第7話:最強賢者はオークと戦う
【空間転移】でレムに教えてもらった位置に移動する。
直線で700メートル、地下10メートルの位置だ。
出口を手探りで確認する。どうやら壁ではないようだ。
「ついてこい」
俺、リーナ、エリス、レムの順番で洞窟の中に侵入する。
出てきた場所は広間の中心だった。
松明のおかげで中はそれなりに明るいので、魔法で照らす必要はない。換気用の穴を開けているのか、酸素も十分にあるようだ。
周囲には俺たちを囲むように大量のオーク。最奥には黒髪の女の子が縄で貼り付けにされていた。
知能の高いオークは縄を使うことくらいはできる。使った縄は人間の遺失物を拾ったのだろう。
「オ、オークが!?」
「落ち着け、レム。最奥には大量のオークがいることくらい予想できていただろ」
「で、でもさすがにこの数は……」
「ちなみに、お前はどのくらい戦える?」
「一対一ならオークには負けません……」
「そうか、なら十分だ」
オークの数はざっと100匹といったところだ。
大量のオークの戦闘力はさほど問題にならない。問題は奥で偉そうに腰かけている王冠を被ったオーク。LLOではレイドボスとして君臨していたオークの中の王、オークキング。
そしてこの王がいるということは……明らかに村級ではないということだ。
オークの巣の規模はそのリーダーの等級による。洞窟から地下空間に巣を広げ、かなりの広範囲を統治しているのは想像できる。
オークキングは強い。そして、こいつを倒した後の処理も骨が折れそうだ。
……ともかく、今は目の前の敵に全力を捧げよう。
「俺は目の前の敵を殲滅する。リーナとエリス、レムは後ろを頼んだ! できるな?」
「数が増えてもオークはオーク、できないはずがないわ」
「リーナがやるのならやらないわけにはいかないわよ」
リーナとエリスは大丈夫そうだ。
後ろを任せることができるなら、俺は目の前の敵に集中できる。オークキングが敵でも問題ない。
「オークだからと言って油断はするなよ。……それで、レムは大丈夫か?」
「私はアミを助けたい。そのためにできることがあるならなんだってします」
大量のオークを目の前にしてレムの声はこわばっていた。
一抹の不安が残るが、ここで逃げるという選択はありえない。任せるしかない。
「レム、無理はするなよ。危なくなったらとにかく逃げろ。それから助けを呼ぶんだ。いいな?」
「……はい」
作戦会議は終わりだ。オークどもも攻撃の機会をずっと伺っている。
どちらかが手を出した瞬間に戦いは始まる。
「よし、始めるぞ」
俺と三人が一斉に走り始める。俺は前へ、三人は後ろにそれぞれ散っていく。
一人になった俺がまずやるべきことは、敵の数を減らすことだ。
俺の火力ならネックになるのはオークキングだけだ。
大量の【火球】を前方にばら撒く。
これだけの数のオークを一匹ずつ狙うのは効率が悪い。100発ほどの【火球】が発射され、次々とオークに被弾していく。避ける者、耐える者もいたが、数は大分減らせた。
背後がどうなっているのかの確認も怠らない。
前方のオークが怯んでいる隙に後ろを確認する。
後方の三人は互いに背を預ける形で襲い掛かってくるオークを処理している。
俺のもとまでたどり着く前に蹴散らしてくれている。
これなら大丈夫そうだ。
「キュエエエエエエエエッッッ!」
前方に残ったオークはキングを合わせてちょうど十匹。
しかしキング以外の九匹は俺の【火球】を受けて一度耐えた個体だ。俺の【火球】の火力は決して弱くない。ほとんどのオークが一撃で倒れた。
見た目には区別ができないが、この九匹はオークの上位個体、オークリーダーなのかもしれない。……というか、それ以外に考えられないな。
オークリーダーは【村級】の長になる。三匹以上のオークリーダーがいれば【都市級】。ここに残っているのは全て上位個体というわけだ。
背中から剣を抜く。もちろん最初から二刀流だ。ここで慢心して失敗したら洒落にならないからな。
オークキングはまだ悠長に椅子に座っている。この態度は気に入らないが、チャンスでもある。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
まずは右翼側のオークリーダーに斬りかかる。
邪魔が入らないよう、【火球】を左翼側に放っておく。
オークリーダーは俺の剣を避けようとステップで移動する。
――だが、そのくらいの動きは読めていた。
斬りかかる直前で俺は方向転換。別のオークリーダーに斬りかかる。逃げたオークは俺の背後にいる。パンチが飛んでくるのを直感した。
だから、この至近距離から【火球】を放つ。【火球】は見事にオークリーダーの頭部に着弾して、首から上を吹き飛ばす。
――これで二匹の処理が完了。
「おいおい、これで終わりか? 【国級】のオークも大したことが無いな」
警戒する残ったオークリーダーに剣を向ける。
すると、オークリーダーが一斉に整列した。三匹と四匹に分かれて真ん中だけ開けている。
……もしかしてまとめて特攻すれば俺に勝てると思っているのか?
それならそれでどうとでもできるのだがな。
俺が攻めの姿勢をとった瞬間だった。
オークキングが立ち上がった。オークリーダーの陣形の間を通って、のそのそと歩いてくる。
やれやれ、ついにお出ましかよ。