第24話:最強賢者は廃屋を見つける
ティアナ改造の待ち時間は、全員一致でその辺を散策することにした。
俺を先頭に、路地を奥へと進んでいく。
「レムとアミは王都に住んでたんだっけ?」
「一応そうです。でも住み始めたのは本当に最近で」
アミは少し含みある言い方をした。
「じゃあ、二人はこの奥に何があるかは知らないってことか?」
「そうです」
二人は顔を見合わせると、頷いた。
「リーナも入学試験のために来たのが初めてみたいだし……エリスもそうなのか?」
「私は王都の出身だけど……こんな場所には来たことないわね」
「ふむふむ」
……ということは、この先に何があるのか誰も知らないということだ。
俺は風景だけは知っているが、建物の中などはゲームでは設定されていない部分だったため、よく知らない。
人通りの少ない場所はあまり治安が良くなかったりするので不安はつきまとうが……まあ、この連中ならなんとかなるか。
「よし、じゃあいくぞ」
俺は四人を引き連れて出発した。
曲がり角を右に曲がり、奥へと進んでいく。
街並みは最初の床屋がマシに見えるくらいボロボロになっていた。スラム街さながらに荒れ果てている。王都にも貧民街があることは知っていたが、現実はかなり過酷なようだな。
建物からは時々生活音がするから、誰かが住んでいるのは間違いない。
チラッとレムとアミの二人を見る。
あの二人は親を失って独り身だ。彼女たちに力が無ければ、冒険者として働くことができずここで生活するしかなかったかもしれない。
ゆっくりと歩みを進めていると、今度は十字路についた。
右へ曲がれば一周周って繁華街へと戻れる。
左に曲がれば、同じような建物が並んでいる。
正面には、ビルを彷彿させる大きな建物がある。これも風化でボロボロになってしまっている。
「んー、どうする? 今なら通りに戻れるが」
「せっかくここまで来たんだし、どこか探検してもいいんじゃないかしら」
「あのなぁリーナ、誰か住んでたらどうするんだ?」
「こんなところに住んでいるのは犯罪者くらいしかいないわよ」
「そんなのがいたらヤバいから言ってんだろ」
と、まあ言ったものの、本当にぐるぐると道を歩くだけってのもちょっと物足りない気がするのは分かる。俺のように精神年齢四十歳のおっさんはリスクを回避しようとするが、十代の若者は怖いものを知らないからな。
「ユーヤは反対するかもしれないけど、私はあの中に入ってみてもいいと思う」
「エリスがそんなことを言うなんて珍しいな。理由を聞いてもいいか?」
「ええ。……廃屋には、たまに魔物が紛れ込んでいることがあるのよ。人間の知らない間に繁殖して、ある日突然暴れたという事例がなくもないわ」
その話なら聞いたことがある。都市伝説みたいな話だが、実際に起こった例はあるらしい。
「でも、その話だとこの辺にある建物を全部調べなきゃいけなくなると思うんだが」
「私もいつもならこんなことは言わない。……でも、正面の廃屋は入り口が壊れているのよね」
魔物が廃屋に入るには、壊れている入り口から入るか、入り口を壊して入る。……とは言っても、かなりのレアケースだ。少し距離があるとはいえ、ここは繁華街からそう遠くない位置にある。魔物が住み着くならもっと離れた場所にありそうなものだが。
「……単に雨風に打たれて劣化しただけじゃないのか?」
「そうかもしれないけど、入ってみる理由にはなるんじゃないかしら?」
「まあ、それもそうか」
おそらくあの中には何もないのだろう。何事もなければそれでいい。もし本当に魔物がいたら、駆除しておけばいい。四人はこの数日でかなりパワーアップしている。それほど心配することでもないのだ。
お手軽に探検気分を味わえるなら、アリな選択なのかもしれない。
「まあ何もないとは思うが、一応確認しに行くか。レムとアミもそういうことでいいか?」
「はい!」
「異存ありません!」
「よし」
床屋を出てから十五分くらい経っている。ここから戻るのにも十五分かかるとすれば、探検できるのは約一時間半か。行って戻るくらいなら十分だろう。
俺が先頭になって、正面の建物に入り口から入っていく。魔物らしい悪い気配はない。
中は昼間だというのに薄暗い。足元が見えないくらいではないのだが、少し不安になるような暗さだ。
全員が建物に入ったことを確認する。
「よし、まずは階段を――」
と言おうとしたその時だった。
「う、動くなっ! 抵抗すると殺すぞ!」
背後からまだ幼い少女の声がした。俺の背中にナイフの先が当たっている。
焦ることはない。何の変哲もない金属製のナイフだ。こんなもので俺を傷つけることなどできるわけがないが――。
「抵抗はしない。それで、俺たちはどうすればいい?」
「い、いい度胸じゃねえか。……上までついてこい」
リーナとエリスが攻撃態勢に入ろうとする。
俺はそれを目で静止した。
「わかった。そこの四人も一緒でいいな?」
「ったりめえだ! 一緒についてこい!」
俺は背中にナイフを突き立てられたまま、階段を上っていき、最上階まで連れていかれた。