第6話:最強賢者は思いつく
レムは俺の提案の意味を測りかねたのか、無言になった。
それから、
「……どういうことですか?」
「俺たちの受けたクエストと、君たちの受けたクエストは多分同種のものだ。クエストが被った場合は当事者同士の話し合いか、早い者勝ちになる。俺たちにはオークを倒せる力がある。君さえよければクエストを譲ってほしい。君の親友、アミを必ず助けると約束する」
俺たちにとっても、レムにとっても決して悪い条件ではない。
レムたちは単独でオークを倒せなかった。そのオークに囚われている親友を助けたい。
俺たちはクエスト遂行のため、オークを倒す。同時に、アミを助ける。
とはいえ、決めるのはレムだ。もし断られることがあれば、潔く引き下がろう。もちろんアミは無条件で助けてあげたい。でも、できることならメリットの一つも欲しいのだ。
「わかりました。クエストはお譲ります……だから、どうかよろしくお願いします!」
レムは即決で答えた。
もう少し悩むかと思ったのだが、彼女にもこれしか親友を助ける術がないと理解できているのだ。
ようやくどうすればいいのか定まってきた。
「よし、決まりだ。今すぐ現場に向かおう。レム、案内を頼めるか?」
「任せてください」
◇
レムの記憶を頼りに再び森に入っていく。
迷いなくスタスタと歩いていく姿は妙な安心感があった。
「この裂け目……完全に行き止まりだと思ってたわ」
リーナは目の前の巨大な石の塊を見て呟く。
俺も同感だ。この場所にはさっき森を彷徨っていた時にも一度来たことがある。
人が一人やっと通れるくらいの亀裂があることはわかっていたが、まさかこんなところをオークが出入りしているとは思わなかった。
あの巨体でこの隙間を通ることはできないはずだ。
「ねえ、見て横に流れてる川」
「うん?」
エリスが指さす方を見ると、確かに川が流れている。綺麗な水だし、何の変哲もないように見えるのだが。
「この付近だけ水深が深くなっているわ。……もしかしたら、オークは水の中を移動しているのかもしれない」
「……なるほど、それなら合点がいくな」
オークは一般的な人間よりも運動を得意とする。泳ぎに関してもそれなりにこなせるから、この程度の距離なら潜って移動したとしても不思議ではない。
俺たちは注意深く探していたつもりで、肝心なところを見られていなかった。
「急いでください……裂け目に」
「ああ、すまん! すぐいくよ」
俺、リーナ、エリスの順番で通り抜ける。窮屈なので、壁に這うように横移動で抜けていく。
なんとか渡ると、目の前には洞窟の入り口があった。
明らかにオークの出入りがありそうな、入り口の大きな洞窟だ。
「アミはこの洞窟のどの辺にいるんだ?」
「……一番奥だと思います。夜までに連れ戻さないと、オークに食べられてしまいます」
レムの顔は真っ青になっていた。親友が魔物に食べられてしまう瀬戸際なのだ。気が気でないのは痛いほどわかる。
「奥ってのは、具体的にどこだ?」
「どこって……それは私が案内して……」
「洞窟ってのは上下左右に穴が掘られている。俺はアミがいる最奥の部屋の『位置』を知りたいんだ」
レムはなにか言いたそうな顔をしていたが、諦めたように口を開いた。
「入り口から直線距離で700メートル、地下に10メートルの位置に部屋があるはずです」
「そうか、その情報が欲しかったんだ」
「では、急いで向かいますから!」
「待て」
俺はレムの手を引いて制止させる。
「どうして止めるんですか!? アミを助けてくれる約束じゃないですか! 約束を反故にするつもりですか!」
頼むから先に説明させてくれよ……。俺だってアミを助けたいと思っているし、約束を反故にするつもりなどまったくない。
「ここから馬鹿正直に攻め込んでも、レムが逃げた後なんだから通路が塞がれている可能性だってあるだろ。もしかしたら罠だってあるかもしれない」
「そ、それは……」
オークは馬鹿じゃないのだ。LLOでも、オーク関連のクエストは手を焼いた。おそらくこの世界のオークだって似たようなことはするのだ。
「そこで、俺に考えがある。シンプルで移動が楽でオマケにめちゃくちゃ時間短縮ができるとっておきのな」
「そ、そんなのがあるんですか!?」
「ああ、あるさ」
俺はリーナとエリスをチラッと見る。
二人も俺の作戦に気づいていたようだ。
「【空間転移】を使って直接最奥の部屋に転移し、殴り込みに行く。最優先はレムの親友アミを救出すること。その後は見つけ次第オークを蹴散らしていく。万が一何かトラブルがあれば【空間転移】を使って全員を村まで強制帰還させる。こんな感じでいくつもりだ」
俺の説明を聞いてめちゃくちゃ驚いていた。
「ユーヤはそんなことができるんですか!?」
「ああ、逆にそのくらいできないと、『オークに囚われた親友を助けてやる』なんて約束できないよ」
「治癒魔法も使えて、転移魔法も使えて……一体何者なんですか?」
「俺? 俺は普通の賢者だよ」
レムは信じられないとでも言いたげに俺をガン見し続ける。
「移動時間が大幅に短縮できるとはいえ、ちゃっちゃと済ませたほうが良い。よし、転移するぞ。用意はいいな?」