第30話:最強賢者は宿題を与える
魔法式研究会の顧問を引き受けることになった。とはいえ、これからやることが何か変わるわけではない。今日は学院対抗戦で相手校に勝つために、集めたのだ。ティアナは今回の対抗戦に出るわけではないが、強化しておくことには意義がある。
「それじゃあ今日の活動を始めるか。……と、その前にティアナの職業は魔術師だったよな?」
「はい……それは覚えてくれてたんですね」
「まあな」
名前は憶えていなかったが、入学当初の自己紹介で生徒の職業だけは覚えていた。
聖騎士、剣士、狂戦士は基本的には物理能力に秀でている。対照的に魔術師、回復師は物理で弱いが、魔法に強い。
例外的に賢者は両方に秀でているのだが、これは俺の他にほとんどいないので、無視していいだろう。
「魔術師の割には体力が凄いが……まったく無駄というわけではない。使い方次第だ」
「そ、そうなんですか……そう言ってもらえると救われた気がします」
ティアナは恥ずかしそうに頬を染めた。
「リーナとエリスに関しては対抗戦のための実践的なことを教えるが、ティアナにはもっと先を見た勉強をしてもらう。具体的には、これをやってもらいたい」
俺はオリジナル魔法【剣製】を発動する。光の粒子が集まり、剣の形になっていく。
「こんなの見たことないわ!」
「不思議な剣だけど……切れ味の凄さは見ればわかるわ」
リーナとエリスが口々に驚く。
ティアナは口をぽかーんと開けていた。
「リーナとエリスの二人にも最終的にはこれを使いこなしてもらうことになるが、時間がない。まずはティアナに教える」
「で、でも私は魔術師ですよ……? 剣なんて使えても意味がないんじゃ」
「それは違うぞ。剣製は魔力の剣だ。魔術師が接近戦をするのは見たことがないが、逆に言えばそれが強みになる。……ティアナは長年の筋トレで魔法使用者の生命線とも言える魔力の量がとてつもない。他の四人は魔力が足りなくてまだこれは無理だ。でも、ティアナなら勉強さえすれば今すぐでも使える」
「……強み」
「どうだ、やる気になったか?」
「はい……!」
ティアナが趣味と言って続けてきた筋トレは無駄ではない。何万回もこなした素振りは、下手に誰かに教わった剣技をも凌ぐ。魔術師とは思えないほどの身体パワーに、大量の魔力。魔力の使い方さえ覚えさせれば、めちゃくちゃ強くなる。
今までのティアナは魔力の使い方がうまくなかったせいで、魔術師としては燻っていた。だが、魔力コントロールなんて魔法という概念を頭で理解させ、意識的に操作することさえできれば実は難しいことではない。それには多少の時間がかかるのだが、幸いにも時間はたっぷりある。
「そして次に二人の強化方法だ。剣製に関しては今後ゆっくり身に着けるとして……対抗戦までにはオリジナル魔法を使えるようになってもらう」
「オリジナル魔法? ユーヤが作った魔法を覚えるってこと?」
リーナが頓珍漢な質問をしてくる。
「それは俺のオリジナル魔法だろ。そうじゃなく、リーナとエリスそれぞれのオリジナル魔法だ」
「ええ!? まだ無理よそんなの! まだぜんぜん……」
「特別高度な術式じゃなければ、今ある知識だけでも十分だよ。そもそも、知識だけがあっても使いこなす力が無ければ魔法式を覚える意味はない。大抵の魔法は魔法式の記述方法には複数ある。最適な記述方法というのは存在するが、とりあえず使うだけならどんな書き方でもいいんだよ」
「でも……対抗戦に勝つのが目的ならユーヤが作った魔法を使う方がいいんじゃ?」
「魔法には適正というものがあって、俺が使いやすい魔法はリーナにとって使いやすいとは限らない。俺は賢者で、リーナは聖騎士なんだから向き不向きが違うからな」
ここまで説明すると、リーナは納得したようだ。
「……やることはわかったけれど、具体的にはどうやって作ればいいのかしら」
「エリス、ナイスな質問だ。ちょうど今からそれを説明しようと思っていたんだよ」
俺はふふっと笑みを浮かべた。
空間魔法で収納していた本を三冊取り出して、机の上に置く。
二冊は同じもの。一冊は違うものだ。
二冊をそれぞれリーナとエリスに手渡し、残りの一冊をティアナに渡す。
「えっと……?」
嫌な予感がしたのか、リーナとエリスが顔が引きつっている。
……うん、だいたい予想通りだ。
何も知らないティアナは不思議な顔で二人を見ている。
「明後日にはまたここに集まると思うんだが、それまでに一度全部読んできてくれよな!」
「はあああああああああああ!?」
「言うと思ったわよ!!」
「ふぇ!? ええ!? これ全部ですか!?」
それぞれの本は俺がチマチマ書いていたものだ。リーナとエリスに渡した本は三百ページほど。ティアナに渡した本は四百ページある。
ここに全てのエッセンスが詰まっている。
「だってこんな基本的なこと、俺が教えるより読んだ方が速いからな。……じゃ、よろしく頼む」
「はぁ……いつものことだけどね」
「いつものことながら無茶ぶりよね」
「ユーヤ君ってスパルタなんですね……」
諦めて努力することにした三人はそれぞれ本を開いて読み始める。
嫌々読み始めた割には、みんな真剣に読んでいるじゃないか。
本を書いた身としてはちょっと嬉しくなってしまうな。