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第5話:最強賢者は手掛かりを掴む

 治療を終えてから少女が目覚めるまでの間に俺は辺りに生えている草を集めていた。

 草原に生えている草の多くは何にも使えないものだが、中には医療用や魔法の媒介に使う高価なものも生えている。原理的には全ての魔法は媒介を使わずに発動することが可能なことを俺は知っている。


 しかし、時にはアイテムを使った方が効率よく同じ効果を得られることがある。

 例えば俺が発明した冷凍魔法は紙に魔法式を刻み込んだのだが、紙を使わずに同じ効果を得ようとすると色々と面倒なのだ。


 魔力を抑えることができたり、時短になったりと自分で使う用途として持っていても損はない。

 余った物は売れば金になる。

 そんな打算で、草を集めていく。


「ん、これは……」


 偶然見つけたのは、『ウィーネ草』。他の草よりも緑が濃く、上部が軽く発光しているのが特徴だ。

 これは光魔法を増幅させる効果がある。

 洞窟や地下では太陽光が届かないため、火魔法を使って間接的に光を出すのが普通だ。足元が見える程度の光魔法を継続して発動するのは魔力効率が悪い。


 俺の【光源創造】なら魔力を直接光に変換するので無駄がないのだが、【光源創造】自体の魔力消費を抑えられる。

 幼少期から続けているトレーニングのおかげで魔力不足に悩んだことはないのだが、節約できるにこしたことはない。

 ウィーネ草を根元から摘み、ポケットに入れておく。


 その後何種類かの草を回収した後、リーナの知らせで作業を中断した。


「あの子が起きたわよ! ユーヤも早く!」


「ああわかった! ちょっと待っててくれ」


 少女の見守りは一時間ごとに交代ですることになっていたのだが、二時間ほどで目を覚ましたらしい。俺の出番はこなかった。


「離して! 離してくださいっ!」


「いいから大人しくしていなさい!」


 駆け足で戻ると、少女はリーナに羽交い絞めにされ、手足をエリスに抑えられていた。

 ……どういうことだ?


「これはどういうことだ?」


 リーナに尋ねる。


「それが、目が覚めた途端に逃げようとするから抑えてるんだけど! まだ安静にしてなさいって言ってるのに……」


 ふむ、状況がいまいち掴めないのだが、こんなところで一人で大怪我を追っていたのだ。並々ならぬ事情があったのだろうということは想像できる。


 俺は暴れる少女の前に立ち、目線の高さを合わせる。


「俺の名前はユーヤ・ドレイクだ。君が怪我を負っていたから助けた。二人は仲間だ。決して怪しい者じゃないし、君に危害を加えるつもりはない。……名前を聞いてもいいか?」


 優しくなだめるような口調で説得を試みる。


「……レム」


 小さな声で名乗ってくれた。


「レム、君が急いでいる理由を俺たちに教えてほしい」


「私はアミ……親友を助けたい」


「その親友はどこにいるんだ?」


「洞窟にいます。……私は助けを呼ぶために一人で逃げてきました。だけど、呪いで肩をやられて……あれ?」


 呪いか。火傷などと同じ状態異常の一種だ。数分から数時間に及んでダメージを与え続ける攻撃魔法のことだろう。肩に切り傷をつける種類の状態異常を食らった結果、時間差で倒れてしまったということか。


「どうした?」


「その……肩の傷が……あっ! 助けてくれたってそういうこと……」


 やっと落ち着いてきたらしい。

 これでちゃんと話ができる。


「そういうことだ。でも俺は本職の治癒士じゃないからな。一度町に戻ってちゃんと検査を受けた方がいい。だからリーナとエリスもレムを抑えていたんだ」


「そういうことでしたか……ごめんなさい」


 レムは申し訳なさそうに頭を下げる。


「でも、私はいかないといけないんです。今更町に戻って応援を呼んでも多分間に合わない。……それに、助けてもらえるかもわかりません」


「レムはなんのためにここに来たんだ? 最寄りの町からはかなり離れていると思うんだが」


「私は……私たちはオークを倒すために来ました。クエストだったんです」


 オークか。まさか俺たちと同じ理由だったとはな。

 となれば多分同じクエストを受けたのだろう。クエストが被るということはあまりないことだが、今回はオークの【村】を処理するという内容だ。二つ村があれば同様のクエストが二つ出ていてもおかしくはない。


 さらに踏み込んで考えると、【村】が二つあるかどうかというのはわからないのだ。

 目撃件数や地理上の距離から推測してクエストを出している。

 【村】はたまたま一つしかないのかもしれないし、考えたくもないことだが……【村】と間違えてしまうほど規模が大きいのかもしれない。


 だとすれば、レムが単騎で戻ったとしても、どうにかできることはない。

 それどころか、このまま放っておけば町や、学院も危機に瀕するかもしれない。


「場所は覚えているのか?」


「逃げている途中は森の出口がわかりませんでしたが、ここから洞窟に戻る順路くらいは」


 俺はリーナとエリスにアイコンタクトをする。

 二人は頷いた。

 俺の意思が伝わったのだろう。二人も同意見のようだった。


「レム、取引だ」


 レムはぎょっと俺を見る。


「君の親友……アミを助ける代わりに、クエストを諦めてくれ」



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