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第21話:最強賢者は罵られる

「筋トレスペシャルセットは、身体中の筋肉をある程度バランス良く鍛えるために俺が考えたものだ」


 エンチャントなどの魔法による補正で一時的に攻撃力を上げることはできる。でも、その上昇幅はもともとの攻撃力に応じて変化するため、魔法さえ極めれば身体を鍛える必要がないなんてことはない。


 腕の筋肉だけを鍛えても、足を鍛えていなければ踏ん張ることができず、ポテンシャルをフルに発揮することはできない。

 そんな事情で全五種類のトレーニングをセットにした。


「まず最初にやってもらうのはデッドリフトだ。このバーベルを見てくれ」


 ティアナが見たことを確認して、説明を再開する。


「これは百キロの重さがある。両手で上げて下ろす動作を百回してもらうんだが……まずはフォームを教えないとな」


 デッドリフトはバーベルがかなり重いことから、正しいフォームじゃないと腰を怪我してしまう可能性がある。どんなことをするにも腰が悪いとネックになる。

 前世でヘルニアだったおじさんが苦労していたことを思い出すと、絶対にフォームを叩き込もうという気になった。


 既に他の四人には叩き込んである。最初は少し戸惑っていたが、慣れるとこの方が楽なので、しっかりと身についている。


「まずは俺が実演して見せよう。しゃがんだ状態からバーベルが離れないように持って……こう、下から上に持ち上げて、最後は直立する。こんな風に密着させる感じじゃないと腰を痛めてしまう。ここは丁寧にやるように」


「ちょっとやってみてもいいですか?」


「もちろんだ」


 隣でティアナがバーベルを持ち上げる。身体に密着させて、下から上へ。一連の動作は俺が説明したとおりだ。なのだが……。


「ちょっと軸がブレてるな。もう少し真っ直ぐ持ち上げる感じにしてみよう」


 俺の指摘を聞いて、ティアナが再度バーベルを持ち上げる。

 今度は真っ直ぐ持ち上がり、軸も安定している。だが、何かが違う。言葉では表現できないくらいの些細なズレではあるのだが、最初に完璧にしておかないと大変なことになる。


「ちょっと失礼するぞ」


 俺はしゃがんだままのティアナの背後に移動し、腰の辺りを支えてやる。


「きゃっ……! ユーヤ君……大胆……」


「ん? こういうのは身体で覚えた方が早いとおもったんだが」


「い、嫌ではないので……そのまま続けてください」


「わかった、そのつもりだ」


 俺は尻、腰、脇と気になった部分を直してやり、理想的なフォームを身体で覚えさせる。変な声が漏れ出たような気がしたのだが、もしかしてバーベルが重すぎたのだろうか?


「よし、これで大丈夫だ」


 そんなこんなで無事にフォームを叩き込むことができた。


「あ、ありがとうございます!」


 ちょうど十分、四人も準備ができたころだろう。


「……ん? どうした?」


 ジーっとこちらにジト目を向ける四人組がいた。

 手取り足取りフォームを教えていただけなのだが、ジト目を向けられるようなことしたっけな。


「変態」


「セクハラ」


「浮気者」


「なろーしゅ」


 リーナ、エリス、レム、アミが口々に俺を罵る。

 なんだろう、俺なんかしたっけ……。でも俺が悪いことしたっぽい空気なんだよなぁ。


「えっと……なんかすまんな」


 ◇


 覚えのないことで罵りを受けた後は予定通り筋トレスペシャルセットを開始した。

 四人はティアナとスピードを競い始め、最初から物凄いペースでノルマを消化していた。だが、無理をして長く続くはずもなく……。


「はぁ……しんどいっ……もう限界!」


 などと声が聞こえてくる。

 俺とティアナは一定のペースを保ち、ほぼ同時にデッドリフトのノルマ百回を終えた。


 上体起こし、腕立て伏せ、懸垂、スクワットの千回を軽くこなした頃には、ティアナの額に汗が浮かんでいた。息切れこそしていないものの、体力が無尽蔵ではないらしい。

 現時点で俺の体力を超えているのかもしれないと思っていたから、ちょっとだけ安心した。

 ちなみに、俺は二セット終えたくらいで汗が滲み始める。まだまだ余裕だ。


 俺たちが三セット目に入る頃に、他の四人は一セット目が終わるくらいのペースで進んでいく。四人の名誉のために言っておきたいのだが、彼女たちも十分なハイペースでトレーニングを進めている。地球の常識に照らしてほしい。中学三年生の少女がこのメニューをこなせるだけで凄いのだ。


「――お疲れ様ですっ!」


「お疲れさん」


 俺がノルマを終えてから五分くらい経って、ティアナが無事にノルマを終えた。

 リーナとエリスが二セット目の後半、レムとアミが二セット目の中盤という進行度合いだ。

 ボーっと四人を眺めていると、横からティアナの声が聞こえてくる。


「あの、私四セット目やってもいいですか!?」


「ダメだ」


「!? ……ど、どうしてですか?」


「三セットに設定しているのにはちゃんと意味がある。……筋肉は修復するのに時間がかかる。ある程度の余裕は見ているが、四セット目となると危険だ。この筋トレスペシャルセットは三セット終えてから最低でも一日空けないといけない」


「そ、そうだったんですか……すみません」


 申し訳なさそうに謝るティアナ。怒ったつもりはないのだが、厳しく言っておかないと暴走しかねないからな。筋トレはただガムシャラにやるのが効率的とは言えない。


 俺とティアナは四人がノルマを終えるまで、ゆるりと見守るのだった。

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