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第41話:最強賢者は激怒する

 赤龍と言えば、LLOのサービス開始時のラスボスだった。それから大型アップデートがあるまでは最強クラスの魔物だった。俺が賢者として異世界に転生した時には数多のアップデートが行われ、龍シリーズの中では最弱だったが、それでも何度ものステータス調整で赤龍は強くなっていた。たとえこの世界ではアップデート前の状態だったとしても、今の俺を含め、この世界の人間にとって脅威であることは間違いない。


「既に君がこの屋敷に来た時から転送の準備は始めていた。たったいま転送が完了したところだよ。……君を隔離することで皆殺しにすることは簡単になった。礼を言うよ」


 けらけらと嗤う賢者。

 俺は拳を固く握った。許せない。ハメられて悔しいという理由からだけではない。

 土曜日にクエストで訪れた時にどうして違和感の正体を突き止めなかったのか。十年に一度しか誕生しないという賢者。そんな奇異な存在が身近にいるということ自体、偶然で済まないことは容易に想像がついた。気づけなかった自分がもどかしかった。


 俺は賢者を睨む。

 人を殺すということ自体への罪悪感が欠けていることへの侮蔑から。

 人の本当の優しさや、想いを共有できなかったことへの哀れみから。

 俺が大切にしているものを奪おうという単純な憎しみから。


「お前を倒してから学院にすぐに戻る。……それで十分だ」


「ふっ……このバリアは絶対なんだよ! 絶対に崩すことはできない! 僕は君を倒すことはできないけれど、君も僕に触れることはできないんだ! 戻るならいまのうちだ! 戻れば大量のゴブリンを一気に投下してやる! ハハッ! 楽しいなあ!」


 気が狂ったように賢者は嗤い狂う。


「そんなことしてどうするつもりだ……? 中央衛兵が黙っていないぞ! 学院を崩したとしてもそれだけではどうにもならない!」


「僕は学院をぶっ壊せればそれでいい! 僕を認めなかった教官、生徒、校舎、空気、ダンジョン、全部ぶっ壊してスッキリするんだ!」


 賢者の目はイっていた。

 自分に酔っている。このタイプの異常人格は何を言っても通じない。


「魔法学院の入学生は開校以来俺が初めてだと聞いたが?」


「僕は優秀だった。……なのに、学院は僕を認めなかった。入学すらさせてくれなかった。しっかりとした教育を受ければ誰よりも強くなった! 僕は優秀なのに……優秀なのにいいいいいいいいい!」


 つまり、こいつは試験を受けて落ちたということか……。

 その腹いせに学院を潰そうと考えている。半月同盟なんていう犯罪組織に身を染めた理由はそんなくだらない理由だったらしい。

 学院に侵入してきた男は聖騎士と賢者以外を殺すと言っていた。……含みを持った言い方だと少し違和感を抱いていたが、この賢者が仲間だったということの裏付けにはなる。


 あの男はそれなりの理由を持っていたが、こいつのは単なる逆恨みじゃないか。


「てめえのくだらねえ理由を聞いて良かったよ。……これで、容赦なくぶん殴ることができる」


 賢者は嘲るように俺を見て、


「聞こえなかったのか? 僕はバリアによって守られている。どれだけ攻撃力があろうと破ることはできない!」


「ああ、聞こえたよ。でもな、破らなくてもどうにでもできるんだよ!」


 俺は【空間転移(ゲート)】を発動。

 転移先はほんの一メートル先だ。このくらいの距離なら何の問題もなく移動可能である。

 目視できているので、万が一にも失敗はありえない。

 俺は賢者が座る椅子の前に出口を開き、すぐに転移を開始する。


 そして


 バチイイイイイイイイイィ!


 全力で殴った。

 こいつの考え方を改めようなんて正義感を振りかざしたパンチではない。

 俺は俺の気分のままに、俺の魂に任せて殴った。

 俺はただ、こいつが許せなかっただけだ。くだらない理由で人を殺しかねないようなことをして、しかも、半月同盟に所属する聖騎士をも馬鹿にしたような態度だ。

 この組織に所属する聖騎士には、同情の余地があるようにも思う。

 全員がそうとは限らないが、信じていた仲間に裏切られて、そこで曲がってしまったのだから。


 だが、こいつは自分の力不足を他人のせいにして現実逃避して、その対象を殺そうとしたのだ。

 胸糞悪い。


「な、なぜ……!?」


 俺がなぜバリアを突破できたのかわからないのだろう。


「相性が悪かったというだけさ。確かにお前のオリジナル魔法は汎用性抜群で、隙がないように見える。だが、空間魔法とは相性が悪かった。……俺はそれを突いただけだ」


「く、くそ! ふがあああああ!」


 俺はもう一発パンチを浴びせる。


「うおおお」


 もう一発。

 さらに一発。


 賢者の顔は腫れあがった。

 俺の気分がすっきりしたかというと、そんなことはない。後味の悪さは残る。


「諦めてお縄になれ。そして、強制収容所で再教育を受けろ。……幸い、結果的には殺してはいないからな。極刑は免れるだろう」


 俺は賢者に封印魔法をかけた。本来封印魔法は魔物に対して使う魔法だが、人に対してもかけることができる。

 俺はこれから赤龍を追いかけて学院に戻る必要がある。その間にこの賢者が悪だくみをしないとも限らない。縄で縛りつけるだけでは抜け出せる術を持っているかもしれない。

 念には念を入れて、衛兵に突き出さなくてはいけない。


 【空間転移】には、今のレベルでは三分のクールタイムが必要だ。

 クールタイムとはLLO用語で、再使用時間のことである。


 今は一分一秒が惜しい。

 俺は【空間転移】のクールタイムが終わると同時に、リーナとエリスを連れて学院に帰還した。

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★2020年7月よりこちらも連載中です
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― 新着の感想 ―
[一言] いや、10年に1度とかなら結構頻繁に 誕生してるんじゃね。 それに王都とかみたいに人が集まりそうな 場所ならなおさら不思議でも無いのでは。
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