1 百姓の強み
データだけ入手したって、クリアができるとは限らない。道具を与えられても、上手く使えるわけではないのだ。重要なのは、それをどう扱うかである。
攻略本と書かれたこの本を入手できたのは僥倖である。なんで村の近くに落ちてたのに誰も見つけなかったのかは不思議なところではあるが…まあそれはどうでもいい。これをうまく使えば、魔王を倒すのも楽なのではないか?
シュウは考えた。ここに書かれている以上のことはないのか?と。実際に書かれている以上のことはたくさんあるのだった。乱数調整とかいうものは役に立たないし、力の薬を飲んだとて、ここに書いてあるだけの能力上昇まではタイムラグがある。他にも、ダンジョン攻略がなされていない前提で書かれているので、攻略されたダンジョンのアイテムは入手できなかったり、逆にここに書かれていない場所にダンジョンがあったり…全てがこの本の通りというわけではないようであった。ラッキーだったのは、家の中のタンスにあった家宝の龍魔刀が、この世界で一番強い武器だということだ。なんでこの本にはうちの家宝まで書かれているのだ。恐ろしい。まあ、武器が強いからと言って、勝てるわけではないのだ。調子に乗りすぎないのが一番である。
シュウは怠け者であったが、バカではなかった。ここに書かれている魔法は一つの属性しか持っていないが、もしかすると二つの魔法をかけ合わせて新たな魔法を創造することもできるのではないか?と考えた。龍魔刀のおかげで彼のレベルは30まで上がっている(のだが、彼は見えていない※注 本人にはこのレベルは見えていません。あとの話で付け加えます)。王に謁見した時点から見ると、26の上昇である。その時点でたくさんの魔法、特技を習得している。たとえば、炎魔法に氷魔法を組み合わせると、水蒸気爆発(この時点で彼は水蒸気爆発を知らない)が起こるわけであるが、これを発動させるためには炎魔法で溶けた水を圧縮しなければならない。このために必要なのが風魔法である。組み合わせは素晴らしい発想であった。
彼は百姓をしようと思っていた。そのため、天候に関する知識は他の追随を許さないのである。特に陸地では。水は蒸発し、雲となって雨を呼ぶ。氷を溶かして雲を作ると、上手くいけば雷も作れるだろうし、氷を大量に作れれば、大洪水を発生させて魔物を一気に洗い流すこともできそうだ、と考えたのである。科学者でもないので「爆発」は思いつかなくとも、「天候」に関することにしては誰よりも知っているので扱いやすい。いや、扱うものではないのでまた別の話だが、予想はできる。
シュウが天候の魔術師と呼ばれるのは、もっと後の話である。