第10話:最強賢者は爆破する
「アミ……大丈夫!?」
最奥で縛られていたアミの縄をレムが解いていく。ずっと吊られていたせいで手足には縄の跡がついている。気を失ってはいるが、監禁されていた期間はそう長くなかったため、栄養状態に問題はなさそうだ。
アミが貼り付けにされていた板の後ろには、洞窟の地図もあった。
「ほ、本当にありがとうございましたっ……!」
涙を浮かべながら礼を言うレム。
「まあ、ついでがあったからな。それにクエストを譲ってもらったんだ。お互い様だよ」
そんなやりとりをしていると、リーナとエリスがジロジロと俺を見てきた。
「な、なんだよ」
「いやーさすがユーヤだなって」
「世界最強の剣士でもちょっといい気になるくらいのことしたのにね」
……まあ、嫌味に感じてはいないらしいしいいか。
それにこの場には四人しかいない。ギルドにはちょっと控えめに報告すれば俺が目立つことはないだろう。
それより問題は、後処理の件だ。
「国級の巣を殲滅するとなると、骨が折れそうだな」
「後の処理はギルドに任せればいいのではないですか?」
レムが意見を投げてくる。もっともな意見ではある。
「いや、それだと大部分を取り逃してしまうだろう。オークキングが死んだことは既にオークたちも把握していると考えるべきだ。逃がしてしまうと新たなキングが早々に生まれてしまう可能性もある。可能性の目は潰しておきたい」
学院や町から、ここはそう遠く離れていない。歩くと遠いが、襲ってくるとなると十分な距離があるとは言えない。俺たちに危険が及ぶ可能性は排除しておくべきだ。
「入り口に戻って出てくるオークを狙い撃ちするっていうのはどう?」
と、エリスの提案。
これは正直微妙だ。四人しかいないことを考えるとその方法しかないのかもしれないが、物足りない。
「出入口が複数ある可能性がある。それに、アミをなるべく早く町に連れて帰りたいんだ。もっと手っ取り早い方法があるといいんだが」
【空間転移】を使ってアミを町に届けてから、もう一度戻ってくるという方法もある。しかし、アミに経緯を説明してあれこれしているうちにもしオークリーダーが現れたらと思うと、やっぱり放っておけない。
もう少しリーナとエリスを信用してもいいのかもしれない。でも、まだその時じゃない気がする。俺の目が行き届く範囲で戦っていてほしい。
「えっと、じゃあユーヤが洞窟を破壊するって言うのはどうかな?」
今度はリーナの提案。
「面白い提案だが、さすがにこの洞窟全部を爆破できるほどの魔力は……いや、ある」
よくよく考えれば、ここは洞窟なのだ。さっき俺がオークキングを倒したときのように、壁の中で爆発を起こして柱になっている部分を崩せば、勝手に壊れてくれる。上層と下層を破壊するだけで勝手に中層が壊れてくれるのなら、俺の魔力でも十分足りる。
無駄遣いせず魔力を残しておいてよかった。
「それだよリーナ。ナイスアイディアだ」
「そ、そんなに!? (冗談で言ったつもりなんだけど……)」
「ん、なんか言ったか?」
「い、いえなんでもないわ!」
「そうか、じゃあさっそく始めるぞ。まずは入り口まで戻るか」
【空間転移】を使って洞窟の入り口まで戻った。
ここから地下に向かってオークの国に繋がっている。
最奥にあった洞窟の地図を頼りに、どこを爆破すればいいか、どこを崩せばいいのか決めていく。
それをもとに、【火球】の配置場所を決めた。
「キュエエエエエエ!」
【火球】の配置を進めている中、入り口からオークが飛び出してくる。
ここから逃げようとしているのだ。
「ユーヤ、ここは任せて!」
エリスが剣を横薙ぎに一閃。
飛び出してくる敵を一撃で葬った。
「助かったよ、エリス」
「ここは私とリーナでなんとかするから、ユーヤは集中して!」
「わかった!」
決めた場所に、正確に【火球】を配置していく。
これが爆破したタイミングで、数千……いや、数万のオークを処理することができる。
これを放置していたらと思うと恐ろしい。ギルドも把握できていなかったのだ。最悪、俺たちの町が滅びることになってもおかしくない。
そうして準備を進めること約五分。ついに完成した。
「後ろに下がってくれ! 今から爆破する!」
リーナとエリスが後ろに下がったことを確認すると、仕掛けた【火球】を一斉に爆破する。
地響きから数秒遅れて洞窟の入り口が決壊を始める。
グオオオオオオオオオオオオズドォォォォォンッッッ!
地下空間が崩壊していくのが、目で見てもわかる。
地面がみるみるうちに沈下し、砂埃が舞う。
轟音に混じって、オークの叫びも聞こえてくる。かなりの数だ。やはり、この方法は正解だった。
もし、地下空間にぽっかり空いた部分があって生き延びたオークがいたとしても、出入り口が塞がれた状態では酸素が足りず窒息死する。もしくは食べ物が底を尽いて勝手に死ぬ。
少し可哀想な気もするが、相手は魔物なのだ。奴らは無差別に人間を襲う。
殺すのが唯一の正解だ。この世界で十五年、わかったことだ。
「さて、帰るか」