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第38話:最強賢者は観戦する

「ねえユーヤ、昨日の犯人って、キースなの?」


 リーナが周りに聞こえないように、俺の耳元に口を近づけて、ヒソヒソと聞いてきた。

 エリスは少し動揺しているようで、ずっと遠くを見ている。


「まだ確定したわけじゃないけど、その可能性が濃厚だと思う」


「……そう」


「キースが犯人だったとしても、俺たちがやるべきことは変わらない。二日後に試合で勝つことだけだ。奴らがこの試合に勝つためにやったんだとしたら、こっちは真っ当に戦う――それだけだよ」


 俺だって、キースが犯人だとしたら全身の骨を折ってやりたい……そのくらいの思いはある。だけど、証拠がない以上きちんとルールに従って、試合の結果でお返しする。……そうするしかない。


「でも、なんでエリスが狙われたんだろう……。先鋒のエリスを狙うより私やユーヤを狙った方が効果が大きそうなのに」


「それは多分、単純なところだと思うぞ。一番強いと思ったやつを狙い撃ちにしようとしたんだろうな」


「一番強いのはユーヤでしょ?」


 リーナは意味がわからないという感じで、頭を悩ませている。


「先鋒、中堅、大将が実力順とは限らないんだ。先鋒と中堅に実力者を配置して、大将を捨てるってやり方を取ることもできる」


「じゃあ、エリスが一番強いって思われてたってこと?」


「そういうことだな。多分、奴らがそう判断したのは、エリスが【剣士】だってところだと思う。普通は【聖騎士】は弱い職業だし、【賢者】なんて最弱って言われてるくらいだ。……何も知らない人が見たら、俺を捨て駒だと思うだろうな」


「ユーヤが捨て駒だなんて……」


「実際、二年生と三年生の被害者は二人とも大将……狂戦士だった。一番強い奴を潰してしまえば、あとの試合は楽になるって魂胆だろう」


「ほんっと汚い連中ね」


「そうだな。……でも、何の狙いがあるのかが正直分からないが――」


 と、話をしている間に、三年生先鋒の試合が始まった。

 両者とも、職業は【狂戦士】。……というか、二年生と三年生のメンバーは全員が【狂戦士】だ。一年生の代表者に一人もいないということがそもそもイレギュラーな状態なのである。


 両者ともに激しい魔法の合戦が繰り広げられた。詠唱魔法は、発動速度を犠牲にし、発動魔法が筒抜けになるデメリットがある。……間違えた、デメリットしかない。


 でも、そのデメリットを最小限にするべく常に移動しながら魔法を繰り出していた。なんだろう……無駄でしかない詠唱だが、ここまで極めてしまえば一種の芸術の域に達しているというか、見ていて楽しくなってくる。……俺はやりたくないけど。


 どちらも耐久力に優れているし、魔法の威力もそう高くはない。多少被弾してもダメージが大したことはないので、持久戦になっていた。


 どちらかの魔力切れか、三十分の時間経過を待つという結果になりそうだ。実力が拮抗した者同士が魔法で戦うと、こうなりがちだ。


 十五分経過。

 試合に変化が起きた。アリシア王国側の三年生が連続して魔法の発動に失敗したのである。


 魔法の発動に失敗するのは、魔力不足か、ミスによる定義破綻。俺が見る限り魔力量はまだ十分あるし、詠唱魔法で定義破綻するなんて普通はない。よっぽどの初心者ならなくはないが、魔法学院の三年生にもなってこれは少しおかしい。


 応戦できずにいたアリシア王国の三年生に、相手校からの百発を超える魔力弾が襲う。遠目から見ても、かなり焦っているのがわかった。いくら一発の威力が低いとはいえ、この量を一度に受ければただではすまない。最悪、命を落とす可能性すらある。


 焦っているのは、相手校もそうだった。一度発射した魔力弾を止める術を、普通の学院生は持ち合わせていない。このままだと相手を殺してしまうかもしれない――そんな焦りに見えた。


 この連続する魔法失敗は、相手校の三年生先鋒ではない……?

 俺は一瞬で判断して、魔力を薄く広げて【索敵魔法】を使う。校庭の中央――闘技場にいくつかの魔法阻害トラップが仕掛けられていることに気が付いた。


 反射的に全てのトラップを解除し、相手校の百発の魔力弾を全て無効化する。もちろん、痕跡は残さないように工夫した。突如消えた魔力弾に、わっと驚きの声が会場全体に響いた。


 当人たちもかなり驚いているようで、一瞬の間試合が止まる。すぐに試合は再開され、激しい応酬が続いた。


 ――結果は、審判の判定により、アリシア王国側の先鋒の勝利という結果になった。

 チラッと相手校の観戦場所を見ると、キースが軽く舌打ちしているのが確認できた。彼は、この試合の中で起こっていたことを正確に把握していたってことか。


 エリスが被害を受けた時と同じ設置型のトラップ。相手校の三年生先鋒を見る限り、狙ってやっていたわけではない。俺はなんとなくキースが単独で犯行したのではないかと思い始めていた。


 ただの勘だが、俺の勘はよく当たる。実力的には、普通に戦えばキースに負けることはないはずだ。……何事もなく学院対抗戦を終えられればいいんだが……さて、どうなるんだろうな。


 もし俺が罠を阻止していなければ、三年生は死んでいたかもしれない。どちらにせよ、油断はできない。

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