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Lost Reaper《ロスト・リーパー》  作者: 桂海司
恵まれていた世界
1/8

【第一節】神が死んだ世界

初めまして!

自分の作品は少々視点が変わりやすいので、気を付けてごらんください!


 2034年初頭、人類は神を殺した。

 2020年から爆発的に進歩した科学と言うウィルスは、ついに非化学を証明し、非化学を抹消した。

 ロボットの数が全人類を上回った現世界においては、そんなものは冒涜でも何でもない。神は実験材料に過ぎなかった。政府は現状を人類の勝利と定め、永遠の平和を宣誓した。

 確かに、世界において人類の『敵』は消滅したことだろう。むしろ、『味方』をも消して来たのだから。

 といって、日常は何ら変わることはない。本当に神を殺す必要があったのか、甚だ疑問だが、仕方ない。彼らは臆病なのだ。

 それから間もなく一年が経過する。

 臆病な彼らは、久しく気がつくのだ。今度は我が支配する番だ。と。

 まるで、今までの協力がおままごとだったみたいに、人類は殺し合いを始めた。国家は分裂を激しく繰り返し、大国は大破、小国が500を超し、元の世界はまるでお伽噺のような関係だったと気づく。

 人類の進歩に使われるはずだった化学力も、人を如何に効率よく抹消できるか、という趣旨の兵器造りに使われる。人類の夢を叶えるための科学力は、その兵器を破壊するための兵器造りに費やされる。

 世界は一転して闇に堕ちていく。

 そして、人類は闇を知り、泥水の様に醜く染まっていった。まるで、死神。


 臆病な彼らは、その体質余りに楽な道を選んで、選んで、選んで、道に迷ってしまったのだろう。


 ✤✤✤


 陽の光が背に伸びるのはとても心地がいい。

 俺は教室のはるか後方で机上に突っ伏したまま、不細工に目を閉じる。

 森然な教室には只々筆記音が鳴り響く。

「え~、我が国は存亡の危機に面している。一刻も早い現状の回復に向け、軍事力の拡大を図る必要がある。よって、満17歳を満たしたものを限定として、兵役を義務付ける、と、当たり前だが自覚しておけよ。私の授業をボイコットするような不届きものは戦場でハチの巣だからな…鏑木(かふらぎ)姿月(しづき)…君?」

 長い残音を伸してその声は俺の脳内に響く。

 蛇のように絡みついたオーラを払拭するように起き上がると、殺意に似た視線を向ける教師と目が合う。その女は俺が起き上がったのを確認すると、ニコッと微笑みを贈る。もちろん殺意は残したままだ。流石バツサン、侮れないな…

「現在、我が国『フィーノ連合国』が、二つの大国に睨まれていることは知っているだろう。その大国と言うのは『メイル』と『サディスト』、世界の軍事力の中でも上位層には入る強豪国だ。そんな彼らが何故、全くもって敵意を示さず、軍事力も塵並みの我が国を狙っているか、わかるか?」

「はい!」

 眼前の女子が元気よく手をあげる。暖かな日光が彼女の金色の長髪に反射して、まるで黄金の光沢を見ている様だった。

「ほう…では言ってみろ朝比奈(あさひな)

「はい!…えと、近年発見された巨大エネルギーの収縮を可能にする岩石…名前が…え~と、エウラチ…」

 朝比奈は細い指先を顎に押し当て、天井を見上げる。

「エウラドル岩石…」

 朝比奈の隣の席に座る男が、小さな声で呟く。

「あっ!エウラドル岩石!それを狙ってるんです!!」

 大きな声は教室の中を彷徨う。森然とした空気には少々似合わない声だ。周りの生徒が嘲笑したように朝比奈を見据える。

 朝比奈はまるでそれを流すように自信満々な様子で腰を下ろすと、ありがと、翔ちゃん!と、隣の男に礼を述べる。それに応えるように男は微笑みを向けるが、変に目立つな!と一喝して、朝比奈の髪をわしゃわしゃと撫でる。なるほど、爆発しろ。

「そうだ。我が国にはエウラドル岩石が存在している。それも、どの国をも凌駕するほどに。この出来事は本来誇るべきだ!何と言っても爆発的な発展を呼ぶようなものであるからな。だが、この世界はそれを許さない。恐らく発展の前に必ず奪われる」

 女教師は騒がしく動かしていた右手を下ろすと、チョークの破片を床に零しながら仁王立ちをする。随分と偉そうに腕組をしているようだが、バツサンだ。

瀬々井(せせい)先生、その口調だと、まるで我々兵士がいくら頑張ったところで全て無駄になると言っているように聞こえます」

 隣から凛とした声が聞こえてくる。

「そうだ!我々は勝てない!」

 瀬々井教師はそれだ!とでも言うように、彼女に人差し指を突き付ける。

「か、勝てない…?」

 彼女はガクンッ_と肩を落とすと、不思議そうに眉を細めた。

「あ、呆れた。こんな指導者がいるからこの国は停滞していくのよ…全く」

 彼女はやれやれ気味で眉に右手を添える。細い溜息を吐くと、ゆっくりと着席した。

 随分と肝が据わって会話しているようだが、相手はバツサンの教師だぞ?…バツサンは関係ないか…

「ほほう…?夜桜(よざくら)ぁ?教師にその態度とは…」

 ああ、殺意濃度が80を過ぎてる。やばいやばい。このままだと人類が終わる。

 瀬々井教師は右手に納められたチョークを力強く握りしめて、殺意と言う名の笑顔を贈っている。対して彼女はというと、のんびりと右耳に掛かった黒い長髪を掻き上げて、こういったのだ。

「…バツサン」

 バキッ___!!!

 その音は白いチョークが折られた音だったのか、バツサン三十路女性の心が折れた音だったのか…とても悲惨な音だった。

 その瞬間、教卓の前に悪魔(デビル)が現れたと感じた。

「鏑木ぃぃぃ!放課後職員室だ!分かったな!」

 え…えええ?

 どうして俺が選ばれたのかは、ミレニアム懸賞問題よりもさらに難しい難題だろう。恐らく答えなどないと思うが…

 俺は誰にも聞こえない程度の溜息を吐くと、脱力するように再び机上に突っ伏した。


 キーンコーンカーンコーン…


 塞がれた鼓膜の裏で、聞きなれた救いの鐘が鳴り響く。

 この後、三十路バツサンの愚痴解消ロボットと化すと考えれば、悍ましい音にも聞こえるのは伏せておこう。

 鬱蒼とした目で、眼前を向くと、黒板の右隅に書かれた赤い文字が脳裏に焼き付く。

『兵役義務開始まであと三日!』

 俺は何もなかったようにまた顔を伏せる。

 陽の光が妙に強くなっているのを感じた。


 ✤✤✤


 今日も今日で終わった。

 後はいつも通り家に帰ってゴロゴロ…と言ったところなのだが。残念ながら景色は職員室と言う名のブラック空間だった。


「いやいや…先生は悪くないですよ、先生の魅力を知らない男どもが悪いんですよ…」

 俺は瀬々井教師が膝組をして深刻な形相をしているのを横目に、若干のホォローと言う名の社交辞令を加える。

 瀬々井教師は職員室に現れた俺に気づくと、まるで過去の感傷に浸る様にくちを歪める。

「そうそう、そうなんだよ、私は大好きだったのにぃ~」

 瀬々井教師は叫びながら机に泣き崩れる。

「私の魅力~?鏑木いっぱいあるだろ?一個だしてみろ」

「そりゃあ~…」

 あれ?今思えばなんかあったか?酒乱…ヘビースモーカー…短気…嫉妬深い…ああ、思えばないような気が…

「鏑木ぃぃぃ!!」

 瀬々井教師は襲い掛かってきたところで我に返ったように、動きを止める。

 あれ、私は一体?と惚ける瀬々井教師を横目に、俺は死ぬかもしれないという恐怖感が未だこびり付いていた。あの目、正に悪魔。

「鏑木!おお、来ていたか、まぁ、そこに座ってくれ」

 そう言うと瀬々井教師は隣の教師机から椅子を取り出す。俺はバクバクとうるさい心臓を抑えるように右手で胸元を掴みながら腰を下ろした。

「先生…ですから悪いのは…」

「すまん鏑木…大事な話なんだ。真面目に聞いてくれないか?」

「…あ、はい」

 なんだ?急に深刻な顔になって…

 俺の堕落した声を一喝するように、瀬々井教師は一言を言い放った。

「お前…前回のRBMリアルベイマッチング_また最下位だったろ?こんな状態で戦場にでるのは無謀だと思うんだ。なぁ…政府には死んだと報告しておくから、私の家で匿って生きる気はないか」

 俺は暫く茫然と無になっていた。気が付くと、微笑を浮かべてしまっていた。

「なっ、何が可笑しい、先生は本気だぞ!」

 むぅ!とほっぺを膨らませ、俺を睨む。その目には温かい善意が込められていた。もう三十路だが、案外可愛いと思ってしまう。

「大丈夫ですよ…俺には()がありますから、それに…」

「それに…?」

「一個見つけましたから…」

「な、何をだ…」

「先生のいいところですよ」


 それに、大して俺は…

 忽然と無になる瀬々井教師を横目に、俺は若干後ろめたさを覚える。

 気づくと外は暗くなってしまっていた。太陽が何処かに迷い込んでしまったのだろうか…


 それでも、太陽は強い意志で来た道を戻るのだろう。

 残酷にも明日は来る。


 俺達の兵役義務開始まで、あと、二日。

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