第24話:最強賢者は才能を見出される
教員たちが報告したのだが、翌日俺にも改めて話を聞かせて欲しいと学長からの呼び出しがあった。
「……という次第です」
「……ふむ、この度のユーヤ君の活躍、大変あっぱれであった」
学長は顔には出さないが、俺がレジーナ先生の指示を無視してダンジョンに入ったことを知っているのだろう。
考えてみれば当然だ。訓練予定だった他の班が足止め中に俺たちだけが単独でダンジョンに入ったのだから。
しかし、学長はそれを咎めることはなかった。
「それで、一つ気になったことが」
「ほう、聞かせてもらおう」
俺が気になったのは他でもない。ゴブリンリーダーの件だ。
「俺たちが倒したゴブリンの親玉なのですが、背中に紋様が刻まれていました。……つまり、テイムされていたんです」
「ふむ……テイムとな」
学長はテイムと聞いて深刻そうに呟いた。
「紋様の形は半月の形をしていたのですが、なにかご存じありませんか?」
「……!」
半月と聞いて学長はガタっと身体を揺らす。
「確証はないが……今から約十年前、聖騎士同盟なる秘密結社が存在していたということは知っている」
「秘密結社……ですか」
聖騎士……は職業だから、ようするにレギオンということだろうか。レギオンというのは他MMORPGで言う『ギルド』のようなもので、プレイヤー同士集まる組織だ。狩り重視のレギオン、PVP重視のレギオン、チャット重視のレギオン、あるいはオールマイティなレギオンとバラエティに富んでいたものだが、俺はソロ専門だったもので詳しくは知らない。
「彼らは聖騎士のみで構成された組織だった。……聖騎士の権利を守るという名目で破壊行為や大量殺戮を行ってきた犯罪組織だ。……構成員の腕に刻まれた刺青が半月の形をしていたのを記憶している」
「……十年前……というとその秘密結社は国が対処したんでしょうか?」
「いや、あまりに事が大きくなってついに中央衛兵が動き出したのだが、いざ出撃という時に彼らはパタリと活動を辞めてしまったのだ。……それから今日まで手掛かりはなにも掴めなかった」
「……そうなんですか」
しかし、考えてみるとおかしい点がある。
その秘密結社が聖騎士の権利を目的とした活動をしていて、聖騎士のみで構成された組織だった。それなのに、なぜ彼らはゴブリンリーダーをテイムできたんだ? あの魔法は『賢者』あるいは『狂戦士』にしか使えない。聖騎士以外を入れたとするなら簡単だが、それでは思想がブレている。……所詮は犯罪集団という事なのか?
このようなやり取りをしていると、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴った。
キンコンカンコンという音はこの世界でも変わらないらしい。
「それでは、失礼します」
「うむ、ご苦労であった。こちらでも聖騎士同盟については調べておこう」
「よろしくお願いします」
☆
午後の授業が終わり、寮へ戻ろうと支度をしていたところ、レジーナ先生に話しかけられた。
「ユーヤ君、ちょっといいかな」
「……? なんでしょうか」
「入学試験についてのことみたいなんだけど……ある先生が少し事情を聞きたいらしいの。放課後、魔法演習室まで来てもらえないかな?」
「試験のことですか? ……ええ、構いませんけど。どういった事情なんです?」
「不正がどうとかの話じゃないし、直接試験とは関係ないみたいなんだけど、魔法式研究の先生がちょっとユーヤ君に直接聞きたいことがあるみたいで。何度か直接聞こうとしたみたいなんだけどタイミングが悪かったみたいね」
レジーナ先生も詳しい事情は聞かされていないということか。
「わかりました。放課後、魔法演習室に伺います」
☆
魔法演習室……ここか。
校舎の一番端にあるその教室は、通常の教室の三倍くらいの大きさだった。
魔法演習の授業で使われる。魔法を発動するため広い造りになっている。
魔法演習室には白衣を着た白髪の老人が座っていた。
「やあやあ来たかね、ユーヤ君」
「1-Sのユーヤ・ドレイクです。どういったご用件で?」
「うむ、よく来てくれた。私はアイン・ニーデル。魔法式の研究をしている」
魔法式の研究? その先生がなぜ俺を呼び出したのか。わからない。
「この答案……正確にはその端なんじゃが……これを書いたのは君かね?」
アイン先生は俺が入学試験で解いた一枚の答案用紙を取り出し、俺に見せた。
その答案用紙は全問題に丸がついていて、光り輝いていた。
この光り輝いていたというのは比喩でもなんでもなく、本当に金色に輝いている。
「イタズラをしてしまいました……すみません」
俺が謝るとアイン先生は大げさに手を振って、
「いやいや、落書きは別にいいんじゃがそれよりこの魔法式がとにかく凄くての」
「全問丸がついたら光るっていうだけの魔法式ですけど……」
魔法式というのは魔法を構築し、発動するまでのプロセスを文字に起こしたものだ。
人間が魔法を発動するうえでは魔法式を文字に起こす必要はまったくないので、こんなものを解読し、使えるようにするのはある種特殊な嗜好を持つ者だけである。
俺は幼少の頃から魔法式の勉強をしていた。LLOでは自分で書き込むことのできなかったものだが、有用な仕組みだと直感したからだ。まあ、ゲームもパソコンもない世界では他にすることもなかったので暇つぶしという側面が大きかったのだが。
「我々は魔法式を研究し、ある一定のワードが関係するということまでは掴んでおった。……じゃが、これは既に完成されておる。……こんなものは見たことがない」
「仕組みは本当に単純なんですが……」
この世界の魔法の仕組みは前世の趣味で少しかじったプログラミングと似ている。要領さえ掴めばこのくらいの魔法式を書くことはそれほど難しくないのだが。
「ユーヤ君、卒業したら魔法式の研究をする気はないかね?」