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第25話:最強賢者は賢者の歴史を知る

 ……魔法式の研究。正直、少し興味をそそられる誘いではあった。


「それは卒業後も魔法学院で腰を据えて、ということですか?」


「そうじゃ。ユーヤ君ならきっと大成できると思っておる」


「そういうことなら、遠慮させていただきます」


 アイン先生は残念そうに肩をすくめた。


「収入のことなら心配いらぬのだぞ? 研究者というのは社会的にも名誉ある職じゃ。悪くない話だと思ったのじゃが」


「ええ、めちゃくちゃ魅力的な話だと思います。ただ、俺には夢があるんです」


「夢とな?」


「俺は自分の足で世界を周って、この目にその景色を収めるんです。それに、もっともっと強くなって色々な魔法を覚えたいんです」


「ふむ……なるほどの」


 アイン先生は感心した様子で黙りこくった。

 ほどなくして、


「……私としても君の夢を応援しよう。……ただ、身勝手なお願いではあるとわかっているのだが、この答案の魔法式についてご教授願えないだろうか。……これさえ分かれば取っ掛かりが掴めそうな気がするのでな」


「アイン先生、この落書きについてはもちろんお教えします。……ただ、何か勘違いされているかと」


「……勘違いとな?」


「ええ。俺は世界を見て周りたいと言いましたが、魔法式の研究をしながらでもそれは可能です。特別な施設や装置が必要というわけではないですし、どこでだってできます。俺はやるつもりですよ」


 アイン先生はパッと表情を明るくした。


「そ、そうか……! ユーヤ君が魔法式研究に参加してくれれば十年……いや、百年は加速するに違いないと見ておる。……今後ともよろしくじゃぞ」


「はい、俺としてもまだまだ知らないことだらけですから、アイン先生から学ぶこともきっと多いです。お互い頑張りましょう」


 ☆


 魔法演習室を出ると、図書館に向かった。

 魔法式に関してはひとまず置いておくことにする。

 俺が知りたいのはこの世界の成り立ちや仕組みといった根源的なものだ。直接書かれていることは多分ないのだと思うが、歴史くらいは学べるだろうと思う。

 ドレイク家の蔵書には残念ながら歴史書がなかったのだ。だから入学したら図書館に行こうと決めていた。


 図書館は、天井まで届くほどの大きな本棚がいくつも並んでいた。

 一般的な小中高校の図書館というよりは、市立図書館や大学図書館のような趣がある。


 俺は館内図を見ながら歴史書のコーナーへ足を運ぶ。


「うげ……」


 歴史書だけで数千冊は並んでいた。

 一日一冊読んでも千日以上はかかる計算である。

 どう考えても全部は読めないので、背表紙に書かれたタイトルを手掛かりに目当ての本を探すことにする。


 『神が生んだ失敗作』


 なんだこれは、と思ってこの本を手に取った。ハードカバー装丁のやたらと厚みのある本だ。

 前書きを読むと、この本は賢者に関する情報が載っている本だとわかった。


 小難しい言葉で綴られているため内容だけかいつまむ。

 『賢者』は神が生んだ失敗作であり、全職業において最弱とされている。賢者は生まれた時から能力を発揮するまでのスピードが遅く、成長しても強さを発揮することはない。もう一つの失敗作としての『聖騎士』に比べても遥かに弱い。生命構成組織レベルで何らかの欠陥があるのではないか。このような失敗作が生まれる頻度が極少であることが唯一の幸いである――。


 俺としてはツッコミどころ満載の本なわけだが、世間から『賢者』がどう思われているかについては理解が深まった気がする。

 これが常識として世間に広まっているのだとしたら、それが誤った認識であってもそう思われてしまうのも仕方がない。そもそも生まれる頻度が極少であるのなら十分なデータが取れていないはずだろ、と思うのは俺が賢者だからなんだろうな。


 俺の姉――セリカ・ドレイクは剣と魔法を学ばなかった。

 最初から自分の可能性を否定していたのだろう。

 これは一種の自己暗示なんだと思う。努力しても強くなれないという思い込みは、成長を阻害してしまう。

 セリカはもともと戦うことが好きではなかったようだし、彼女が彼女なりに幸せになってくれればそれで良いのだが、もしこんなデタラメが常識になっていなければと思ってしまう。


 俺はこの本は最後まで読むことなく閉じた。

 本棚に戻し終えると、男が一人、立っていた。


「やっと見つけたぞ! お前が噂の一年のエース、ユーヤ・ドレイクだな!?」


 その男は学院の制服を着た生徒だった。肩には金の紋章がついている。――二年か三年の首席生徒だということだ。爽やか系のマッチョマンで、女性からモテそう。あまり好かないタイプだな。


「俺は2-Sのディック・フェイロンだ。突然の誘いで恐縮なんだが、剣術部に入らないか!?」


 本当に突然の誘いだな。もう少し恐縮に感じた方が良いと思うぞ。


「えーと、部活の誘いってことですか?」


「うむ、その通りだ。今年の新入生に凄い奴がいるって聞いたもんでな! 声をかけさせてもらった。どうだ? 入る気はないか!?」


「まだ決めるには早いというか……もう少し考えたいんですが」


「うーん、確かにそうだよな! わかった、部活見学はいつでもやってるから少しでも興味があったらぜひきてくれ! それじゃあな! 良い返事を待ってるぞ」


 そう言ってディックは猛スピードで去っていった。今度はリーナかエリスを誘いにいきそうな勢いである。


「はあ……」


 どっと疲れた。

 ああいうリア充タイプと話すと短時間でもめちゃくちゃ疲れるのだ。でもすぐに諦めてくれてよかった。それにしても、俺なんかをわざわざ誘いに来るとは暇なもんだな。まあ、俺って賢者だしさすがにもう来ないだろう。

 ――そう思ったのだが、後になってそれが甘い考えであったことを思い知ることになる。

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