第9話:最強賢者は王都を知る
山賊を衛兵駐屯地に転送してからはたまに出てくる魔物を片づけたくらいで、特に問題なく到着した。
クーネの町を出た時よりも強くなった気がするので、きっとレベルも上がったのだろう。
ゲームみたいにステータスが確認したい。……それは贅沢としてもレベルくらいは知りたいのだが考えておくとするか。
さて、まずは魔法学院の試験日時と内容を確認するとしよう。レベルはそこそこ上がっているが、まだまだチート級の性能とは言い難いのだ。勉強は欠かさなかったので座学の方は大丈夫だろうけど、実技がな……。
俺は入り口にある案内図を確認し、魔法学院に向かった。
王都アリシア。クーネの町よりもずっと大きい。さすが王都である。LLOで見ていた時と様子は大して変わらないのだが、視点が違うので迷いそうになる。
魔法学院に向かおうと思ったのは、試験の日時と場所の調べ方が思いつかなかったからだ。多分行けば教えてくれるだろう。
魔石屋の角を曲がろうとした時だった。
「うおっと」
「キャアアア!」
反対側から曲がろうとしてきた女と肩がぶつかってしまった。
ゆっくり歩いていたのでお互い怪我はないはずなのだが、ここはごめんなさいをしておかないとな。
「すみません、ちょっと不注意で……」
「ほ、本当に……」
声が小さくて聞き取れない。今にも消えてしまいそうな声だ。
その姿をよく見ると俺と同じ年くらいの少女だった。
髪は白に近い金髪で、碧眼の西洋風完璧美少女。
「ほんっとうに迷惑! アナタ何様のつもりなわけ!? 魔法学院首席候補のリーナ・ブライアースが私だってことわかってる!? ねえわかってる!?」
リーナは俺の胸ぐらを掴んでユサユサと揺らしてくる。
こめかみに青筋が入っていてかなりお怒りのようである。
「す、すまなかった! そんなに偉い人だとは……って、首席候補ってどういうことだ? 試験はもう終わっちまったのか?」
俺が質問すると、リーナ揺らすのをやめて俺から手を離した。
きょとんとしている。
「あれ? もしかしてアナタも受験者なわけ? もしかして私、同級生になるかもしれない人殴っちゃったわけ!?」
「そうだよ……でももう試験が終わっちまったんなら仕方ねえ」
「いや、終わってないけど?」
「じゃあなんでリーナさんが首席候補なんだよ」
「その言い方止めなさい。リーナでいいわ。そうね、私は首席合格が決まっているようなものだからよ」
「魔法学院は出来レースをやってるのか? そしてそれを俺に教えていいわけ?」
リーナはにまぁーっと笑う。よくぞ聞いてくれましたとばかりに。
「出来レースなんてやってるわけないじゃない! 私が最強で最高だから首席合格なの。おわかり?」
「……それはどうもおめでとさん。そんなリーナはどんな職業で?」
「聞いて驚きなさい。私の職業は『聖騎士』よ!」
「お、おう。普通に強いな」
ドヤ顔で自慢するリーナ。確かに聖騎士は当たりジョブだし、そんなに得意気に自慢されてもどう反応すればいいのかわからないのだが。
にも関わらず俺の反応が気にくわなかったらしい。
「アナタもそうなのね」
「は?」
「私が『聖騎士』だって名乗るとみんな気を使って「ああ、そうだね。強いね」って言うのよ。確かにハズレ職かもしれないけど私は努力で強くなったの!」
リーナは膝をつき、シクシクと泣き始める。
そういや姉さんも『聖騎士』に自信を持ってなかったよな。最後まで確認しなかったがこの世界では『賢者』と同じで弱い設定にでもなっているのだろうか。
「勝手に誤解されて泣かれても困る。俺の職業は『賢者』だ。だから君の気持ちはよくわかる」
「え……? 『賢者』? 数十年に一度しか生まれないと言われる何やっても使えないと言われた最弱の職業?」
「そこまで酷いとは知らなかった……いや、まあそれはいい。確かに『賢者』だが、俺は地元の町で一番強くなった。俺はこの職業に誇りを持っているし、弱いなんて思ってない。リーナもそうなんじゃないのか?」
「私だって……そう」
「だよな。俺の言いたいこと、伝わったか?」
「うん……わかった……伝わった」
リーナは泣くのをやめ、元気になった。
「よし、じゃあ試験はいつだ?」
「明日の九時からよ」
「場所は?」
「魔法学院の校庭に集合で……って、何言わせてるのよ!」
ふむふむ、これで魔法学院まで行く手間が省けたな。ラッキーだ。
まさかたまたまぶつかってきた女から聞けるとは思いもよらなかった。
「何って、俺は試験の場所と日時を知りたかっただけだ。今から魔法学院に行こうとしてたのも調べるためだしな」
「知らずに受験しようとしてたのね……なんの対策も立てずに『賢者』が……いえ、たとえどんな職業でも受かるわけないわ」
まあそう言われても仕方ないな。
でもしょうがないだろ! 俺だって今日知ったんだよ!
「それはまあ、受けてみなくちゃわからねえだろ? 座学には自信あるし」
「ほんっとうに何も知らないのね……。いい? 魔法学院の試験は実技試験400点と座学試験100点の合計点が高い順番から合格する。つまり、座学なんて勉強しても実技の四分の一しかないわけ。それに座学試験だって五肢択一式だから無勉でも合格できなくはないわ」
おいおい魔法学院、それで大丈夫か?
結構勉強しないとオリジナル魔法とか作れなくね?
「そうか、詳しく教えてくれてありがとな。お前めちゃくちゃいい奴だな」
「そ、そんなことない! アナタが『賢者』だからちょっとだけ優しくしただけ。気持ち、わかってくれるから」
「そうかよ。でも助かったぜ。明日また会おう。それと、入学したら友達になってくれよな」
「うん、わかった……じゃなくて! アナタとは今日これきりだから! 対策なしで受からないから!」
「へいへい」
リーナと分かれてから、俺は安価な宿を取り、夕食を食べるとすぐに身体を休めた。
今日は200枚の金貨をゲットして、試験のこと調べられて、入学前に友達もできた。
前世でここまで充実していたことなんてなかったよな。
明日も楽しみだ。