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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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烏と骸

作者: バルバロ

 ああ、また一羽、(からす)が飛んできた。

 今度は一段と真っ黒な、艶のある羽をしたものだ。きっとさぞ良いものを食べているのだろう。ごちそうはそこら中にあるものな。

 そうして止まったのは……、あの(むくろ)の上か。あれはもう駄目だ、肉どころか筋も残っちゃあいない。全部別の烏やらが平らげた後だ。

 俺がこうして木に(はりつけ)られるよりも前からいたものな、すぐに事切れたのを覚えている。それぐらいしか見るものがないのだから、しょうがないだろう。


 ところであの烏、骸に止まったきり一向に動かないものだ。羽休めにちょうどいいのだろうか、うなだれている骨の肩辺りで御髪(みぐし)を止めやしない。

 ……そうかそうか、きっとあれは恋に違いない。ははあ、なるほどな。

 ああも成り果ててすら恋焦がれられるなど、生前はさぞ男前だったのだろう。それともあの姿がいいのだろうか、烏の好みなどとんとわからぬ。


 ……どうにかしてきたようだ、こんな阿呆なことを思うとは。なにせ三日も飯を食っていない、これから終わるまで食うこともないだろう。ここでああして干からびるのを待つだけだ。

 一体俺がなにをしたというのか。

 ……数え切れぬもんな、あれもこれも。生きるためならなんでもやったものだ。磔刑もやむ無しか。

 むう、あの烏まだ動かないな。そんなにあの男が気に入ったか、まるで動かない。


 他の烏が来たぞ、どうする? 追い払ったぞ、驚いた。やはり恋だ、間違いない。すり寄る娘を追い払う鬼嫁のようであったぞ。ははは、面白い。骸と烏の恋なんて。


 そういえばあの町娘、服屋の娘は元気だろうか。俺のことなど覚えておいでか。

 いいや、いいや。覚えてなんぞおらない、忘れたほうが身のためだ。罪人に言い寄られたなどと、(うそぶ)くのも(はばか)られるぞ。


 なんと、あの男が柱から下ろされるようだ。烏の様子はどうだ、狂ったように喚いている。それもそうだ、恋仲を引き離すなど外道の仕業だ。

 しかし相手は武器を持っている、鋭利な槍だ。刺されればひとたまりもない。

 そらみたことか、串刺しだ。無残に投げ捨てられた。

 苦しかろう、悔しかろう。

 だが安心したらいい、恋するものよ。

 君がこれから逝くところは、きっとあの男と同じところ。

 ここで死ぬのは皆罪人なのだから。

 せいぜい黄泉の国で逢瀬するがいい。

 俺も気をつけねば、人の恋を邪魔するならば。鳥の恋であっても許されやしないだろう。


 おお、俺の前にも烏が来たぞ――。


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