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第28話:最強賢者はプレゼントする

 午後の授業が終わり、寮に戻った。

 帰りに学内の施設で調理器具数点と食材を買い揃えてきたのだ。


「なにしてるの?」


 リーナが興味深そうに覗いてくる。


「エリスが料理してるのを見て、ちょっと俺もやってみようかと思ったんだよ」


「ユーヤが料理……? できるの?」


 工程が多く難しい料理はできないかもしれない。しかし、今から作ろうとしているのは卵焼きだ。料理においては基本中の基本!

 これさえもうまくいかないようでは困る。


 油を引き、生卵を割ってフライパンでジュージューと焼いていく。

 香ばしい匂いが漂ってくる。

 醤油がないのが悔やまれるが、まあ仕方ない。適当に調味料を入れていき、卵を巻く。

 ――完成だ。


 エリスのように見た目も綺麗に……とはいかなかったが、大事なのは味である。


「へー、ほんとにできたんだ。私が味見してあるげるわ」


「よし、頼んだ」


 リーナに皿に乗せたアツアツの卵焼きを渡す。

 リーナはフォークで刺して卵焼きを食べ始めた。

 最初はなんともない顔をしていたのだが、だんだんと表情が険しくなり、顔色が悪くなっていく。


 あれ……? なんだかおかしいぞ?


「ユーヤ……ごめん……悪いんだけどちょっと無理……」


 今にも吐いてしまいそうなのに、リーナは吐かずに踏みとどまっていた。

 しかし、そんなに酷かったのか? 今日買った卵が腐っていたのだろうか。

 俺は卵焼きを食べてみる。


 ほんのひと切れ食べただけなのだが、わかる。

 ――不味い。

 なんだこれは。ゴムのような触感に、やたらと利いた調味料の辛み、よくわからない渋みや苦みまでもがこれ一つにまとめられていて、めちゃくちゃ不味かった。


 しかし、これは卵焼きだ。それほど工程が多いわけじゃないし、その工程も難しいものではない。

 どうしてこんな味になるんだ……?


「あっ……」


 思い出した。

 『賢者』の料理スキルは全職業の中で一番初期値が低く、レベルアップの要求経験値が高いのだ。美味しい料理は強化魔法(エンチャント)が付与されるので、戦闘にも重宝する。

 ソロ専門でも露店や代行掲示板から食料(アイテム)を買っておきさえすれば料理スキルに関しては補完可能なため失念していたのだ。


 要求経験値が高いだけなので、他職業の何倍も頑張れば同様に習得可能ではあるが……明らかに効率が悪い。


「リーナ……こんなもの食べさせて悪かったな」


 ということで俺には料理は絶望的だ。さらに言えば、アイテム製作(クリエイト)に関してもまったく自信がない。自信がないが……俺にもこれならできる。


 ☆


 昼休み。

 俺たちが食堂に行こうとするのをエリスが引き止めた。


「今日は間違えて作りすぎちゃったから……一緒に……どうかしら?」


 エリスの机の上を見ると、明らかに一人分ではない弁当箱が置かれていた。

 重箱のような容器に目いっぱい詰め込まれているのだとしたら、確かに一人で完食するのは無理だろう。


「間違えたにしちゃ作りすぎな気もするけど?」


 リーナが指摘する。

 その指摘をエリスは完全スルーの姿勢である。


「せっかくだし今日は屋上に行って食べてみないか?」


 俺の発案で、一年校舎の屋上まで駆け上がった。春のぽかぽかした陽気の下で食べる弁当はさぞ美味しいはずだ。


「やっぱりエリスの料理は美味いなー」


「小さいときからお母さんに教えてもらってたから」


 料理スキルは一朝一夕で身につくものではない。何度も何度もやってきたのだろう。


「そういえば、エリスって初日に俺と決闘したいとか言ってたけど、あれどうなってるんだ?」


「ああ……それ」


 エリスは少し気まずそうに俯く。


「その……勝てないと思った。だから……決闘は当分お預け」


「勝てない……?」


「二日目にダンジョンに行ったでしょう? その時に実力を見せられて、これは勝てないなって思った」


「そうか」


 俺は否定するわけでも、実力を誇示するわけでもなくただ『そうか』とだけ返事した。エリスの実力は本物だ。総合力ではリーナに敵わないが、剣だけでの実力ならエリスの方が上だとみている。

 けれど、現状では俺の方が剣の腕が上なのは客観的な事実なのだ。


「ところで、今日はエリスに渡したいものがあるんだ」


「私に?」


「まあ、弁当のお礼……かな」


 俺は九枚ほどの紙を取り出した。

 その紙の一枚一枚に魔法式が書かれており、魔力を込めてある。


「これは?」


「三種類あって、左から『冷凍術式』『冷蔵術式』『加熱術式』を組んである。これを使うと、瞬時に食べ物を冷やしたり温めたりすることができるんだ」


「でも……こんなのなんのために……あっ!」


「そういうことだ。『冷凍術式』と『冷蔵術式』は食べ物の保存用に、『加熱術式』を使えば冷えた弁当を温めることができる」


「す、すごい……! こんなの見たことない!」


「ま、まあちょっと趣味で作ってみただけなんだ。気に入ってもらえたなら嬉しいよ」


「ありがとう……大事にするね」


 エリスは、俺からのプレゼントをギュッと握りしめた。


「いやいや、すぐ作れるから大事にするんじゃなく使ってくれよな……」


 ともあれ、エリスに喜んでもらえたなら幸いだ。

 しかしなぜかエリスに優しくするとリーナが優しくなくなるんだよな……。もしかしてこいつらって仲悪いのか?

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲームらしい部分はリアルだからって 工夫出来るのに、なんで卵焼くだけの事が ゲーム設定のせいで出来なくなるのかが わからない。
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