第17話:最強賢者は班長に推薦される
「みなさん初めまして。私が一年Sクラスの担任のレジーナ・ウォルスミスです。呼ぶときはレジーナ先生で構いません」
担任のレジーナという教師は若い女性だった。
栗色の髪を後ろで結んでいる。身長はそこそこ高めで、優しそうな眼をしていた。
「さっそくですが、今日のホームルームはまず自己紹介から始めましょうか!」
……まあ、当然だよな。
日本の学校でも入学早々の時期と、クラス替えの度に自己紹介をやらされた記憶がある。
「では、出席番号一番、今年度主席のユーヤ君からお願いします!」
出席番号はクラスごとに、入試成績順につけられる。
俺は席を立ち、身体を少し逸らして皆の方を向いた。
すーはー。すーはー。
落ち着け、俺。
ここで失敗したら後に響く。友達はあまり多すぎるのも困るが、少なすぎて浮いてしまうのは良くない。入学から一か月以内にクラス内での立ち位置というのは決まってしまうのだ。
そして、最も重要なのがこの自己紹介だ。
少ない時間の中でいかに俺が普通であるか、害がないやつなのかをアピールする貴重な機会なのである。
そして、大事なのは表情だ。笑顔だけど、満面の笑みというよりは少し緊張している感じ。真面目というよりは話しかけやすい感じで。
「えーと、俺の名前はユーヤ・ドレイクだ。職業は『賢者』。仲良くしてくれると嬉しいな」
……。
あれ? 反応がないぞ?
内心ドキドキだった。
「はいよろしくね、ユーヤ君! みんなパチパチパチ~」
と、担任が言うと遅れて拍手が飛んでくる。
クラスメイトの表情を確認すると、概ね好意的なようで安心した。
俺の次にリーナが自己紹介をすると、俺の時よりも拍手が大きかった。内容は大差ない。あったとしたら、ちょっとウインクしていたくらいだ。男子生徒のハートを射止めて、女子生徒からは羨望の眼差しを集めていたのだが、何が違ったんだろうな。
俺とリーナの違いなんて美少女かそうじゃないかくらいしかないと思うんだが。
「じゃあ、次。エリスさんお願いね」
俺に初対面で剣を向けてきた女だ。面倒くさそうに立ち上がると、俺に人差し指を向けた。
……人を指さすなよ。失礼だって親から習わなかったか?
「私はこいつ、ユーヤ・ドレイク……この男に必ず勝つ。そして私の野望は世界一の剣豪になること。以上」
そう言ってエリスは座った。名前すら名乗ってないが……まあ印象には残ったな。
「えーと……エリスさんにパチパチパチ~」
クラスメイトたちは苦笑いで拍手したのだった。
思ったよりもこいつらは良いやつなのかもしれないな。
その後も自己紹介は続き、全員の紹介が終わったところで担任のレジーナは新たな話題を切り出した。
「明日からは一年生Sクラスを対象とした実践訓練を行います。その班決めを今からしますが、班長に立候補する人は手を上げてください!」
ふむ、実践訓練という事は魔物を倒すことを想定した動きをしなければならないということか。
おそらく親睦を深める意味もあるのだろう。
班長ともなれば、班を安全に勝利に導かなければならない。コミュニケーション能力と頭の回転が試される責任重大な役割だ。
無論、俺は立候補する気はないので誰の班に入ろうかと考えている次第である。
ポツポツと手が上がり始める。
成績は低めの連中だが、班員を統率する能力があれば問題はない。さて、どいつにしようか――。
「立候補するわ」
リーナが手を挙げた。全員の注目が集まる。
「ごめんなさい、リーナさん。折角の立候補なんですが、その……『聖騎士』は班長になれないんです」
「……どういうこと? 聞いてないんだけど」
「『聖騎士』に高い能力を持つ人が今までいませんでした。実技試験には危険も伴います。……そのため『聖騎士』の保護を目的に班長になることを禁じられたんです」
「そ、そんなの……!」
「決まりですから……」
リーナはしゅんと小さくなった。
それから程なくして、リーナは先生に質問を投げる。
「……先生、質問します」
「なんでしょう」
「班長を推薦してもいいでしょうか」
「構いませんけど……本人の同意が必要ですよ?」
「私はユーヤ・ドレイクを推薦します。……彼の班になら私は入りたい」
ちょ……。
俺に振るのやめてくれよ。せっかく候補を絞っていたのに。
「『賢者』は……あっ! 大丈夫ですよ。禁止の規定はありません! 入学者がこれまで一人もいなかったので規定されてないんですね。ユーヤ君、やりますか?」
「えーと……でも俺、あんまり何人も面倒見切れないっていうか……」
「それは心配しなくても大丈夫ですよ~。ユーヤ君が班長だとすると入れるのはリーナさんとエリスさんだけです。……あまり戦力に開きがあるとまとまらないので」
メンバーは多くても二人か。
なら……まあ。
「わかりました。……リーナがそう言うなら、やります」
「はい分かりました~。ではユーヤ君の班に入りたい人いますかー?」
リーナが手を挙げた。
驚くべきことに、エリスも手を上げていた。
「えっと……エリス?」
「他の班に入るなんて論外だから。それだけ」