第13話:最強賢者はドキドキする
学院に戻るころには日が暮れていた。
朝にクエストを受けてからめちゃくちゃたくさん歩いて、レムを治療して、国級のオークの巣を潰して……本当に色々なことがあった。
さすがに魔力も枯渇している。眠くて仕方がない。
寮に帰ってから俺はぐったりとしていた。今すぐにも寝てしまいたい。
しかし、ここは二人部屋。寝落ちする前にちゃんとリーナに話しておかないとな。
「悪い、リーナ。今日は夕食は食べずに先に寝ることにするよ」
「ええっ大丈夫なの?」
心配そうに見つめられると、少しドキッとする。
「ただの疲れだから問題ない。明日には元通りだよ」
「そう……じゃあおやすみ。今日はお疲れ様」
「ああ、おやすみ」
◇
それからすぐに眠りに落ちた。
何時間寝たのかわからない。ベッドがいつもより心地よく感じた。
いつもより暖かく、ふわふわしている気がする。
むにゅ……むにゅ……。
あれ? でもこの柔らかさってベッドの感触と少し違うような。それに、まるで湯たんぽかと思うくらい暖かい。暑すぎることはないが、ちょうど人肌くらいの……。
いや、これ人肌じゃね?
バシッと目を開いた。まずは状況を確認する。部屋が暗くて何も見えない。
だが、目の前からスース―と何者かの寝息が当たっている。
匂いを確認しよう。
くんくん。
少し甘い感じの香りがする。
部屋に月明かりが差した。雲と雲の間から光が入ってくる。
薄暗いが、正体ははっきりした。
な、なにしてるんだリーナ……!
声が飛び出しそうになるのを抑えて、そうっとベッドから出ようとする。
ガシッ
リーナに腕を掴まれた。そのまま彼女の胸に引き込まれ、羽交い絞めの姿勢になる。
正直、悪い気はしない。
かなり幸せな気分ではあるのだが、今リーナが起きたらと思うと恐ろしい。
そんなことよりも、どうしてリーナは俺のベッドで寝てるんだ?
リーナのベッドは一メートルほど離れた場所に設置されている。
疲れのせいで寝相が悪くなったとか? 寝相が悪くてベッドから落ちて、ごろごろと転がって俺のベッドをよじ登ったと考えると、説明はつく。
まさか自分から俺のベッドに潜り込んできたとは考えにくいからな。
くっ……それにしてもかなり強く掴んでるなコイツ……。
まさか起きてるってこと……ないよな?
実は起きちゃったけど恥ずかしくて寝たふりをしているとか。……一応確認しておくか。
「おぉい……リーナ、起きてるか?」
小声で囁く。
一瞬リーナの身体がビクッと震えて体温が上がったが、寝息を立てたままだ。
どうやら本当に寝ているらしい。
うーむ、どうしたものか。
起こす?
いや、ダメだ。二人とも恥ずかしくて死ぬ。
キスする?
いや、ダメだ。男として終わってしまう気がする。
出した結論は……現状維持。
このままもう一度寝て、先にリーナに起きてもらう。
リーナが離れた後を待って俺も起床。これでいこう!
リーナに羽交い絞めにされたまま、目を瞑る。
ドキドキして眠れないかと思ったがそうでもない。不思議と落ち着く。まだ疲れが取りきれていないというのも大きいだろう。すぐに眠ることができた。
◇
翌朝。
朝日が部屋に差し込んでいる。
目が覚めたので、状況を確認する。ベッドの中にリーナはいない。
もしかしたら、あれは夢だったのかもしれない。
「おはよう、リーナ」
一足先に起きていたリーナは、荷物の整理をしていた。
「おはよ、よく眠れた?」
「ああ、ばっちりな。リーナの方はどうだ?」
「わ、私!?」
リーナが顔を真っ赤にして俺の顔を覗く。どうしたんだろう?
「ああ、リーナも疲れてただろうしな」
「それはもうぐっすり眠ってたわよ。夢なんて見てないくらいぐっすりだったわよ」
なぜかリーナは早口で寝ていたことを主張した。
なんかいつもと違うなぁと思ったが、嘘ではないことはわかる。
やっぱり夜のことは夢か、俺の仮説通り偶然の産物なのだろう。
「じゃあさっそくレムとアミをビシバシ鍛えに行くぞ」
今日の目標をリーナに伝え、食堂に向かった。