良さそうだ。
このまま、なし崩し的に進んでいって聞くに聞けない状態になっても困るし……。
「えーと、まぁ湯浴びについては追々考えるとして……。それよりも、一個質問」
「はい、どうなされましたか、お兄様?」
「その『お兄様』って何?」
別にその呼び名を嫌っているわけではない。
むしろ黒髪ロリな女の子にそう呼ばれるなんて望外の喜び。
こっちが金を出しても良いレベルだ。
しかし、俺は結構臆病な男。
突然、理由もなしにそんな風に呼ばれたら何か目的があるんじゃないかとビビっちまうんだよなぁ。
そんな俺の問いに対して、キーラは笑みを浮かべたまま桜色の唇を開いた。
「お兄様も私と同じで『悪魔憑き』なのでしょう?でしたら、私の親類も同然です。なので、親愛と尊敬の情を込めてお兄様と呼んでいるのですが……」
「……」
「お気に召さなかったでしょうか?」
是非、これからもお兄様と呼んでください!ーーーじゃなくて、『悪魔憑き』って何ぞ!?