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第35話:最強賢者は悪の結社に勧誘される

 校庭に辿り着いた。

 そこには窓から侵入者が闊歩していた。顔はフードに隠れてよく見えない。黒いローブに身を包み、剣を持ってはいるが魔法による破壊を繰り返している。白昼堂々と魔法学院に攻め入るとは恐れ入る。

 男たちは俺たちをギロリと睨むと、躊躇なく詠唱を始め、【火球(ファイヤーボール)】を撃ち込んでくる。


 人数は五人。全員が一斉に撃ち込んできたため、【火球】の数は五発である。

 煙を上げて襲ってくる。

 俺は【氷柱(フリージングアロー)】を使って【火球】を鎮火した。


「ほう……今の攻撃をこうもあっさりと回避するか」


 五人の男のうちの一人が呟く。


「……お前たちの目的はなんだ!」


 俺と侵入者の目が交差する。


「お前はユーヤ・ドレイクだったな?」


「なぜそれを知っている!」


「有名だからさ。賢者として初の魔法学院入学生にして、首席合格者……我々が知らないはずがない」


 どうにもこいつらの意図が読めない。

 俺が賢者だからどうだって言うんだ? こいつらに何の関係があるというんだ。


「我々は魔法学院自体にまったく興味がない。目的……いや、要求は一つだ。学院地下のダンジョンを明け渡してもらおう」


 ……だんだんと事情が飲み込めてきた。

 この学院……いや、王都はLLOの設定から推測すると、ダンジョンを中心に繁栄してきた町なのだ。魔物は人類にとっての敵だが、貴重な資源でもある。

 今はダンジョンの資源を持て余してしまっているが、有効活用できると踏んだ組織があれば、奪おうと考えるのも理解はできよう。


「……この前はどうもありがとうよ……これに見覚えがあるか?」


 そう言って、ずっと話続けている侵入者――こいつがリーダーなのだろう――がローブの裾をまくり、腕を見せてくる。


「そ……それは……!」


 俺は戦慄する。

 半月の形をした刺青が刻まれていたのだ。


 学長から聞いた話を思い出す。


 ――彼らは聖騎士のみで構成された組織だった。……聖騎士の権利を守るという名目で破壊行為や大量殺戮を行ってきた犯罪組織だ。……構成員の腕に刻まれた刺青が半月の形をしていたのを記憶している。


 十年前に中央衛兵が動き始めるのと同時にパタリと消息を絶ってしまった組織。


「……聖騎士同盟」


 俺が呟くと、侵入者の男は「ほう」と興味深そうに呟く。


「十年も前のことをあれだけの手掛かりでよく調べたものだ。敵ながら称賛に値する。それで、我々がどうしてダンジョンを手に入れたいのかわかったかね」


 聖騎士同盟……聖騎士の権利を守るという名目がどうしてダンジョンの占拠に繋がるのか。まったくわからなかった。


「その顔はどうやら理解できていないらしいな。……いいだろう、特別にお前が『賢者』ということで話してやろう」


 男はフードを上げて顔を見せる。

 それは無残なものだった。顔中に浅い傷跡があり、頬はこけていて顔色も悪い。


「十二年前、俺は冒険者をやっていた。お前も聖騎士が恵まれない職業だということは知っているな?」


 俺はこくんと頷く。


「ところが、俺は幼少から剣と魔法の稽古に励み、メキメキと強くなった。才能がないと言われる聖騎士だが、そうやって強くなった者も大勢いる。……そこの女の聖騎士のようにな」


 興味深そうに聞き入っていたリーナがビクン揺れる。

 学年次席で特待生ともなれば調査済みということか。


「俺は聖騎士でありながら、良き仲間に恵まれたと思った。狂戦士や剣士の混じる有数のパーティに入って馬鹿話したことは今でも鮮明に思い出せる」


「……そんなやつがどうして犯罪組織なんかに!」


「黙れ。……いいから最後まで聞け。ある日、俺たちは格上の魔物が集うダンジョンに入った。ダンジョンの中には魔物がひしめいていたが、俺たちは持ち前のチームワークと技術で先へ先へと進んだ。……最奥には赤龍(レッドドラゴン)がいた。知っているとは思うが、強敵だ」


 LLOでの赤龍と言えば、最初期のラスボスだった魔物だ。その後のアップデートで様々な魔物がラスボスとなったが、アップデート後も継続して赤龍はステータス調整がなされているので決して弱い敵ではない。


「懸命に戦ったが、残念ながら敗走してしまった。……お前たちは知らないだろうが一応聞いておこう。ダンジョンにおいて敵に背を向けるというのは危険な行為だ。だが……一つだけ安全に逃げ切る方法がある。……それはなんだ?」


 侵入者の目は死んでいた。信頼や希望が全て消え失せたような。


「……仲間一人……安全を見るなら二人を見捨てて逃げる……とかか?」


 侵入者の男は目を見開いた。まさか当てられるとは思わなかったという様子である。


「よくわかったな……パーティは俺ともう一人を突き飛ばした後、見捨てて逃げたよ。俺たち二人は聖騎士だった。何人もいるパーティの中でどうして俺たちが生贄に選ばれたのか、もうわかるだろう」


 人の意識なんてものは大きく変わるものではない。

 見下していた対象が活躍していれば意識の表層で尊敬することもあるだろう。しかし深層意識では『気に入らない』という感情が暴れ出す。


「俺の真の仲間は赤龍に食われてお陀仏。……俺は奇跡的にダンジョンに入っていたパーティに救われたんだ。そのパーティの名前が聖騎士会だった。その後、俺たちは聖騎士以外の全職業を駆逐するという崇高な計画を立ち上げ、聖騎士同盟を結成したのだ! そして月日は流れ、『半月同盟』として再結成した」


 長くくどい説明が終わったが、最後まで意図がよくわからない。


「それで……どうして俺たちにそんなことを話すんだ? ダンジョンを占拠してどうするつもりだ!」


 男はフンと鼻を鳴らして、


「聖騎士……あるいは同様に迫害された賢者以外の全職業をダンジョンにぶち込み、魔物に食わせるのだ。かつて同士が受けた苦しみを味わわせてやる!」


「ただの私怨じゃねえか。お前たちのやっていることは立場を逆にしただけで同じことなんだぞ!」


「そんなことは理解しているさ。だがな、ユーヤ・ドレイク……貴殿も賢者ならば、その職業だけで損をしたことがあるのではないか?」


「それは……」


 確かに、あるにはあった。

 幼少の頃は近所の人たちの視線が痛かった。

 『聖騎士の次は賢者ですって。ドレイク家は呪われているのかしら』……弟のグレンが生まれるまでは気味悪がられたものだ。グレンが生まれてからも、俺が活躍を始めるまで、町に居場所はなかったようにも思う。……賢者でなければ、姉さんは聖騎士でなければ、辛い思いをすることはなかっただろう。


「貴殿はどうして話すのかと質問したな。答えよう。……どうだ、ユーヤ・ドレイク、それとリーナ・ブライアース、半月同盟に入らないか?」

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