目覚めの雨
この小説は一体何なのか。調査隊は答えを求め、ジャングルの奥地へと向かった。
雨が降っている。何の変哲もない、透き通った雨が。
傘を差して、街を歩く。時々水たまりを踏んで、ちゃぷんと音がなる。雨は好きだ。色々なものを流してくれるから。雨の日に出かければ、私の心も洗い流してくれそう。
特に目的も無く公園にたどり着いた。雨のせいか人はいない。
「もし、そこのお嬢さん……」
……至って平和な景色だ。ただただ、雨の音だけが聞こえる。
「……すいません、少し、よろしいでしょうか?」
…………こんな公園も偶には良いかなと思ったけど、今日はいいや。すぐ帰ろう。
「貴女は幸運な方です。適性者の上に、機会にも恵まれたのだから」
………………いや、有無も言わせずに進行しないで?
「この雨は特別な雨です。人々の中に眠る種を発芽させる、恵の雨……あるいは、苗床に植える種そのもの」
オーケイ、意味が分からない。ペストマスクを被ったこの人は何を言っているんだ。と言うかこの人誰? 何で傘も差さずにずぶ濡れなの?
「雨が止めば、変化はすぐに訪れるでしょう。些細な変化ですが……きっかけには十分。ククク。きっと、貴女の世界は大きく変わる……!」
……通報してもいいかな? それともそれっぽく戦慄しといた方がいい?
「さあ、目覚めて下さいッ!! その心を洗い流し、己に取り憑くモノを自覚するのです!」
「きゃっ!?」
突然、暴風に襲われる。さっきまであんなに穏やかな雨だったのに。すっかりずぶ濡れだ。
「……!?」
で、どうしてペストマスクマンは驚いたかの様に首をブンブン振っているのか。え、この人が何かしたんじゃないの?
「……風邪を引く前に帰った方がいいでしょう」
急に親切。
「そう言う訳で巻きますが」
尺とかあんの?
「バタフライエフェクト……蝶の羽ばたきが結果的に気象を大きく変えるという事もあります。私と貴女の邂逅もまた然り。“彼ら”が一体何を観測したのかは知りませんが……この運命にも意図があるのでしょう。――次の展開に期待しています」
そう言って、ペストマスクの男は消えた。まるで最初からいなかったかの様に。
それから私は家に帰り、シャワーを浴びた。一体、あれは何だったのだろうか。なんだか胸が騒つく。
夜になる頃には雨は止んでいた。あの人の言う通りなら、これから何かが起こる。だけど、訳の分からない話を信じて怯えたりするのも馬鹿らしい。私は少しの不安を抱えつつも日常生活をこなし、眠りについた。
朝が来て、また平和な日常が始まる。昨日の事が頭から離れないが、それでもいつもの道を歩く。途中であの公園の側を通ったが、特に変わりは無かった。
結局、何が変わったのか分からないまま一日が過ぎた。既に何かが起きたのかも知れないが、考えても特に引っかかるものがない。不安が解消されないまま、今日も私は眠る。
一週間、特に何も起きずに過ぎていった。私の知らない所で何が動いている気がしてならない。それが表に出るのは明日の事なのか、それとも、今この瞬間か。ふとペストマスクが自覚が云々とか言っていた事を思い出し、試しに瞑想してみる事にした。
そして一ヶ月後……特に何も起こらない。本日も平和なり。すっかり瞑想が日課となったが、それ以外の変化無し。
何だったんだろう、アレ。
冷静に考えれば、ジャングルの奥地に答えなどある訳なかった。調査隊は遭難した。




