第29話:最強賢者は顧問を受け継ぐ
学院長にエマエルとクレンテの雇用について話すと、二つ返事で許可がもらえた。
許可が下りたので、二人にそのことを話して、今は学院の寮に住まわせている。食事に関しては二人がここを出るまで保証されている。
ひとまずは目の前の問題をすべて片づけることができた。
◇
授業が終わり、放課後になる。今日からは、筋トレに関しては一日おきにすることになっている。このことは既に五人には伝えてある。
レムとアミには学科の勉強をしておくよう指示し、別行動だ。
俺はリーナとエリス、新たに加わったティアナを連れ、魔法演習室に入った。
「お久しぶりです。アイン先生」
数日ぶりの魔法演習室では、アイン先生が難しい顔で魔法式とにらめっこしていた。俺たちが入ってきたことに気づくと、上機嫌になってペンを置いた。
「おお、ユーヤ君じゃないか。最近あまり見ないと思ってたら……なんか増えとるの」
アイン先生はティアナを見て、首を傾げた。
「ティアナは新入会員ですよ。これからここで勉強することになるから、よろしく頼みます」
「ふむ、了解した。入会に関してはわしの方で処理するとして……うん? なんかおかしい気がするのう」
「何か問題がありましたか?」
「いや、問題というわけではないんじゃが……噂によるとユーヤ君は教師職に任命されたとか?」
「ああ、そのことですか」
俺は右肩の紋様を、アイン先生に見せる。こう何度も見せていると、だんだんと慣れてきた。
「教師職とは言っても、お飾りみたいなもんですけどね」
「だとしても身分はわしと同じということになるのう」
言われてみればそうだ。授業は普通に受けていたが、どの先生もどこかやりにくそうに授業していた気がする。お飾りといえども、俺は他の教員からは同僚だと思われているわけだ。
「前までは立場的にわしが顧問になるしかなかったのじゃが、今ならユーヤ君が顧問になることもできると思うんじゃ」
「確かにそれはそうですけど……経験というのもあるじゃないですか。アイン先生は教員としては俺より大先輩ですよ」
「その大先輩が、ユーヤ君から専門分野で教えてもらっているのじゃ。これでは色々とおかしいじゃろう」
アイン先生は魔法式研究会の顧問を俺に譲りたいと言いたいらしいことはわかった。規則上は問題なくできるとしても、俺に務まるのだろうか?
まだ顧問の仕事というものが何かわかっていない。……教えてくれと言えば教えてくれそうだが、突発的なことに対応できる自信がなかった。
「引き受けてもいいんじゃない? 顧問」
俺が頭を悩ませていると、隣からリーナの声が飛んできた。
「どうしてそう思う?」
「アイン先生は魔法学院の古株だし経験豊富だと思うけど、発言力はそれほどなさそうじゃない。……ほら、こんな感じだし」
「……ああ、言いたいことはわかる」
アイン先生は良くも悪くも研究者なのだ。ただ、コミュニケーションに関しては確かに見ていて不安になる。前世では俺もコミュ障だったから、同類は見ればわかるのだ。
俺の前世とアイン先生の決定的な違いはニートかそうじゃないかということにあるが、それはさておき。
「発言力に関して言えば、私もユーヤがやった方がいいと思うな」
今度はエリスが俺を推してくる。
「なんていったって、ユーヤが教員任命されたのは、学院長がごり押したって話じゃない?」
「確かにそんな感じだが、それって関係あるのか?」
「関係大有りよ! ユーヤは一見、一年目の新任教員だけど、実際は学院長からも一目置かれているような存在ってわけ。何かあったときにそれって凄く強くない?」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
部活動や研究会の予算を決める際は、顧問の力関係が配分を左右することもあるそうだ。これに関しては交渉が上手そうに見えないアイン先生より、俺の方が適任と言えるかもしれない。
「どうじゃ、ユーヤ君。やってくれるかの?」
アイン先生は真っ直ぐ俺の目を見て、詰め寄ってくる。
現顧問のアイン先生からはお願いされて、会員の二人からは推薦されている。
断るに断れねえ……。
「……じゃあ、わかりました。やるだけやってみます」