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第40話:最強賢者は許可を得る

 コンコンコン。


「ユーヤ・ドレイクです」


 俺は三人を連れて、学院長室の前に来ていた。

 中から「入ってくれ」との声があってから、扉を開ける。三人には外で待っていてもらい、一人で部屋の中に入った。


「失礼します。……今日は相談したいことがありまして」


 学院長――ウィードは、俺の顔をジッと見た。言葉を交わさずとも、俺が相談したい内容を理解しているらしい。昨日、エリスを含む学院対抗戦メンバーが三学年で三名怪我をしたことは、当然学院長にも伝わっている。


 これに違和感を覚えないほどウィードは無能ではない。

 ウィードは俺のためにコーヒーを淹れてくれた。決して慌てず、落ち着きを崩さないのはこの学院の長としての貫禄だろうか。


 ソファーに向かい合って座り、コーヒーを一口飲んでから、話は始まった。


「昨日三名が負傷した件については学院長の耳にも届いているかと思います」


「うむ、確かに聞いているぞ。ユーヤ君がその三人を治療してくれたともな」


「怪我に関しては解決しています。ただ、こんなことが二度とあってはならない」


「……ユーヤ君は、事故が偶然ではないと思っているのだな?」


「そうです。大会前日に三人が相次いで重症……誰とは言いませんが、これで得をする者もいるでしょうね。学院長もただの偶然ではないとお考えなのではないですか?」


 学院長は、ピクっと肩を揺らして、椅子に深く腰掛ける。


「カリオン王国側の教員については、急遽こちらの教員を配備して警戒しておる。常時行動を共にさせているから、下手なことはできんだろうな」


 学院長は既に手を打っていた。だが、相手校の生徒にまでは手が回っていなかった。


「じゃがわしの立場では相手校の学院生には露骨な警備をすることはできんのだ」


「王国同士の問題にもなり得ますからね」


 警備を妨害と騒がれれば、最悪国際問題に発展するかもしれない。既に相手側が問題を起こしているのだが、明確な証拠がない以上、事を荒立てるのはこちらにとって不利益でしかないのだ。


「うむ……じゃが、これで問題が起きていないことも確認しておる。教員の中に犯人がいたのか、牽制になっているのか……結果として動きはないという状況になっておる」


「それについてなんですが、今日の第一試合で動きがありました」


「なんだと!?」


 学院長は予想外のことだったのか、声を大きくして、少し身を乗り出した。落ち着き払っているように見えても、内心ではハラハラしていたのかもしれない。


「校庭の中央――闘技場にいくつかのトラップが仕掛けられていました。高度な索敵魔法でやっと見つけられたというくらいの高度なトラップです。それにより、こちらの三年生の魔法が全て封じられ、危うく大怪我……酷ければ死に至る可能性もありました」


「それをユーヤ君が止めてくれたと?」


「そうです。ただ、相手校の三年生もかなり動揺しているように見えました。少なくとも彼女が仕掛けたわけではなさそうです」


「ふむ……ちなみに、ユーヤ君は犯人の目星がついているのか?」


「……はい」


 一瞬迷ったが、話しておくことにした。なにせ、確証がない。キースの反応と、俺の勧だけを頼りに導き出した答えだからな。


「犯人……というより、犯行に関わった可能性がある者は、おそらく一年生大将のキースです。残りの一年生二名も関わっている可能性はあるかと」


「ふむ……。では、教員を配備し、遠くから警備させるとしよう」


「いえ、それはちょっと待ってください」


 それじゃあ、ダメだ。そんなことをしたところで、完全には防げない。


「既に何らかのトラップを設置している可能性もあります。……それに、この学院の教員では正直なところ力不足です。エリスに気づかれないレベルのトラップを仕掛けたんです。用心するに越したことはありません」


「ふむ……じゃが、そうなると他に打つ手が……」


「そこで俺に考えがあります。……どうか、許可を頂ければ。そのことで今日は相談に来たんです」


 俺は、さっきの昼食会議の後に思いついたことを学院長に丁寧に説明した。


「まず、犯人の犯行はこれまで全て設置型のトラップによるものです。事故を装って、本校の学院生をあわよくば殺害しようと企んでいると仮定すれば、直接の実力行使をして無差別に殺すという可能性は低い。……そこで、この学院の敷地全体にあらゆるトラップを無効化する結界を構築したいと思っています」


「そんなことができるのか……? 時間もほとんどないのだぞ」


「俺一人の力ではできません。……圧倒的に魔力量が足りない。ですが、一年Sクラスの全員分の魔力があれば、なんとか足りるはずです。構築自体は三十分もあれば終わります。ですが、その場合にはSクラスの全員に事情を説明するしかありません。学院長には、結界構築の許可と、箝口令を出して頂きたいのです」


 学院長自ら箝口令を敷くということ自体が、事の重大さを認識させることができるし、一教師である俺やレジーナ先生がお願いするよりもよっぽど強固なものになるはずだ。


「……ふむ、結界構築の件、できるというのなら任せてみよう。箝口令もわしの名前で出す」


「ありがとうございます。……もちろん、この結界は設置型トラップを無効化するものなので、実力行使に出た場合には対応できません。その場合の対応や監視を含め、引き続きよろしくお願いします」


「うむ、心得た。……しかし、この一件含めユーヤ君には世話になってばかりだな。教師がこれでは、些か不甲斐ない」


 心なしか、覇気が無いように聞こえた。


「俺には力がある。だから中心になって動いているだけです。教師全員の監視なんて、俺一人では絶対にできません。不甲斐ないなんてことは決してないです」


「そうか、そう言ってもらえるとこちらとしても気が楽になるのだが……」


 俺は学院長室を出て、外で待っていた三人に事情を説明した。

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