第42話:最強賢者は結界を完成させる
二人の手に触れた瞬間、大量の魔力が流れ込んでくる。
厳しい修行を積ませたことで、魔力の総量が上がっているのだ。
「……あっ……ああっ!」
「く……うぅ……あっ!」
魔力の共有によって、二人は喘ぎ声を漏らしていた。
「魔力の共有って不思議な感覚なのね……!」
リーナは少し辛そうに顔を歪めながらも、なぜかちょっと嬉しそうだった。……なんでだろう。
二人にとって魔力の共有は初体験だった。先日怪我を負ったエリスに回復魔法を施したが、それに近い。俺の方が魔力量が多いので、二人には多すぎるくらいの魔力が移動している。
「本当にこれだけで魔力を!?」
「こんなの王国騎士団でもできないよね。画期的な技術なんじゃ?」
「もうほんと、なんでもありだね」
傍から見ていた生徒たちも軽く衝撃を受けているようだ。
「みんなボサっとしてないで、手を繋いで!」
レジーナ先生はそう言って、リーナの手を握る。魔力が分散し、さらに俺の魔力量が減る。
次々と生徒たちが手を繋ぎ、一つの円になった。
ここにいる全員の魔力総量が平均化し、総量としては莫大なものになっている。
「よし、これならいけそうだ。さっさと済ませるよ」
それほど手順は多くない。
まず、イメージするのは水だ。
この教室を中心に、流れるように魔力を広げていく。
この魔法学院は生徒と教員が全員寮住まいできるほどの敷地がある。それを全てカバーするのは俺の力では足りなかった。
莫大な魔力で敷地全体を覆ったら、次は結界の構築に入る。
強制解除する魔法は、設置型魔法の全て。発動条件を指定した後、魔力を使った学院施設や魔道具などを強制解除しないように一つ一つ記述していく。
あくまでも、強制解除の対象は設置型トラップだ。
急激な勢いで魔力が減っていく感覚を、皆が共有していた。
「な、なにこれ!?」
「凄い勢いで魔力が……」
「で、でも意外と余裕……?」
例外事項の記述が全て完了し、いよいよ最終工程。
魔法の固定化だ。
これも一種の設置型魔法なのだ、設置したら自動的に効果を発揮してくれなければ困る。設置型魔法は、最後にこの工程が必要なのだ。
そこに残る全ての魔力を注ぎ込む。
ここまでは俺だけの魔力でも足りていた。
最後のこの処理のために、全員を集めたのだ。
「みんな、もう少しの辛抱だ。もう少しで終わる……!」
すぐに固定化をスタートする。
さっきまでは比べ物にならないほどの魔力が、なくなっていく。
この時点で残る魔力は半分を切ってしまった。
急激な魔力不足で、生徒の顔が青白くなっていく。
「うぅ……しんどい」
「頭がクラクラしてきたかも……」
「なんか、寒い……」
体調の変化は危険信号だ。あともう少しなんだが……。
残り四割……三割……どんどん魔力は減っていく。
時間にしてあと三分もあれば完成する。だが、それまで身体が持たないかもしれない。
「耐えられない奴は手を放してくれ! 人によりけりだが、魔力欠乏の症状が出てるはずだ!」
気力を振り絞って叫んだ。だが、一人として手を放す者はいなかった。
エリスの隣にいるティアナが、か細い声で俺の叫びに答えた。
「魔力を共有してるってことは、辛いのはみんな一緒……大丈夫、まだやれます。もう少しなんですよね?」
「あ、ああ……あと二分もあれば終わる」
よし、ラストスパートだ。
一人一人の意識がまだあることを確認し、最後の仕上げをする。
ほぼ魔力ゼロ状態になり、意識が遠のきそうになった。
結界の構築が完了して、魔力の減少が止まると、みんなほっとした顔になり、その場に倒れる者も数名。
「終わったの……?」
隣のリーナが真っ白な顔で力なく尋ねてくる。
俺は意識を集中し、少しだけ魔力を広げて反応を見る。
「よし、成功だ。これで何か仕掛けられてても大丈……」
「だ、大丈夫!?」
さすがに今は少量とはいえ魔力を使うのは辛かった。魔力が枯渇したのなんていつ以来だろう?
「大丈夫。……だけど、今日はまともに動けそうにないな……」