第32話:最強賢者は思わぬ収穫を喜ぶ
魔法演習室を出て、校庭に向かった。ティアナにはそのまま部屋でやってもらっても良かったのだが、リーナとエリスのリフレッシュも兼ねている。
外に出れば少しは気分もスッキリするだろう。
校庭の端の方の日陰になっているところについた。
「じゃあ早速やってもらってもいいか?」
「はい!」
ティアナは深呼吸をしてから、剣製に臨んだ。彼女は今、頭の中で精密な魔法式を組み上げている。魔法式自体を読むことはそんなに難しくないので、俺が作ってきた魔法をそのまま再現しているということだ。
用意が完了して剣製の発動が始まった。
ゆっくりと光の粒子が集まり、次第に剣の形をとっていく。
でも、まだ剣の形は歪なままだ。
特に魔法式が間違っていたりとか、魔力が不足している感じはない。
ティアナは最後の仕上げとばかりに、剣を綺麗な形に整えていく――。
そして最終工程。
実体化だ。このままでは剣はただの魔力の塊なので、この世界で手に取れるように実体化の作業を行わなければならない。
ティアナは緊張しているのか、額から汗が垂れた。
パリンッ。
ガラスが割れるような音が響いて、出来上がりかけていた剣は形を失った。練られた魔力が霧散してしまう。
「またやってしまいました……」
ティアナはがっくりと項垂れた。
あと一歩のところで上手くいかない。それは悔しいのだろう。
「上出来だ。……っていうか、もう完成してるじゃないか」
「え?」
「ティアナは最後の実体化で上手くいかなくなってるんだよな」
「……そうです」
「なぜだかわかるか?」
「それがわからなくて……」
「答えは、時間切れだ」
「時間切れ?」
ティアナは俺の言っていることが理解できていないらしく、オウム返しになる。
「魔法ってのは、発動に失敗したらその辺に霧散しちゃうよな? 失敗したとしても、使った魔力は戻ってこない」
「はい、それはわかります」
「でだ、なぜそうなるかと言うと、魔力は時間が経つごとに、どんどん離れて行こうとする性質があるんだ。組み上げてから発動まで大体三秒以内にできないと、失敗する。そういう風にこの魔法式は組んである」
「三秒!? そ、そんな無茶な!」
「実戦で使おうとしたら、ギリギリ使えて三秒だよ。それより長いと使い物にならない。時間が長くなればなるほど、無駄が出るからな」
魔力が離れていくということは、目に見えないレベルで剣があらゆる方向に膨張するということだ。できるだけ理想通りの形にした方が、強度や威力は高くなる。
剣製は発動できるかどうかよりも、発動速度を極めることに意味がある。
「私、どれくらい時間かかってました?」
「十秒だな」
「十……」
「気を落とすことはない。今の時点で十秒なら、将来的には一秒を切れるセンスがあるよ。最初に言ったと思うが、ティアナはじっくり確実に強くなっていけばいい」
「発動速度を速めさえすればもう完成っていうことでいいんですか?」
「その通りだ。かなり順調だから、そのまま頑張れ」
「はい、頑張ります!」
ティアナの実演を、リーナとエリスは真剣に見ていたようだった。
「ユーヤが同じ魔法を使ったときは速すぎて気が付かなかったけど、あれってあんなに複雑な魔法なのね」
「慣れればどうということはないけどな。それよりリーナ、作りたい魔法の方向性は見えたか?」
「ちょっとだけね。良いヒントはもらったかも」
「そうか。……エリスの方はどうだ?」
「私はやっとやりたいことが分かったよ。よく考えれば、私にはこれしかない」
「それなら大丈夫そうだな。完成次第、俺に見せてくれ。直したら良いところがあったらその時指摘する」
本当にリフレッシュだけのつもりだったのだが、予想外の収穫があったみたいで良かった。
これでリーナとエリスが自分だけの魔法を手に入れたら、どこの学校だとしても同世代に負けることはない。