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第44話:最強賢者は決断する

 最終日――ついに俺たちの出番がやってきた。時刻は朝の七時。

 今日も変わらず先鋒の試合が十時から始まり、一時間ごとに三試合行われる。


 第一試合はエリスが担当し、第二試合がリーナ、第三試合が俺だ。


「……大丈夫か? エリス」


 俺とリーナの部屋にエリスとティアナを呼んだのだが、明らかにエリスの顔色が悪かった。顔は青白く、目元にはクマができ、覇気のない声を出している。


「う、うん……ちょっと寝られなくて。でも大丈夫、試合は頑張るから」


「いや、どう見ても大丈夫じゃないだろそれは」


「でも、迷惑はかけられない……」


 俺が三日前から恐れていたことが現実になってしまった。

 エリスが眠れなかったのは、精神的負担によるものだろう。ただでさえ学院対抗戦の代表者は緊張するものだ。


 大勢の前で試合をする経験なんて今までになかった者がほとんどだし、既存の教育方法では対人戦闘をほとんど教えていない。


 そもそも魔法学院は魔物との戦闘で役に立つ人材を育てるために存在する。対人戦闘をできる必要が無いのだ。


 誰だって初めての対人戦は怖い。そこまではリーナも同じ条件だが、エリスは三日前に何者かにより攻撃を受け、大怪我を負った。心配をかけないようにと思ったのか、あるいは本心に気づいていないのか、エリスは今まで不安を表に出さなかった。


 その不安が試合を目の前にして爆発してしまった。……そんなところだろう。


「リーナはどうするべきだと思う?」


「私も、こんな状態のエリスを戦わせるのは反対……絶対無理」


「……ということだ、エリス。大将命令だ、棄権しろ」


「そんな……! これで負けちゃったら……」


「エリスが真剣になってくれるのは嬉しいよ。だけど、もともと三戦三勝の想定だったんだ。結果は変わらないよ」


「……でも」


「でもじゃない。これは命令だって言っただろ。棄権しろ。対人戦闘っていうのは遊びじゃないんだ。どうしても危険が付きまとう。こんな状態で戦わせて死なせたりしたら、俺は一生後悔する。だから、棄権してくれ」


 ――相手校の生徒を意図して殺してはならない。

 開会式で説明されたことだが、これは文面通りの意味だ。逆に言えば、意図しないのであれば殺してしまっても罪には問われないし、ルール違反覚悟であれば殺されることもあり得る。


 様子見で撃った軽いジャブ程度の一撃であっても、タイミングと状況によっては死も十分にあり得る。今のエリスのように精神が不安定な状態で無理をさせることは絶対にできない。俺が許さない。


 そもそもこれは学院対抗戦だ。学院の威信をかけた戦いではあるが、命を懸けるほどのものじゃない。学院の威信よりエリスの方が大切だ。


「……わかった、棄権するわ」


「ああ、それでいい」


 エリスも理解しているのだ。この状態で戦うことがどれだけ危険で、無謀で、無駄なことなのか。なんとかエリスの説得に成功した。


「ということは十時の第一試合は中止よね。早く説明しないと……」


「そのことなんだが、先鋒の試合を諦めたわけじゃないよ」


「「ええ!?」」


 リーナとエリスの声がハモる。


「あれ、言ってなかったっけ? エリスが棄権する代わりにティアナを出すって」


「わ、私が試合に出るんですか!?」


 俺たちの話を聞いているだけだったティアナは飛び上がった。


「学院対抗戦は、出場選手が棄権する場合、任意で代理を立てることができるんだ。まあ、過去一度も使われたことはないけどな」


「で、でもティアナは何の準備もしてないんじゃ……?」


「準備なんてしなくても、あれだけの【剣製】が使えればもう十分だ。実践で通用するレベルになっているのは俺が保証するよ」


「じゃ、じゃあ本当に私が……!?」


「おう、試合まであと二時間半くらいか、心の準備には十分な時間だな」


「た、足りないですよ!」


「じゃあ棄権して不戦敗をつけるか?」


「そ、それは……他の人とかは……」


「客観的に見て、S組の面子でティアナより強い奴が何人いる?」


「ええと……ユーヤ君と、リーナさんと、エリスさんと……あれ?」


「ティアナより下を使うくらいなら不戦敗を作った方がマシだ。怪我するか、最悪死ぬ可能性もある。カリオン王国の代表もそれなりに強い」


 ティアナを鼓舞するために少し話を盛った部分がある。

 S組の連中は別段弱いというわけではない。昨日の魔力共有である程度分かったが、それなりに強いくらいだ。


 俺やリーナ、エリス、ティアナを見て日々の鍛錬に熱が入っているのもあるかもしれない。


 カリオン王国側の二年生や三年生は歳相応といった印象だった。だが、一年生はどこか違う。おそらくだが、大将のキースはエリスを罠に嵌めることができるくらいには強い。肝心なのは取り巻きの女二人なのだが、嫌な予感がする。


 どこか不気味な印象を受けた。

 ティアナでないと安心して任せられない。


「そっか……わかりました、私試合出ます!」


 ティアナは嬉しそうにはにかみながら、快諾してくれた。

 ふう。これで一安心だ。


「……あっ、ちなみにだがエリス」


「?」


「俺はお前を頼りにしてるし、試合に出ないからと言って遊ばせておくつもりはない。……わかるな?」


「え、ええと……?」


「役割の違いだ。俺が試合をしている間は何があっても対応できない。リーナとティアナは戦闘から十分に回復してないかもしれない。その状況で動けるのはエリスだけだ。だから、その時はエリスに任せる。俺にはエリスが必要だからな」


「わ、わかったわ!」


 エリスが対抗戦メンバーを外されたことで、少なからずショックを受けていることはわかった。ここはしつこくても、『必要だ』と伝えることが不可欠なのだ。


「よし、じゃあ俺は運営委員会の方に変更を伝えてくる。自由にしててくれ」


 俺はそれだけ言い残し、選手の変更を伝えに行った。

 こんなこと前代未聞だと呆れられたが、なんとか変更はできることになった。


 しかし時間がずれて十一時から第一試合、十二時から第二試合、十三時から第三試合と全てのスケジュールが一時間後にズレてしまうことになった。


 第三試合はさっさと終わらせないと空腹の生徒に怒られそうだな……。

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