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Lost Reaper《ロスト・リーパー》  作者: 桂海司
恵まれていた世界
6/8

【第六節】始まりの門

今回もよろしくお願いします!

 カゲロウのようにゆらゆらと揺れていた電車が風切り音と共に停止した。俺と夜桜、体格の大きい見知らぬ男三人、ぽっかりと空いた空間を寂しそうに音が反響する。

眼前では、その男が蒸し暑く吊革を掴んでいた。お願いだから座ってくれ…席ならたくさん残ってるだろ…

 ガシャ__!!

 電車の扉が開くと、俺と夜桜は緊張した心を若干和らげるように深呼吸をしてから、向こう側へと移動しようとする。が、前方にいた吊革を掴んでいた男が半ば眠そうに扉に向かいだした。

 ガコッ___

 …!???

 ええ…と声を吐くと、驚きと困惑で閉口する。大男は扉に頭をぶつけると、そのまま停止したのだ。何という状況…

 まるで石になる魔法でもかけられたのだろう…きっとそうに違いない。

「何なの…これ…」

 夜桜もものすごく困惑している。

 電車の乗り方マニュアルに【眼前の扉で大男が停止した場合】なんてあったら対処できたかもしれないが、そんなものはない。只々困惑するのみだ。

「仕方ない、別の車両の扉から…」

 夜桜は凛とした足を大男に振りかざした。ミチッと音が鳴って男の下半身にヒットする。そこはタブーな場所!神域!見てるだけで痛いからやめて!!

「あがっ_____!!!」

 大男は突然の衝撃に悶絶すると、倒れこむように電車外へ抜けた。暫くコンクリートの上でのたうち回っているのを見ると、何とも言えない無常感が膨らんだ。

「お前、流石にこれは駄目だろ」

「道を妨げるのは悪いことに決まってるでしょう?」

「それはそうだが、お前のやったことは男にとってのトレジャーを汚したことになるんだぞ?…おい、待てよ」

「…」

 夜桜は俺の言葉を聞かずにスタスタと電車を抜ける。俺もそれに沿って電車から抜けたが、どうも男の事が腑に落ちない。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…。そんな事を思いながら男の横を通り過ぎた。


 暫しして駅から外に出ると、大きな光量が瞼裏に入ってきた。右手で射光を妨げると、眼前には大きな壁が構えられているのが分かった。

 少し、悲しい。

 まるで鳥かごのように囲んでいるこの壁は、あたかも俺達を監禁しているようにも思えた。

「あそこが、集合場所」

 夜桜はそう言うと左手で人の集まっている場所を指さした。その向こう側には固く閉ざされた紫色の門が構えている。


「貴方、戦争は楽しみかしら?」

 夜桜は若干馬鹿にしたように言う。

「いいや、嫌いだ」

 俺も苦笑して言葉を返した。


 ✤✤✤


 ついにこの時が来た。来たんだ。待望の時間が!

 俺は一人きりのテントの中で意気揚々と佇んでいた。作戦開始時刻である正午までは若干時間があるが、この胸の高鳴りは抑えられそうにない。じっとしてなどいられなかった。

 俺はテントの先にそびえるフィーノ連合国の壁をギロッと睨む。





「母さん!…また、せんそうに行くの?」

 それは身が凍る程の寒さの日だった。雪と言う白い粉がふわりふわりと降っていたのを今でも覚えている。母さんは赤い手袋に白い息を吐きながら告げた。

「そうよ」

「母さんは兵隊さんなの?」

 俺は母さんに抱き着いこうと飛び込む。それでも、その時の身長じゃ、まるで腰にも届かなかったのだから、空ぶったように母さんの後方の雪に柔らかく包み込まれた。

「大丈夫?一樹(かずき)?ふふ、相変わらず危なっかしいわね」

 そう言うと、母さんは雪まみれになった俺の身体を持ち上げて、優しく包み込む。まるで布団のように温かくて、安心した。

「母さんは誰を倒すの?」

 俺がそう聞くと、母さんは優しく言い返してくれた。

「倒すんじゃなくて、守るの」

「何を守るの?」

「もちろん、一樹の事よ、それにこの国だって…」

「そうなんだ…」

 俺はどうにか言い返して、母さんが戦争に行くのを止めたかったが、納得してしまって、有無を言わず承諾してしまう。

 母さんはニコッと微笑みを俺に送ると、温かい声で言った。

「一樹がもし、将来兵隊さんになるんだったら、誰かを、何かを守るために戦いなさい。この世で最も残酷なことは、背負うものが何もないことなのよ」

 俺は有無を言わず頷く。全くその通りだと思った。




 俺は兵隊になった。




 神々の末裔(ゴッドロスト)という、素晴らしい能力を授かったのも運命なのだろう。

 ジャリッ…!!!

 そんな音が掌で響いた。


 ✤✤✤


 薄茶色の地面には大きく刻み込まれた足方がついていた。

 何を背負えば、ここまでになれるのだろう。

 そんな思いが頭の中に上り詰める。

「がっはっは!そんな深刻な顔するな、な~に、大した仕事じゃないさ」

 ガシッと肩を掴まれると、強烈な力で右方に引っ張られる。堕落したように男の方を向くと、はっとしたように目を見開いた。

「そ、そうですね…」

 思わず口ごもる。俺は少し居心地が悪いように下を向いてはははと愛想笑いする。

 この大男、電車の時の金的男じゃねぇか…生きてたのか…

 俺を引き寄せたのは電車で道を阻んだ大男であった。眠そうな様子も一転して明るい声で話しかける。まぁ、あの一撃だもんな…目が覚めて当然だろう。

「大したもんだ」

「…何がですか?」

大男は神妙な面持ちで上空を見上げる。

「お前、学校じゃエリートなんだろ?羨ましいよな。俺は此処に来るまでに何年かかっただろうかって感じだぞ?」

 なぁ、どうなんだ?とニコニコと顔を迫らせる大男は恐らく、【分かった応え】を提示しているのはよくわかった。俺は只々黙り込んでしまう。

「どうした?」

「…」

「う~む、ああ!そういえば今日は周囲の探索のみだって事知ってたか?近頃はエウラチ岩石が目当てで襲われるかもしれんからな、警備は万全にしなくちゃならん」

 大男はわかったか、というと俺の眼前でグッジョブをする。エウラドル岩石なんだが…と、哀切な目で大男を見るが、すぐさま下を向いた。ああ、きっと、この人は優しいのだろう。

 がやがやとした賑わいの中、紫のコートを着た男が現れる。妙にその男の周りの砂は渦を巻いているように見えた。

「此方を見よ!」

 突然、時が止まったように周囲が森然となる。明るく振舞う隣の大男も畏敬の眼差しで彼を見つめていた。

 彼は強い、そんな感覚が張り詰めた空気の中に一つだけあった。

 彼はフードを外すとゴホンと一つ咳ばらいをして、周囲を見渡した。彼の左目には大きな眼帯が装着されていた。

「え~。これより、第526回外壁及び周囲の警備を始める!」

「「はい!」」

 周りの空気に気圧されたのか、俺も返事をするが、少し上ずった声になってしまう。

「それではbayベイ装着!…と、行きたいところだが、今回は先ず新しい仲間を紹介しよう。兵役義務が開始し、トップの成績をいなした者たちだ。手を上げろ」

 仲間だと?

 俺は眉間を極限にまで細めて彼を見つめる。

 ふと、一つ手が上がったのが見えた。夜桜だろうか?

 そう思ってその方向を振り向くが、違った。

 金髪イケメン高身長_いわゆる勝ち組と言われる人間が輝きを放ってそこにいた。

 続いて夜桜が手を上げたのが見える。


俺は手を上げなかった。

「…よし!これで全員だな、分からないことがあってもすべて一人で解決しろ、分かったな」

 返事はないが、空気で了承しているのだということは分かった。

「それでは、各員bayベイの装着をしろ、始めるぞ」

 そう言うと、彼はフードを再び被ると、スタスタと門の方へと歩いて行ってしまう。

 俺はずっと黙り込んでいて、隣の大男は、俺を隠すように眼前に立っていてくれた。

「警備後の飯はうまいぞ」

 大男はそう言うと、少し残念そうな顔で俺を見据えた。


 ゴガガガガガ___!!!


 突然、地響きが起こると、地面に大きく亀裂が入った。それもたくさん。

 俺は少し灰色の眼でそれを見据える。時間が経つのが少し怖かった。

 地響きが終わると、荒れ果てた地に、数十体のbayベイが立ち並んでいた。

 俺が少し閉口していると、後ろから透き通った低い声が聞こえる。

「僕は嫌いだね、そういうの」

 ふと、後ろを見ると、唯砂埃が舞っているだけだった。気づいたように前方を向くと、はるか向こうに先程の金髪イケメンの姿があった。

 俺は少しその背中を睨みつける。

「あら、どうしたのかしら、嫉妬?」

 横から鋭い声がしたが、視線は変えない。夜桜は馬鹿にしたように笑った。こいつ、優しくないな、と思う。

「まぁ、そんなところだ」

 少し、気が抜けた声になった。

 そう言うと、夜桜は自身のbayベイに向かい歩きだした。

 俺も、ゆっくりと歩を進める、気づけば、感覚は金属片みたいになっていた。いや、金属だから間違ってはいないだろう。

 ふと、bayベイの無線に、一つの大きな声が響く。


「総員!出撃!」

閲覧ありがとうございました!

次回は12月12日に投稿予定です。

この門(壁)はコンクリートではなく、どこぞの巨人によって作られたものでもないです。次世代らしい黒くてツヤツヤテカテカな←語彙力不足)壁だと思っていただきたいです。


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