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番外編:瑠偉2

「瑠偉〜? 帰ったの?」


 まどかを病院に送ると言う雅臣たちと別れた瑠偉は、自宅にいたるを連れて行く。

 雅臣は昶を後で迎えに来るらしい。


「こんにちは、お邪魔します」

「どうぞ入って……母さん! お客様」

「あら? まぁ、昶くんだったわよね? どうぞ」


 奥から現れた未布留みふるはにっこり笑う。


「こんにちは。未布留さん。ご連絡もせず、突然押しかけて申し訳ありません」


 丁寧な挨拶をする昶に、コロコロと笑い声を上げる。


「何言ってるの。上がって頂戴。まぁ、旦那は久しぶりの休暇でだらけてるんだけど」

「あぁぁ? 何言ってるんだ? あー瑠偉、お帰り。それに安部さんとこの昶くんだっけ? どうぞ〜」


 普段家では眼鏡の直之はラフな……周囲から見ればくたびれたシャツとデニムで頭をかきながら出てくる。


「父さん! 大あくびしながら出てこないで!」

「良いだろ〜? あぁ眠い」

「父さん、母さん。臣にいが瞬ちゃん送るって言ってたから、イタルにい連れてきたんだ」

「あ、そう言えば、臣言ってたな。しばらくイタルを預かるって……じゃぁ、まず手を洗ってこい。料理は後だ」

「料理?」


 直之に玄関横の洗面台に追い立てられながら問い返す。


「あ、うん。父さん仕事、母さんは妹たちの世話があったから、幼稚園の時から包丁持ってるんだ。臣にいについててもらったからだけど。今日は僕が作るんだ。臣にいも呼ぶつもりだったからイタルにいも食べる?」

「一応言っとくけど、瑠偉の料理はコンビニ弁当よりもうまいぞ?」


 息子の頭をわしゃわしゃ撫でるのは、直之が息子を溺愛している為。

 娘たちも可愛いが、初めて授かった長男を直之は特に可愛がっている。


「父さん! もうやめてよー! 顔が見えちゃうよ」

「良いじゃないか。どうせ料理に髪の毛が入るのは嫌だろう?」


 息子の眼鏡を奪い取るとバンダナを三角巾のように使い、前髪を持ち上げ隠すようにして直之は息子の首の後ろで縛る。

 すると、もっさいというか表情の見えなかったのが、それによって童顔で成長期に見られる性別不詳の顔が現れる。


「えぇと……未布留さんに似た、端正な顔ですね」

「可愛いだろう? うちの瑠偉〜」

「父さん! 僕中学生! そういうのは沙良さらかなに言って!」

「うーん。二人はもちろん可愛いが、ミルに似た息子可愛い」


 親バカである。


 抱きしめてくる暑苦しさにパシパシッと父の背を叩き、


「待て! stay home!」

「おい! 俺は犬か!」

「あははは! 瑠偉、やっちゃいなさい。イタルくんどうぞ〜コーヒー、紅茶? それともジュースがいいかな……あっ、スポーツドリンクもあるよ?」


未布留に呼ばれ近づくと、奥に客人がいた。

 いや、客人ではなくこのマンションの別階に住む高凪光流たかなぎみつるの妻、茜である。

 何度かあっているが普段着物や浴衣姿が多いのだが、今日は小花柄のノースリーブワンピースと上に薄手のカーディガンである。

 長い髪は横にまとめられざっくりと編まれ肩に垂らしている。

 その両側には二人の女の子……直之に似ているのだから、沙良と奏らしい。


「お久しぶりです。茜さん。そして、初めまして、僕は安部昶です」


 丁寧に挨拶をすると、茜は微笑む。


「お久しぶりどす。昶はん」

「初めまして。沙良です」

「奏です。よろしくお願いします」

「はい。どうぞ。祐也さんが贈ってくれたジュースよ。いつもいつも良くしてくださるから、お返し考えるの楽しみだわ」


 未布留はキッチンでヤイヤイ言い合う夫と息子をチラッとみて、ため息をつく。


「もう……なおくんはいつもいつも全力なんだから、鬱陶しいんじゃないかしら? そろそろ反抗期でしょう? 成長期もだけど……瑠偉は身長だけニョキニョキ伸びそうだわ」

「るーちゃん小さいもんね」

「さらちゃんの方が大きい」

「沙良、奏? 女の子の方が先に成長するのよ? 女の子は背伸びしたがるけど、男の子は夢を抱いてゆっくり大きくなるの」

「名言どすなぁ。未布留お姉はん。だんはんも夢だらけどすわ。あての弟も方向は違っとりますが夢見がちどす……はぁ……教護きょうごには久しぶりに会いましたわ……髪があないになってはるとは、思っとりへんどした……」


 俯く。


「……私が家を出て行かなかったら……良かったのかな……」

「そうしたら、会えなかったし、赤ちゃんもいなかったのよ? そんなことを言ったら、うちの瑠偉も沙良も奏もいないわ。教護くんって、この間会いにきた子よね? 茜ちゃんはお母さま似でしょう? お父さまに似たのかしら?」

「私はお母はん似ですね。性格は櫻子はんだって……教護は見た目はお父はんですが性格はお母はんです。教護はとても大人しくて……優しい子で、少しのんびりしていて、家では店もあって動物を飼えまへん。でもあの子は捨てられてた猫や犬を見つけては、連れて帰れないからって色々なお家に頭を下げて回って……もしダメだったら泣きながらだいちゃんやシィ叔父はんに連絡して、向こうの家に引き取って貰って……お父はんは毎回怒るんです。でも、お父はんは教護の優しさを分かっていて、いつも悲しむあの子をこれ以上傷つけたくなくて……でも、その優しさをこよみは……」

「でも、髪の色が変わっても、教護くんは教護くんでしょう? 本質は変わらないのよ。その優しさを持って成長したのは、ご家族……お父さまにやお母さまを始めとする人々が見守っていらっしゃったからだわ。その家族を傷つける……そんな存在は家族であっても許されないと思うわ。茜ちゃんの決めたことを否定したり、光流みつるは見た目はチャラいけど……まぁ、最初はふざけたり、バカしてたからぶん殴ったけど、茜ちゃんに会ってから変わったのよ? いい意味で変わることができないなら、人間として成長しない、する気もないってことよ。貴方が悲しめば、教護くんが自分を責めるわ。それに貴方は光流の奥さんであり、生まれてくる赤ん坊の母親なのだから、自分の新しい家族を迎えるなら兎も角、拒絶する家族は切り捨てちゃいなさい」


 あっさり言い捨てる。


「それで良いのよ。だって、貴方達頑張っていたでしょう? ご家族も。その努力も見ていない……表だけ華やかでも裏は努力が必要よ? それを見ていないだけでなく、お兄さんを束縛して精神的に追い詰めて……ありえないわ。お兄さんを自分のもの、お兄さんは言うことを聞くだけ、自分が好きなことしても、お兄さんは自分の監視下にないと、とか思うのもどうかと思うのよね? それって自分は自由で良いけど、お兄さんは檻の中に入れて監視下に置く……バカにしてるわ。それは貴方のせいじゃない。ご家族も知らないうちに弟さんが歪んでしまったのね」

「私のせいじゃない……?」

「当たり前じゃない。貴方がいけないことは、今自分を責めていることね? 光流は自分のせいかもって一人で抱えているわ。貴方自身も気持ちが浮き上がれないし、お腹の赤ん坊にも影響するわよ? 今日はちゃんとここで食べて、寝ること。笑って『お帰りなさい』って言ってあげなさい」

「……はい。そうですね。赤ちゃんやだんはんが悲しみますね。私にはちゃんとここにいる」「そうそう。ただでさえ妊婦は精神的に参りやすいんだから、余計なこと考えないことよ? それに何かあったら言いなさいね」


 未布留はにっこりと笑ったのだった。

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