第13話:最強賢者は目立ってしまう
「お、おい……あいつ……あのファーガス・マグワイアと知り合いらしいぞ!?」
「魔力結晶を粉砕したって噂は本当だったのか!」
「いや、でも魔法だけではファーガス様には勝てるわけがない!」
ほらな。
めちゃくちゃ注目を浴びているじゃないか……。
入学してから浮いちゃったらどうするんだよ……。
「ユーヤ、好きなタイミングでかかってこい!」
ファーガスは既に剣を構えている。
やれやれ、こうなったら、マグレで勝ったことにするか!
俺の剣術は父であるレイジスから習ったものだが、目標にしてきた父さんに勝つためには動きを読まれてはいけない。そのため、自己流にアレンジしている部分がある。
父さんの剣技に似ていると騙して、俺本来の剣技で叩きのめす。
これでいこう。
「一つ確認したい」
「どうした? 言ってみるが良い」
「剣は一本しか使っちゃダメなのか?」
ファーガスは『ふむ』と顎に手をあててしばし考えるような素振りを見せた。
「そんな規定はないな。しかし剣を二本使う者など聞いたことがないが……」
「ルール的に問題ないならもう一本貸してほしい」
「ふむ、その程度のことならいいだろう。……おい、そこの試験官。ユーヤにもう一本剣を渡してやれ」
「はっ! 直ちに!」
ファーガスが指示を出すと、下っ端の試験官が剣を持ってきた。
最初に渡された剣とまったく同じものだ。
丁度いい重量がある良い剣だ。
俺は剣を両手に一本ずつ持つ――二刀流だ。
普通、剣技というのは剣を両手で扱う。しかし――俺は魔物を相手にすることを想定し、右手に剣、左手に盾を持てるように腕を磨いていた。
これがどういうことか。
今は対人戦であって、試験である。試験官が受験者に致命傷を与える攻撃をすることはない。
ならば、安心して両手に剣を持つことができるのだ。
そして、『賢者』は『剣士』や『聖騎士』『狂戦士』と違い、二刀流のスキルを持つ。
単純なパワーではさすがにファイター職には負けてしまうため、手数で圧倒するという作戦だ。
それに、剣での攻撃は両手・片手は関係なく同じダメージが入る。……ということは、二刀流を使った方が合理的だ。
剣は一本より二本のほうが強い!
「あ、あいつ剣を二本だと!?」
「そんなの扱えるのか!? 正気かよ!」
「こんなの見たことねえ!」
さて、そろそろ始めるか。
「いくぞ!」
重量感のある剣を両手に携え、ファーガスに向かって飛び込んでいく。
間合いが詰まると、ファーガスが剣を振る。
カキンッ!
剣と剣がぶつかる。
さすがのパワーだ。しかし、そんなことは前に手合わせしたときに知っている!
俺はもう一方の剣をぶつけることで、パワー差を埋める。
ジリジリと俺が推せているようだ。
「うぬぬ……うおおおおおお!!」
ファーガスの力が強くなった。
【咆哮強化】……『剣士』の持つ自己強化魔法か……。本人は自覚していないようだが、強化魔法がかかっている。このままではまずいな。
一旦俺は後ろに跳躍し、間合いを取る。
今度はファーガスが剣を両手に飛び込んできた。
俺は剣をクロスさせ、二本で攻撃をブロックする。
一本では押し切られていた攻撃でも、二本なら耐えることができる!
「ファーガスおじさん……さすがだよ」
「なにを……ユーヤも腕を上げたな」
俺とファーガスが同時に後ろに跳躍し、間合いを空ける。
このまま長期戦に持ち込むと、リズムを読まれてしまう。単純な剣技では経験年数が長く、場数を踏んできたファーガスには勝てない。
……なら、次の一撃に賭けるしかないか……!
俺とファーガスが同時に飛び出し、一瞬の間に間合いが詰まる。
ここだ!
俺は左の剣を投げ捨てる。
素人相手ならかなり危険な行為だが、ファーガスなら剣を弾くだろう。
俺はそのまま全速力で駆け抜け、右に飛び出す。
俺が左から投げた剣を弾くため、ファーガスは右を向いている。
俺は反対側から近づき、ファーガスが剣を弾いたのと同時に首筋で右手の剣を寸止めする。
「……俺の勝ちだな」
卑怯と思うかもしれない。ズルいと思うかもしれない。
本気で戦おうという相手に、裏技的な方法を使って追い詰めたのだから。非難されるかもしれない。
「さすが……ユーヤだな。……完璧なまでの剣技でだった」
しかし、ファーガスは言い訳をしなかった。
「ごめんなさい。卑怯な真似をして」
「卑怯? どうしてそう思う?」
ファーガスは努めて優しく聞いてくる。
「だって……剣術の戦いで正々堂々しないのはマナー違反というか」
「何を言っているんだユーヤは。これは『剣術』だぞ。あくまで魔物と戦うための術だ。命の奪い合いをするための技。どれだけ強かろうと、戦場で死ねば敗者になる。……ユーヤの戦いぶりは見事だった」
てっきり怒られるかと思っていたので、俺は肩透かしをくらったような心境になった。
「しかし俺から一つ聞きたいんだが……」
「どうしたの?」
「なんで魔法を使わなかったんだ? ユーヤは魔法が使えるんだろう?」
「え、でもこれは剣術の試験……」
「さっき言ったように、剣術とは魔物を倒すための技。魔法を使ってはいけないなんてルールはないんだが。……それに、魔法学院の試験だしな」
え、魔法使ってよかったのか?
剣術の試験だから魔法を使うのはズルというか……完全にルール違反だと思っていた。
いやまあ確かに無自覚とはいえファーガスも自己強化魔法を使っていたから、ダメならあの時点で止められていたか。
「いや、まあそれは……ファーガスおじさんと純粋に剣技だけで勝負したくて……」
カッコつけるしかなかった。
「ふむ、そうなのか。俺も今日は楽しかったぞ」
はぁーー。なんか無駄にエネルギーを使った気分だ。
しかも、卑怯な技を使ってマグレで勝ったことにするつもりが……。
「ファーガスさんに魔法を使わずに勝っちまったぞ!」
「あ、あの伝説の剣士『レイジス・ドレイク』様と肩を並べる剣豪に……!」
「あいつ確か魔力結晶を……」
……先が思いやられる。