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第43話:最強賢者は勝利する

 準備は整った――。

 後は俺が即死魔法【毒爪】で赤龍に正確に攻撃を当てるだけだ。


 先生たちが尻尾を切り落としたことで、【核】は尻尾以外の身体中を循環している。

 エリスがアキレス腱を切ってくれたことで、しばらくは足が動かない。赤龍は羽を持つが、その巨体は重く、飛行はできないので、後は距離を詰めればいい。


 だが、暴れられればどう動くのか予測がつかない部分がある。

 慎重すぎて困ることはない。


 俺は【氷柱(フリージングアロー)】を上空から三本発射し、赤龍の身体を貫く。


 グオオオオオオォォォォ……。


 赤龍の喘ぎ声が響く。どうせこれでは大したダメージを与えることはできない。狙いは身体の拘束だ。これで赤龍は身動きが取れなくなった。


 走って赤龍との距離を詰める。

 【毒爪(ポイズンクロー)】の発動に魔力を集中させていく。

 俺は正面に立ち、赤龍の腹部を狙って【毒爪】を放った。


 【氷柱】を紫色に染めたような魔力弾が猛スピードで飛んでいく――。

 そして【毒爪】は正確に赤龍の腹部に着弾し、串刺しにした。


 ……これで終わる!


 【毒爪】に盛られた毒が神経系を刺激し、これだけの巨体であっても十分とかからず死ぬだろう。

 そう思って安心していた俺が馬鹿だった。


 確かに俺の攻撃は効いていたし、【核】を破壊するのは時間の問題だった。俺の間違いは、着弾に成功した瞬間に撤退すべきだったのだ。


 赤龍は【核】を刺激されたことで暴れ始めた。堪えがたい苦しみが龍を襲っているのだ。

 その痛みは生まれてから死ぬまで受けた痛みを合計しても足りないとされている。暴れることは織り込み済みだったのだが、【氷柱】の縛りをあっさりと突破し、動かない足の代わりに腕だけで巨体を跳躍させ、突進してくる。


 慌てて後ろに跳躍し、その間に背中から剣を抜くが、間に合わない――。

 赤龍は死ぬ前に俺を殺そうとしているのだと直感した。

 くそ……! 最後の最後で、こんなところでしくじるのかよ!


 俺は思い出す。

 日本でサラリーマンをしていた頃だ。入社五年目にして、新商品の開発をしていた頃。

 やっと新商品の案がまとまった時に企画書の廃棄を忘れてしまった。

 俺の働いていた会社より先に競合他社からそっくりの製品が新商品として発表されてしまった。

 社内にスパイがいた。もしかしたら企画書を持ち出されなくても、記憶を頼りに同じ結果になっていたのかもしれない。……しかし、俺の詰めの甘さを恥じた。

 繰り返してしまった。しかも、今度は命がかかった戦いで。


 そういえば、この世界で死ぬと俺はどうなるんだろうな。

 この世界を輪廻転生するのか、日本で生まれ変わるのか、はたまた無になってしまうのか。あるいは、何事もなかったかのようにリスポーン地点で復活するのか。

 俺の生きてきた十五年は長いようで短かった。日本で生きてきた時間より楽しかった。

 もっと、楽しい時間を過ごしたかった。


「なに諦めてるのよ!」


 俺の背後から、剣を持った金髪の女――リーナが飛び出してきて、突進する赤龍の頭を掻っ切った。

 リーナに突き飛ばされ、俺は地面を転がった。


「……いてえ」


 俺がボーっとしている間にリーナは【火球(ファイヤーボール)】を連射し、赤龍の目を潰していた。動きの速い赤龍でも、足が動かないのなら対処は簡単だ。


 エリスは背中を攻めていて、気づけば赤龍のうなじには多数の傷が入っていた。


 グオオォ…………。


 赤龍はそうこうしている間に、俺の【毒爪】による毒が回り、ぐったりとして動かなくなった。

 眼に宿る光はなくなった。……絶命したのだ。


「ユーヤ、いくらあなたが強いって言っても一人でなんでもできるわけじゃない。……ちょっとは頼ってくれてもいいじゃない?」


 リーナは、転げて座ったままの俺に手を差し伸べた。

 俺はリーナの手を取り、立ち上がる。


「……俺は思い上がってたみたいだな。本気でもう駄目だと思ったよ。……ありがとうな」


「ふーん、そういうことも言えるんだ」


「意外か?」


「ちょっとね。でも、感心した」


 感心した、か。やれやれ。リーナこそこういうことも言うんだな。


「エリスも、ありがとうな。……ってか、お前がいなきゃ龍の前に学院を爆破されて今頃お陀仏だったしな」


 俺は強い。【賢者】という職業に恵まれたおかげで、ステータスや魔法・スキルだけが充実している。

 でも、メンタル面が弱かった。すぐに諦めてしまう。これは転生しても、魔法やスキルで補えなかったものだ。そして、どうやら俺はそれを補完してくれる仲間と出会っていたらしい。なかなかどうして、俺は自分で思っていた以上に恵まれた環境に転生していたらしい。


 もう一年ズレていれば、リーナやエリスに出会うことはできなかった。

 俺はツイている。


「二人とも、今日はよく頑張ってくれた。……お礼にと言ってはなんだけど、今週末は自主訓練合宿をするぞ!」


 俺は、やっと背中を預けられる仲間を得た。心の底で二人を信じていなかった。

 だから、強化するときもどこかで手を抜いていたのかもしれない。でも、その必要はなかったのだ!

 ダンジョンでだって、俺が一人で無双するのではなく、二人に任せれば良かったのだ。俺は万が一の時には二人を助けられる力があるのだから。

 それに、今までは俺が目立たないようにと頑張ってきたが、そうではなく二人を目立たせることで相対的に俺が目立たなくすればいいのだ。ここにきてやっと分かった。


 そんなことを考えての提案だったのだが……。


「ええ……」


「発想が脳筋」


 リーナとエリスからは微妙な反応が返ってきた。


 

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