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ヒューワロ

この小説の各エピソードのタイトルは意味不明な単語が多くなる予定です。

 本日は曇天なり。だからなんだと言う話だが。嵐だろうが日照りだろうが、俺のする仕事は変わらない。


 防護服を着て、部屋の中に入る。そこに一人の人影があった。


「先輩、おはようございます!」

「おーす、おはよう。仕事を始めるぞ」


 仕事の後輩だ。相変わらず元気だなぁ。


「今日は採取の日だな。機械持ってこい」

「わかりました!」


 後輩が機械を取りに行っている間に、俺はエサの準備をしよう。


 壁際にある冷蔵庫を開けると、様々な缶詰がある。その中から“ミンチ”と“ジュース”の缶詰を取り出した。


 それらを台所へ持っていき、蓋を開ける。そして、台所に置いてあった大きな器に両方の中身をぶちまけた。後は専用の棒でかき混ぜるだけで完成だ。


 もう慣れたから何ともないが、赤いミンチと赤いジュースが混ざり合う様は最悪にグロテスクだ。防護服が無ければそれに鉄の匂いもついてくる。培養技術も進歩したもんだ。


 後輩はコレに全然慣れないらしく、エサの準備は何時も俺がやっている。俺が退職するまでには一人でできるようになって欲しいものだ。最も、機械と人工知能による全自動化の方が早いかもしれんが。


「先輩、取ってきましたよ」

「オーケー。んじゃ、行くか」


 後輩が掃除機の様な機械を、俺がエサの入った器を持ってアレが居る場所へと向かう。念の為、途中で後輩とお互いの防護服を点検したが問題はなかった。こう言うのをちゃんとやっとかないと命取りになる。


 カードを使って扉のロックを解除し、中に入る。到着だ。


 部屋の中には大きな檻があった。動物園とかで見かけるタイプのやつだ。しかし、中に居る生物は動物園とは無縁だろう。ある意味、動物園の動物達よりも珍しい。


「ヌロロロロォ……!」


 エサの匂いに反応したのか、イモリをバカデカくした様な生き物が鳴き声をあげる。


 コレが俺たちの世話しているバケモノ、“ヒューワロ”だ。


 今の所飼育しているのは一匹のみ。この個体の大きさは約三メートルだが、まだまだ大きくなるらしい。こんなのでも一応両生類なので、檻の中にはプールがある。


「開けるぞ。気を抜くなよ」

「はい!」


 檻の鍵を開け、中へ入る。そしてエサを何時もの場所に置き、直ぐさま離れる。……この瞬間が一番危険だ。


 ヒューワロはエサの入った器に近づき、大口を開けた。そしてそのまま、器の中身を一口で丸呑みしてしまった。後輩が顔をしかめていた。


 防護服があるとはいえ、この生き物と一緒の檻に居るのは落ち着かない。この作業をする度に、生物としての本能が警告を飛ばしてくる。自分の頭が正常なのは嬉しいが、ストレスが溜まって仕方ない。


 ヒューワロはエサを食べると、一時的に身体から滲み出る粘液の量が増える。この時期の粘液は特に量が多く、上質だ。コレを採取し、納品するまでが俺らの仕事だ。


 なんでも、この粘液には濃厚な“人素”が含まれているらしい。ヒトの社会にヒトとして溶け込んでいる魔物には必要不可欠な成分だ。それなりの需要がある。


「よし、動きを止めろ」

「……了解です」


 後輩が機械を構え、スイッチを押す。一見何も起こってない様に見えるが、機械の先端からはヒューワロの活動を鈍くする音波が発生している。催眠波とか言うやつだ。


 ヒューワロが眠ったのを確認し、後輩が機械で粘液を吸う。とにかく量が凄い。吸い込みが追い付かず、床にネバネバの水たまりができていた。


 ヒューワロがミイラにならない程度に粘液を残しておき、粘液採取を終了する。後は檻を閉めて納品するだけだ。


 納品する場所へ向かう途中、後輩が深刻そうな顔をしていた。心配になって声をかける。


「……何か問題でもあったか?」

「ああ、いえ。問題とかはありません。大丈夫です。でも……」

「でも?」


 俺が先を促すと、後輩は躊躇いがちに口を開いた。


「最近、培養肉を作る現場を見る機会がありまして、そこで本物との違いを聞いたんです。それから、ずっと気になっていて……」


 俺はまだ知らない。後輩が次に言う事が、俺の運命を大きく変え、やがて社会を巻き込む事態になるなんて。


 と言う文が何故か頭に浮かんだ。小説じゃあるまいし。後輩が言おうとしている事も結構どうでもいい様な――


「……ヒューワロのエサって、本当に培養ですか?」


 どうしようか、コレ。


後輩が気付いた違和感は、やがて世界の歪みを暴くきっかけとなる。真実を知った彼らを待ち受けるモノとは……そして、平凡に過ぎない彼らが取る選択は……?


次回! 「逃亡」

お楽しみに!

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