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第20話:最強賢者は驚愕する

 一時間が経過した。

 最初の三十分はみんな一定のペースを保てていたのだが、そろそろペースが落ちてくる頃合いだ。ふとレムを見ると、既に息が上がっていて、ペースが落ち始めている。

 最初の頃と比べれば遥かに持久力は伸びているのが、一朝一夕の努力で極端に変化するというわけではない。日頃の努力が積み重なって力になるのだ。


 俺は始めたのが早かった。だから一万回の素振り程度ではなんとも思わない。けれど、初心者の頃は辛くて当たり前なのだ。

 ……さて、ティアナはどんな調子だろうか。

 横目で彼女を確認する。


 ……あれ?

 ティアナは息が上がるどころか、汗一つかいていなかった。それなのに一定のペースで土剣を振り続けている。今日初めて一万回にチャレンジした者とはまるで思えない。

 しかも、他の四人より明らかにペースが速いのだ。


「ちょっと休憩します……!」


 レムが休憩に入った。すると「私も……」と言ってアミ、リーナ、エリスが続いた。


「ティアナ、お前は休憩しなくていいのか?」


「このくらいならまだぜんぜん大丈夫です!」


「そ、そうなのか……ならいいんだが」


 それから何度も、何度も土剣を振った。土剣はこのダンジョンの壁の土を魔法で加工している。圧縮しているので軽くはない。鉄の剣のようにずっしりしている。


 そして一万回――。


「お疲れ様です、ユーヤ君」


 俺が素振りを終えてから数秒後に横からティアナの声が聞こえた。彼女は剣を下ろし、身軽になっている。


「ああ、ティアナも休憩か。結構キツかったんじゃないか?」


「え?」


 ティアナは何を言っているんだ? とばかりに不思議そうな目を向けてくる。なんか会話がかみ合ってないような、そんな気がした。


「この剣は鉄と同じくらいの重さがあるから、さすがにしんどくなったんじゃないかって思ったんだが、違うのか?」


「うーん、確かに一万回は多かったですけど、まだ平気ですっ!」


 ティアナは肩をぶんぶん振り回し、元気だとアピールする。しんどくないのになんで休憩しているんだろう? 不思議だ。いや、まさか……そんなはずはないと思うのだが、聞いておこう。


「ちょっと聞きたいんだが、素振りをした回数は数えているか?」


「もちろんです!」


「えっと……じゃあ今の回数は?」


「ちょうど一万回終えたところですよ~」


 ティアナはサラリと答えた。一万回の素振りというのは、リーナ、エリス、レム、アミが休憩を挟みながら苦労してこなした回数だ。見たところ、ティアナはズルをしていたようには見えないし、フォームも崩れず完璧だった。


「ふむ……もしかして一万回素振りは経験があるのか?」


「あります! 小さい時からランニングと筋トレと素振りが大好きで……三度の飯よりトレーニングが好きだったんです。……ついつい剣の練習とか魔法の練習をサボって鍛えていたので強くなれなくて……入学試験もギリギリなんとかSクラスに入れたって感じなんです」


「お、おう……そうだったのか……そりゃびっくりだな」


 普通は基礎トレーニングってのは他の四人みたいに嫌がるもんなんだが、どうやらティアナはそうではないらしい。この学院に入学できた時点で超エリート。それも最上のSクラスに入学できたということは、全員が並大抵ではない努力をこなし、高い素質を持った存在なのだ。


 そんな当たり前のことを改めて実感した。


「あの……こんなこと言うのもあれだと思うんですけど……」


「なんだ? 言ってみろ」


「じゃ、じゃあお願いなんですけど……皆さんが終わるまでまた素振りをやっていてもいいですか♡」


 何かを期待するような、そんな目で見てくる。


「ああ……好きにしてくれ」


「ありがとうございます♪」


 らんらんと陽気なティアナは、一万回のノルマを超えてからも楽しそうに素振りを再開するのだった。


 ◇


 それからしばらく時間が経ち、他の四人も素振りを終えた。


「はぁ……はぁ……こ、こんなの反則! どういう鍛え方してたらそうなるのよ!?」


 ご機嫌斜めなリーナ。


「まあ落ち着きましょう。リーナの言うことはもっともだけど、素振りのノルマは序の口。……ここからが本番なんだから」


「それもそうね……素振りだけが修行じゃないもの!」


 ……盛り上がっているところに悪いのだが、話を聞くところによるとティアナは素振りだけに特化しているというわけではない。

 むしろ、これからが真骨頂を発揮しそうな気がするのだが……やる気になっているところに水を差すのはやめておくべきか。

 言いたいことを胸にしまい、俺は筋トレスペシャルセットの用意を始めた。


 用意をするといっても使う道具はデッドリフト用の大きなバーベルくらいのものだ。前に使ったものがそこに転がっているが、ティアナの分を作る必要がある。


 俺はダンジョンの壁を適当に削り、土剣を作るときと同じ要領で圧縮し、形状を整えた。

 横一列にバーベルて、準備完了。


「よし、あと十分で筋トレスペシャルセットを始める。ティアナに説明している間は休んでいてくれ」


 声を張り上げ、筋トレの開始を予告する。

 それから、ティアナへの説明を始めた。

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