第1話:最強賢者は説明する
翌日から、俺の制服の肩部分に追加されたものがある。
右肩にはいつも通りの金の紋章。追加されたのは左肩。金・銀・銅全ての色がカラフルに用いられた紋章だ。これは教員用である。
生徒と教師を見分けられるように、生徒は右肩。教員は左肩に紋章がついている。
俺は両肩についているのでかっこいいのか悪いのかわからないのだが、そんな感じだ。
通常通りの授業が始まったら浮きそうなのであまり嬉しくはない。……目立つ予定はなかったのだが。
「あれ? ユーヤの制服ちょっと変わった?」
「……さすがに気づくよな」
魔法学院の生徒は休日でも制服を着る者も多い。義務ではないのだが、俺のようにあまり服をもっていなかったりファッションに興味がないと、不要なものにエネルギーを割かなくなるのだ。しかしファッションに興味津々のはずの女子生徒も好んで制服を着るのだからよくわからない。
俺と同室の女も制服を着ていた。
リーナは俺の制服姿を物珍しそうに眺めている。
「まだ話してなかったけど……俺、教員になったから」
「へ?」
「聞こえなかったか? 俺教員に……」
「ええええええええ!?」
そ、そんなに驚くことなのか? いや、まあ確かに俺も最初聞いたときはびっくりしたものだが……ここまで反応が大きいとは。
「そんなの初耳なんですけど!」
そりゃあ、今初めて言ったからな。
「ユーヤ、学校辞めちゃうの?」
「辞めないよ。学院長と話して辞めなくていいってことだったから」
リーナはほっと息を吐いた。
「なんだぁーーー……なら最初からそう言ってよね」
「リーナは俺がいなくなると寂しいのか?」
「そ、そういうわけじゃないけど……ペットが死んだら悲しいじゃない? そういう感じよ!」
俺、リーナ的にはペットだったのか。
ともあれペットと言ってくれるくらいには大事に想ってくれているらしい。心が温まるな。
「じゃあ、これから忙しくなるんでしょ? さっさと行きましょうよ」
「そうだな」
◇
俺たちは部屋を出ると、階段を下りて寮を出た。
寮の前にはエリスが立っていて、俺たちを見つけると笑顔で手を振ってきたので、こちらも振り返す。
そしてエリスもなぜか制服だ。
「すまんな、遅くなって」
「や、約束より早くついたのは私だから」
エリスは目を逸らして、素っ気ない反応だ。
「ちょっと一時間くらい早く着いただけだから」
「え……それはなんか悪かったな」
午前八時に寮前で待ち合わせる約束だったのに、一時間も早く来ていたらしい。
真面目なのだろうか。エリスの生態は未だによくわからないな。
「もしかして楽しみにしてたの?」
「そ、そんなことは!」
リーナの質問に、エリスは大げさに反応する。
「私は今日とっても楽しみだったのよ」
「その割には寝るのは早いし起きるのは遅かったけどな?」
「それはそれ、これはこれよ! 私は早寝遅起きの体質なの!」
威張って言われてもなあ。俺も似たようなものなのでリーナを責められないのだが。
「だって久しぶりなんだもん。みんなでギルドに行くの」
リーナは子どもみたいなことを言う。
……いや、確かに子どもだったな。15歳の少女なんてこんなものだろう。
「先週行ったばかりだろ」
「でも、一週間ぶりじゃない」
「そう言われればそうだけども」
俺たちは今日ギルドに行き、初のDランククエストを受けることになっている。あと四日ほど休みがあるので、それまでの間二人を鍛えるついでにクエストをしようということになったのだ。
「さっきから聞きたかったんだけど、ユーヤの左肩に新しい紋章が増えてる気がするんだけど、これって気のせい?」
今度はエリスが気づいたようだ。やっぱりこれ目立つんだよなあ。
「それは深いわけがあってだな――」
リーナと時と同じ説明をエリスにも聞かせた。
「いつから忙しくなるの?」
「本格的に忙しくなるのはまだ先だな。秋入学に合わせて準備するって話だったよ。既存の魔法学院とは違って色々なやり方で能力を測るって聞いた。一芸入試って言って一つでも秀でたものがあれば入学させたり、推薦入試って言ってその辺の魔法塾から優秀な者を集めたりって感じで。そっちの試験を先にやるから、夏くらいからは忙しくなるな」
「変なのが集まりそうね……」
「まあ、割合として一番大きいのは今の魔法学院と同じ方式だから、いい感じになるんじゃないか?」
話を聞いたときに日本の大学入試制度と少し似ているなと思った。バラエティに富んだ人材を集めるのは結構だが、それでうまくいっているかと言うと明確には答えられない。教育ってのはもっと長いスパンで見ないとわからないからな。
そんな話をしていると、冒険者ギルドについた。魔法学院と冒険者ギルドはそれほど距離的に離れているわけではないので、学院生にとっては通いやすい。
俺たちは冒険者ギルドに入り、Dランククエストのコーナーに行って掲示物を確認する。
Dランクからは討伐系のクエストも受けられるようになる。弱いモンスターばかりが並ぶが、実践形式で教えるには弱いくらいでちょうどいい。
「よし、これにしよう」
俺は【オークの村を撲滅せよ】のクエストを取って、受付に向かった。




