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第14話:最強賢者は最強すぎる

「それでは、魔法試験を行います。一番配点の高い科目となりますので、受験者の方は全力を出せるよう頑張ってください」


 魔法試験は剣術場を出てすぐそこの魔法演習場にて行われる。

 剣術の試験が終わってすぐに移動が始まった。


「リーナって剣術も結構できるんだな。驚いたよ」


「私は聖騎士だからそのくらい当たり前よ。ユーヤの方がずっとおかしいと思うわ」


「ははは……」


 乾いた笑いしか出てこない。

 剣術試験でも目立ってしまったのだ。学校という組織では、いかに自分を小さくするか、目立たなくするかが平穏な学生生活を送る上で重要なことなんだと思う。

 前世の高校でもハイスペックすぎる人間は嫉妬の対象に、ロースペックすぎる人間は嘲笑の対象になっていた。だから普通が一番なのだ。

 なのに、俺は目立ってしまった。


「でも、この感じだと首席合格は無理かも……」


 リーナは俯きがちに呟く。


「そういえばリーナはどうして首席合格したいと思ってるんだ? 合格すれば首席じゃなくても入学できるんだろう?」


「首席合格者は毎年特待生として入学する慣例になっているの。……特待生になれば学費の全額免除が受けられるわ」


「……もしかして、生活厳しいのか?」


 リーナはこくんと頷く。


「でも、学費に関してはどうにでもするつもり。魔法学院の生徒ならギルドに加入して冒険者をすることもできるし」


「じゃあどうして――」


「聖騎士は弱くないんだって、証明したい」


 リーナ……。


 俺も『不遇職』とされた職業で育ったからわかる。

 努力して強くなっても、力を見せつけるまでは他人からの嘲笑が止まらないのだ。職業で差別しない人もたくさんいる。ファーガスおじさんがそうだ。父さんがファーガスおじさんに俺の職業を賢者だと説明したとき、彼は『そうか』と聞き流していた。

 『賢者なら剣を使えたほうが良いよな』と言って稽古をつけてくれた。


 でも、そんな人と出会わなかったとしたら、リーナのように力を誇示しようと考えたかもしれない。

 どちらが正解なのかわからない。

 多分、どちらも正しいんだと思う。


「私ね、お父さんとお母さんが二人とも聖騎士だったの。……その娘も聖騎士で、近所中からできそこないって噂されてた。でも、お父さんとお母さんは私を大切に育ててくれた。言葉では言い表せられないくらい感謝してる。だから……聖騎士として何か結果を出して報いたいの」


「それで首席入学ということか」


「そう。首席入学者は入学試験発表の翌日には新聞と職業が載って国中の人が知ることになる。今の私にできることがあるとすればそれだけ」


 俺も新聞には目を通していたが、毎年首席で合格するのは『狂戦士』か『戦士』だった。俺が生きてきた15年の間に『聖騎士』が首席だった年はなかったように思う。

 ……しかし、彼女の夢も決して無謀なものではない。

 俺さえいなければ、リーナは十分に首席を狙えていた。


「リーナ、そんなこととは知らずにすまない」


「謝らないで。ユーヤが強いのは努力の結果なの。私があなたより頑張っていれば首席合格はできた。……それに、入学してから結果を出すチャンスはあるもの。……だから、間違っても手を抜いたりなんかしないでよね」


「当然だ。試験は全力で挑ませてもらう。その結果、もしリーナが主席になれなかったら――」


「なれなかったら?」


「俺が責任をとってやるよ」


「そ、それって……」


 リーナがどういうわけか顔を真っ赤にしてしどろもどろになる。


 なぜ顔を赤くしているのか聞きたかったのだが、次の瞬間には俺たちの意識は試験に向いていた。


「それでは一人目、始めてください!」


 ☆


 魔法試験は、魔法の規模と正確さをみる試験らしい。

 試験内容は20メートル先に設置された的に、任意の魔法を当てるというもの。

 的は魔力を吸収する性質のある魔石で作られており、壊れることはないと説明を受けた。

 魔法に関してはなんでも良いが、20メートル先に届くものである必要がある。


「次の方、始めてください」


 的はいくつもあり、横並びで複数の受験者が魔法を発動する。

 俺のとなりの男を見てみよう。

 

 【火球(ファイヤーボール)】を発動し、的に当てに行っている。

 的の端に当たり、的が焦げ付いたように黒ずむ。

 黒ずみはすぐに元に戻った。


 俺が悠長に観察していると、残るは俺一人になった。


「どうしたのですか? 攻撃してください」


 試験官から急かされる。急かされるが、俺としてはちょっと確認しておきたいことがあったのだ。


「さっき的は壊れないと説明を受けたんですが、もし壊れてしまった場合は失格とかになりませんよね?」


「そもそも壊れるなんてことありえません! もし壊れたら満点どころでは済まない話になってしまいます。安心して攻撃してください」


「そうですか。わかりました」


 ということで、俺は安心して【氷柱(フリージングアロー)】を発動する。

 ブラックベアーに攻撃したときよりもレベルが高くなっているおかげで、前よりも大きな氷になっている。


「な、なんだあれ……でかすぎるぞ!」


「本当に壊すなんてことないよな……」


「ないない。過去の歴史で壊した者なんて一人も……」


 そして【氷柱】がロケットのようなスピードで飛んでいく。

 この【氷柱】はもはやタダの氷ではない。ダイヤモンドより硬い素材になっている。それが超高速で飛んでいくのだ。

 俺は『どんなものでも壊せる』自信があったが、『どんな攻撃でも壊せない』的が相手なら仕方ない。

 しかし、矛と盾ってどっちが強いんだろうな。


 ガシャアアアアアアンッ


 【氷柱】は見事に的のど真ん中に命中する。

 地響きがするほどの衝撃。

 砂埃が舞い、しばらくの間様子が伺えない。


 砂埃が落ち着くと、試験官が的を確認しに行く。

 しばらくして、試験官の呻き声が聞こえた。


「し、信じられない……ま、的が貫かれている……あ、ありえない……!」


 ああ……またやってしまいましたか。

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