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第16話:最強賢者は剣を交える

 しばらく休憩していると、四人の呼吸が元に戻ってきた。そろそろ素振りに戻れそうだ。


「さて、素振りを――ん?」


 少し離れた場所から足音が聞こえてくる。

 ゴブリンか? いや、この階層にはいなかったはずだ。前に授業で迷宮に入ったときに解決したはずだ。

 スライムは二足歩行をしない。……ということは、人か?


 足音は少しずつこちらに近づいてきた。そして、


「ユーヤじゃないか。どうした、こんなところで」


「ファーガスおじさん!」


 予想外の人物に驚いてしまい、声量が大きくなった。

 ファーガス・マグワイア。俺の父であるレイジス・ドレイクと並ぶ剣豪だということらしい。魔法学院の教師の中でも手練れの剣士である。まあ、俺の中では父さんの飲み仲間って印象が強いのだが。


 しかしそんな人がなんでこんな場所に?


「……ふむ、ここで素振りをやっていたのか」


 ファーガスは地面に落ちている土剣に目を落とした。


「そうです。四人を鍛えるためにここで素振りをと。環境的にここが最適だったので」


「なるほどな。確かにここは最適だな。それはそうと……うーむ?」


 ファーガスはレムとアミの顔をジロジロと見た。


「今年の一年生にいたっけな?」


「いないですよ。第二魔法学院の方に入学予定の生徒で、左がレムで右でアミと言います」


「ああ! そういうことだったか。どうりで見たことがないわけだ」


 このおっさん、生徒の顔を全員覚えているのか……? サラリと言っているが、凄まじい記憶力だな。


「あ、あのファーガス先生。咎めないんですか?」


 リーナがおずおずとファーガスに訊ねる。


「何を咎めるのだ?」


「二人はまだ入学していない……つまり、この学院の生徒ではないのですが」


「リーナ、藪蛇(やぶへび)だぞ」


「あっ……」


 当然ファーガスだってわかっているはずだ。深く突っ込んでこなかったんだからそのまま放っておけばいいのに。


「ん、まあ気にするほどのことじゃない。ユーヤが見込んだ奴なら悪いことはしないだろうしな。細かいことは気にしなくていいぞ」


「さすがファーガスおじさんだな。その辺昔から変わってませんね」


「そうか? あんまり縛りすぎて息苦しいのは嫌いってだけなんだけどな」


 ファーガスはカカカと大笑いした。


「それで、ファーガス先生はなんでここに来たんだ?」


「実は俺も素振りに来たのさ。学院の中ではここが一番向いてるからな!」


 なるほど、目の付け所は一緒だったということか。

 学院内で素振りをできる場所をリストアップしておくと一番条件がいいのはここだから、当然の帰結と言うべきかもしれない。


「今日は素振りをしようと思ったが……久しぶりに手合わせするか?」


「ファーガス先生さえ良いなら、俺は受けて立ちますよ」


「よし決まった! 剣を構えろ!」


 そんなこんなで急遽ファーガスおじさんと手合わせをすることになった。

 四人にはその間も素振りをさせる。ファーガスおじさんと最後に剣を交えたのは入学試験の時だ。まだあれから日は経っていないが、明らかに腕が上がっていた。


「ファーガスおじさん、腕を上げましたね」


「ふん、入学試験で負けてめちゃくちゃ悔しかったからな! まだまだ負けてられんよ」


「さすがです。そういうところ本当に尊敬します……よっと!」


 ファーガスの連続技を凌ぎ、応戦する。

 それにしても、この歳になってもまだ上を見続けられるのは本当にすごい。剣士の鑑だと思う。俺は純粋な剣技がこのところ伸びていない。

 魔法と組み合わせた、言わば魔法剣士のようなスタイルで戦っているからか、最近は魔法に頼ることが増えてきた気がする。魔法は少し上達するだけで破壊力が何倍にも上がるので、成長の実感を得やすい。


 だが、ファーガスおじさんを見ているとまだまだ剣でやれることが見えてきた。


「……これで、俺の勝ちですね」


 ファーガスの首ギリギリで剣先を止めた。


「……参ったよ。さすがはレイジスの息子といったところか。……本当に素晴らしい剣技だ」


「俺のは魔法も併用していますから、単純な剣技ではまだまだ勝てませんよ」


「剣は実戦で使ってこそ価値がある。実戦で負けるようじゃまだまださ」


 通常ではありえない角度で曲がったり、急激な減速、あるいは加速を使ってやっと勝てているので、俺としては勝ったという実感はない。

 実践においては有効だが、なんだかズルをしている気分になる。


「明日から二日間も俺たちはここで素振りをするつもりですが、ファーガスおじさんはどうしますか?」


「俺も授業がない間は暇だからなあ、ユーヤに魔法を使わない剣技のイロハを教えてやるっても一興かもな」


 ファーガスは口角を上げ、にやりと笑った。


「俺に剣技を教えてくれるんですか!?」


「当然だ。なんつっても俺は魔法学院の教師で、ユーヤは……生徒でもあるからな。遠慮なく教えを乞え。全部教えてやる」


 これは最高の提案だ。ファーガスおじさんから吸収できることはたくさんある。見ただけではわからないこともたくさん。断るなんてありえない。


「明日からもよろしくお願いしますっ!」

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