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第30話:最強賢者は基礎を教える

 昼休みに申請した魔法式研究会の設立は、その放課後には受理された。今日の日付をもって俺たちは魔法式研究会の会員となったのである。

 さすがアイン先生。驚くべきスピードである。


 押し寄せる勧誘陣に断り続けて、やっと平穏が戻った。


 魔法式研究会の研究室――『研究会』なので部室ではない――は、魔法演習室になった。

 俺は魔法式の基礎をリーナとエリスに教えているところである。


「これは算数の基礎からやり直すしかないな……」


 リーナは中学生レベルの数学をほぼマスターできているのだが、エリスは悲惨なものだった。

 魔法式の理解に必須の文字式をまったく理解できていないのだ。

 人が魔法を放つ分には、感覚に任せてもある程度の誤差は身体側で勝手に調節されて、破綻することはない。


 しかし、それを文字で再現しようとすると一切の矛盾や例外を許さないのだ。大学の専門教育で学ぶような高度な数学は必要としないが、数学的な考え方は必要だ。

 しかし、エリスには説明しても基礎が抜けているので、都度教える必要がある。


「ほら……やっぱり私は勉強できないから……」


「それは違うぞ、エリス」


「え?」


「エリスは基礎が抜けているだけだ。基礎がないのに応用はできない。でも、ないならないでこれから積み上げていけばいい」


「……」


「俺はエリスに期待しているんだ。エリスはきっとやればできる」


「……!」


「いくらエリスが剣士でも最初から何でも出来たわけじゃないだろ? 血の滲むような努力の末に今があるはずだ。違うか?」


「……違わない」


「魔法式……というか算数も同じだ。やればできる。……できそうか?」


 エリスは少し泣いてしまったのか腫れた目をこすり、


「がんばる」


 と答えたのだった。


 ☆


 俺が自作のドリルを作成し、足し算や引き算の勉強をさせていると、リーナが大きく腕を上げて伸びの姿勢を取る。


「ああー疲れた!」


「お疲れ様、リーナ。ちょっと休憩するか?」


「そのつもり。私よく頑張った!」


 実際、リーナには魔法式記述に必須の基礎的な暗記事項をひたすら覚えさせているのだが、かなり順調だ。俺は『やればできる』とエリスに説明したが、この言葉は半分正解で、半分不正解なのである。


 記憶力や発想力というのは人によって異なる。後天的に大幅な能力の向上は見込めない。例えば俺が三十分かけて覚えることをリーナは一時間で覚え、エリスが三時間かかるとする。

 エリスは俺の六倍の勉強量がないと、俺に追いつくことはできないのだ。


 『やればできる』に間違いはないが、他人と同じスピードでできるようになるかは別問題だ。

 ただ、リーナにはおそらく生まれもった剣の才能がある。総合力では誰が優れているのかなんて誰にも分からない。


 俺はリーナを見てそんなことを思った。


「ねえユーヤ」


「ん?」


「ゴールデンウィークに向けてお金を稼いでおきたいんだけど……付き合ってくれない?」


「ゴールデンウィーク?」


「知らないの? 五月にある大型連日休暇のことよ。魔法学院も休みになるの」


 ゴールデンウィークとは懐かしい響きだ。

 学生時代は大はしゃぎでゲームに励んだものである。社畜化してからはゴールデンウィークなんてあってないものだったがな。形式上は存在するのだが、もちろんブラック企業ではサービス出勤が当たり前。

 宝くじが当たってニートにジョブチェンジしてからは毎日がゴールデンウィークだったので、本当に久しぶりだ。

 そういえば毎年五月にはLLOでもゴールデンウィークイベントがあったな。LLOにそっくりな世界なら日本の文化があってもおかしくはない……か。


「いいけど、どこかで働くってことか?」


「そんなことしないわよ。魔法学院の生徒は就労禁止だし。……その代わり、職業体験って名目でギルドに行けばクエストができるじゃない?」


「そういえばそんなこと言ってたな。……けど、特待生なんだからそんなのいらないんじゃないか?」


「特待生って言っても修学旅行とか郊外演習とかの費用は出ないわよ。それに、ゴールデンウィークは遊ばなきゃいけないでしょ?」


 いや……遊ばなきゃいけないというルールはなかったと思うのだが、リーナの中ではそうなっているらしい。


「まあ、俺もギルドってのがどういうところか一度見ておきたいしな。付き合うよ」


「良かった! じゃあ早速明日いくわよ! せっかくの土曜日だし」


 飛び上がってはしゃぐリーナの笑顔が花咲く。

 俺も内心わくわくしていた。


「ジ……」


 背後から視線を感じる……。


「もしかして、エリスも一緒に行きたいのか?」


「い、行きたいとはいってないけど……」


 しかし机には落書きがしっかり描かれているぞ。『行きたい行きたい行きたい……』

 まったく、入学当初で俺に突っかかって来た時のガッツはどうしたんだ……。


 やれやれ、仕方ないな。


「エリス、お前の力が必要だ。来てくれ」


 俺は左手を差し出した。


「そ、そこまで言われて断るのは失礼だし……仕方なく行くわ!」


 エリスは俺の手を取った。

 結局、休日も三人一緒ということになるらしい。

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