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第33話:最強賢者は様子を見に行く

 その二日後、リーナとエリスの二人はオリジナル魔法の創造に成功し、俺に見せてくれた。どちらも自分の戦い方を理解し、役立ちそうな魔法に出来上がっていた。


 俺は一通りの改善点を指摘して、学院対抗戦まではその改善をするよう指示した。ティアナの方は俺から【剣製】に関して教えることはもうない。


 あとは彼女自身で地道にスピードアップのための練習を重ねるしかないのだ。

 そんなことで、今日は一同集まっての研究会はお休みになった。


 暇になった俺は、エマエルとクレンテの様子を見に行くことにした。

 王都を出て故郷に帰るための資金が必要な彼女たちに、俺は仕事を与えた。学院対抗戦に向けての事務作業をこなすことで、金貨五十枚を与えられることになっている。


 一週間後に迫った対抗戦。この時期だともう事務作業はほとんどが終わっているはずなので、事務室でゆっくりしているはずだ。


 俺は事務室の扉を開けた。


「あっユーヤさん!」


 俺が入ってきたことに気づいたエマエルが、扉の前まで迎えてくれた。


「久しぶりだな。えーと、クレンテとは初めて顔を合わせるかな?」


 クレンテはエマエルより一歩離れたところから遠慮がちに覗いている。


「あなたがユーヤさん?」


「そうだよ。その様子だともう身体は大丈夫だな?」


「あ、ありがとうございました……! お礼が遅くなって。その、いつも入れ違いになってしまって」


 最初の数日は彼女たちは忙しかっただろうし、その後は移動することも多かった。


「その気持ちだけで充分だよ。……それで、仕事の方はもう大丈夫か?」


 俺の質問に、エマエルが答える。


「最初の数日は忙しかったんですけど、昨日からはほんと何も無いって感じで……こんなので金貨五十枚も頂くが申し訳なくなります」


「事務長の人は二人はよく働いてくれてるし、このままいてほしいくらいのこと言ってたぞ?」


「そ、そうでしたか……それは嬉しいです」


 エマエルは言葉がなくてもわかるくらい、嬉しそうにはにかんだ。


「じゃ、俺はそろそろ出ていくけど、引き続き頑張ってくれ」


「はい、わざわざありがとうございました!」


 俺はエマエルとクレンテにそれだけ伝え、外に出ようとした。


「ど、ど、ど、ど、どうしよう!?」


 事務室の隣に設置されている倉庫部屋から、奇声が上がった。

 あの声は……事務長か。


「私、ちょっと様子見てきます!」


「あっ、私も」


 エマエルとクレンテは、倉庫部屋に駆け込んだ。

 さて……事務長のあの声はまた面倒なことになってそうな気がする。直感的に。ただ、事務長が困るってことはあの二人も困るかもしれないんだよな。


 やれやれ、様子を見に行くか。


 ドアを開けて、倉庫部屋に入る。

 中には様々な魔法のアイテムが箱に入って雑に積まれている。まあ、いわゆる倉庫だ。そのままだけど。


「事務長、何かあったのか?」


「ユ、ユーヤ君! よく来てくれたね!」


「言っておくが、俺にもできないことはあるからな? まずは状況を説明してくれ」


 教員の中には、俺に頼めばどんなトラブルでも解決すると勘違いしている者がいる。戦闘に関してはまあ大抵のことはなんとかなるが、それ以外のことは人並みにしかできない。なのに期待だけが高い。彼女もそんな感じだ。


 数日前に大切な書類を無くしたといって困っていたので、探知系の魔法で探したらなぜか頼られてしまうことになった。


「それがね、学院対抗戦の試合を記録する魔影水晶を探しに来たんだけど、上から物が落ちたせいで割れちゃってたんだよね……」


 魔影水晶というのは、わかりやすく言えばビデオカメラのことだ。水晶の種類によって記録できる時間は異なるが、大切な試合や戦場の記録で使われるらしい。


「そりゃこんな積み方してたら崩れるだろうよ。……それで、替えのものはあるのか?」


「無いから困ってるんだよ……ユーヤ君、助けて!」


「ちゃんと倉庫くらい掃除しておけよ……。普段は暇な部署なんだから」


「わかったよう……次からちゃんとやる。だから助けて、お願い!」


「可愛くお願いしても出来ることは変わらないよ。まあ、今回はなんとかなりそうだけどな」


「さすが天才ユーヤ! 直してくれるんだよね?」


「今回だけにしてくれよ?」


「する! 今回だけって約束する!」


 またなんか押し付けてきそうだが……まあ、試合が記録できないとなると、学院としては大損失だ。今回ばかりは意地悪もしていられない。


 俺はクレンテの病気を治したのと同じ要領で、この水晶の時間を戻していく――。

 人間の身体に比べれば構造が単純なので、修復にかかる魔力と時間は少ない。


 あっという間に水晶は元通りの姿を取り戻した。


「おお……すごい! すごいよユーヤ君! もう大好き!」


「はいはい、わかったわかった」


 俺は抱きついてくる彼女を引き剥がした。


「今のはわりと本気だったんだけどな。……まあいいや、ありがとね!」


「どういたしまして。じゃあ、今度こそ俺は行くぞ。エマエル、クレンテ。次会えるのは多分学院対抗戦当日だと思う。それまで、身体とか壊すんじゃないぞ?」


「は、はい! お気遣いありがとうございます」


「ユーヤさんも頑張ってください!」


 エマエルとクレンテの返事を聞き終えてから、俺は倉庫部屋を出た。



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