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第36話:最強賢者は助けを借りる

 侵入者の誘いは、多少俺の心を揺さぶった。だが、所詮は多少の範疇なのである。


「ユーヤ……リーナ……まさかそんな怪しい組織に……?」


 しばらく黙っていた俺とリーナを心配したのだろう。

 エリスが不安を露わにする。

 まったく、勝手に誤解してくれるな。


「エリス、よく聞け。俺は半月同盟なんていう犯罪組織に入ることはない」


「私も同じよ」


 リーナが俺に続いた。


「聞いての通りだ。俺もリーナもそんな怪しげな組織に入るつもりはこれっぽっちもない」


「……貴殿には恨みがないのか?」


「恨み……思うところがないと言えば嘘になる。……だが、俺の父さんと母さんは剣士で、弟は狂戦士だった。俺が家を出るとき、みんなで見送ってくれたんだ。……その愛情に比べれば恨みなんてチンケでくだらない思想に付き合うほどのものじゃない!」


 侵入者は絶句する。


「……くだらない思想だと……?」


「そうだ。パーティメンバーに裏切られたことには同情するよ。でもな、それで皆殺しにしようなんて発想に至る時点で俺はお前を可哀想としか思えねえ。そんな奴の仲間になんかなれない」


「そうか、残念だよ」


 そう言うと、男は懐から結晶を取り出し、それを片手で砕いた。

 俺にはそれの意味するものがわからなかった。


 結晶が割れた直後、俺たちの目の前に魔物が召喚された。

 魔物の正体はゴブリンだ。ゴブリン相手に後れを取ることはないが……数が多かった。

 五十匹はいるだろうか。この軍勢を全て相手にするとなると、骨である。


「では、せいぜいゴブリンに食われて死んでくれたまえ」


 そう言って四人の男たちを引きつれ、学院の中央――ダンジョンに向かってしまった。


「リーナ、エリス! 急いで片づけるぞ!」


「言われなくてもわかってるって!」


「それがパーティリーダーの指示とあらば、従うわよ!」


 リーナが【火球(ファイヤーボール)】でゴブリン共をまとめて焼き払い、生き残った敵をエリスがぶった切る。

 俺は剣と魔法を駆使して攻撃していく。

 順調にゴブリンは減っていったように見えた。

 だが、


 敵が少なくなった頃合いを見計らったようにまたゴブリンが大量発生する。

 クソ! キリがない!

 この間にも侵入者は進撃を続け、ダンジョンに辿り着いてしまう。

 せめてあと何人かいれば!


 そう思った時だった。


「ユーヤ君、それにリーナさんにエリスさん。……お手柄だったな」


 颯爽と現れたのは若い男性教師。後に何人も教員が続いている。


「エリック先生!」


 そういえば、校内放送では誘導の終わった教員は校庭に集まるように指示が出されていた。

 俺たちが話を聞いていた時間が良い時間稼ぎになったらしい。


「油断していなければゴブリン程度、我々でどうにかして見せよう!」


 そう言って、エリック先生は小柄な身体に似合わない大剣を横薙ぎに振り、ゴブリンを二体同時に葬った。

 その様子を確認した俺は、無限に召喚される魔物を倒しつつ、彼らを追跡する糸口が見えた。


「ここは任せます! 侵入者の狙いはダンジョンにあります。……俺は彼らを追いかけます!」


 エリック先生はニッと笑って、


「魔法学院の教員の名にかけて、ここは責任を持って守る。……だが、ユーヤ君は生徒だ。命を懸けるほどの責任はない。その点を理解しているね?」


「はい、十分に」


「ならよし、行ってくれ」


「感謝します」


 俺はエリック先生に頭を下げ、ダンジョンに向かって走る。

 言うまでもないことかもしれないが、リーナとエリスも一緒についてきた。

 ゴブリンの軍勢に関して言えば、先生たちが束になって対処してくれるのならどうにでもなる。

 俺は心から助っ人に感謝したのだった。


「いたわ! ユーヤ!」


 リーナが彼らの動向を伝えてくる。

 俺にも見えているのでわざわざ話す必要はないのだが、リーナの癖なのだろう。

 緊急時にわざわざ指摘するほどでもないので、ツッコミを入れるようなことはしない。


 魔法学院中央に位置するダンジョンに続く階段の周りには仕切りが置かれており、その仕切りは厳重に施錠されている。アーティファクトを使った刻印で魔法による施錠が施されているため、鍵がなければ開けるのには困難を伴う。……しかし、鍵を要求しないという事は彼らなりにも何か考えがあるのだろう。


 いくら厳重な施錠が施されていたとしても、高火力の魔法で爆撃するなりすれば壊すことも可能かもしれない。

 ちょうど彼らが爆撃を開始し始めていたところだった。

 地響きがするほどの【火球】が何度も撃ち込まれる。扉には亀裂が入っていた。

 破壊されるのも時間の問題だと思った。


「俺がここから魔法を撃ちこむ。リーダーのあの男はさすがにどうにもならないだろうから、二人は他の四人を無力化してくれ!」


 二人が頷いたことを確認すると、俺は【氷柱(フリージングアロー)】を展開する。

 ここまで近づけばなんとか射程圏内だ。


 合計で十発。……うち半分の六発はダミーだ。本命の四発に火力を集中させ、リーダー以外――配下に向けて撃ち放つ。


 俺の狙いは予想通りで、ダミーに気づいたリーダーの男が配下を庇おうとするが、間に合わない。

 四発はそれぞれが着弾し、ダメージを与える。

 その間にリーナとエリスは剣による打撃で意識を刈り取る。


「まさか……ここまでやられるとはな」


 リーダーの男は驚嘆していた。

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