Epilog(エピローク)……epilogue
それから2年……高校を無事に卒業した瞬は、雅臣や両親……両家である……と相談の上、大学院を卒業し、外国のある大学の研究室の主任研究員となった昶に、インターネット上で師事し、ヨーロッパの歴史学を学んでいる。
声優の仕事も、声優学校に入り直し、厳しいレッスン中である。
しかし、美しいハイトーンボイスで歌が上手く、感情表現の豊かな少女を所属事務所の先輩は可愛がっている。
そして、小説家になった睛と那岐夫婦には、
「やったぁぁ! 娘、娘〜。うちの子可愛いです!」
「那岐くん……甘やかしたら駄目。おもちゃ買い過ぎ」
「ごめんなさい。睛ちゃん! でも、ひまり可愛くない? 絶対、睛ちゃん似だよ!」
長女のひまりが誕生し、那岐は愛妻似の娘を溺愛している。
ちなみに兄夫婦には、半年前に男の子の蓮が生まれたのだが、
「……何で僕に似ずに、父さんに……」
「良いじゃないか。可愛いなぁ……」
日向の父、悠河と母、灯里は、ひ孫の誕生に頬を緩める。
「本当に、赤ん坊の頃の日向そっくりだね。ふふっ」
「本当に。この子、きっと一人にすると大泣きするわよ。日向がそうだったもの」
「俺が記憶してないこと、言わないでくれない?」
珍しく拗ねた顔であった。
しかし、自分に似た長男の息子も可愛かったのだが、次男夫婦の間に生まれたひまりに、日向はデレデレになり、
「可愛いなぁ……うんうん。ひまりはいい子だなぁ。うん、お母さんに似たから美人になる。本当に、そう言えば家に女の子は、本当に何代前から生まれてないのかな? 父さん」
「あぁ、私のおじいさんのおじいさんの兄弟もみんな男だよ。だから那岐、日向、私、父、祖父、曽祖父、高祖父……だったかな? だから8代目で初の女の子だ。でも、蓮を差別はしないよ。蓮もひまりも本当に可愛いよ」
悠河はひ孫を溺愛する。
そして二人の孫の嫁を娘同然に可愛がり、よく散歩に連れて行っている。
そして、
「教護! まーた、仕事さぼってこないでって言ったでしょ!」
「そやけど、瞳はん。あんさんは、まだ安定期に入っとらせん、妊婦どすえ? そないに動き回ったら、やや子が!」
「だから、無理はしてないでしょう? そんなに言うなら、せいちゃん所行っちゃうから! あぁ、ひまちゃん、可愛いんだもん」
「あても行きます〜!」
「帰りなさい! お父さんと新しい月の新製品を考えるんじゃなかったの? おじいさまも厳しいでしょうが!」
瞳は、実は口数の少ない義父や義祖父に気に入られていて、その日の情報なども聞いていた。
ちなみに義母や義祖母の櫻子さん、義理の姉の茜とも上手く行っていて、旅行に行ったり、温泉旅館に行ったりと非常に仲良しである。
元々は、二人とも1年留学後、瞳は声楽家……オペラ歌手になりたいと音楽大学に入り直した。
と言うのにすぐに妊娠発覚で入籍した新婚なのだが、結構姉さん女房は夫に冷たいというかツンデレである。
こっちはギリギリまで大学に行きたい、声楽のレッスンを受けたいというのに、修行をほっぽりだして、追いかけ回す夫が鬱陶しい。
「あーもう嫌! 心狭い! 那岐くんはあんなに包容力あって大らかなのに! もう、せいちゃんと茜ちゃんとこ行く! じゃぁね!」
「待って〜! あきまへん!」
「もううるさい!」
なんだかんだと騒がしい夫婦である。
「ただいま〜。臣さん」
今日もレッスンを受け、帰ってきた瞬に、キッチンから顔を覗かせる。
「お帰り。瞬。どうしたの? 今日はちょっと遅くない?」
同じ職場……事務所では先輩後輩であるので、一応きちんと先輩、一条さん呼びだが、家では楽になる。
「あ、ありがとう! 臣さん。思ったより遅くなったから、晩ご飯どうしようと思ってて……」
「それ位はできるよ。それより何かあった?」
瞬は姉妹の中で一番既婚歴が長いが、歳の差もあって甘えっ子である。
雅臣に抱きつくと、
「臣さん、来年、パパですよ」
と囁く。
「……えっ?」
「えへへ、せいちゃんの産婦人科の先生に、診てもらいに行ってたんです。ちょっと調子が悪くって。そうしたら、妊娠2ヶ月だそうです」
固まった雅臣から離れて、
「わぁ……やっぱり、臣さんのご飯美味しそう〜。食べましょう……って、臣さん? 何してるんですか?」
振り返った瞬は驚く。
ダッシュして、電話機を掴むと、何処かにかけ始めたのだ。
「……もしもし? 直之さん! 直之さん! 未布留います? えぇ、直之さんじゃ無理なんで!」
「おい、こらぁ、先輩に対して、その態度は何だよ」
玄関から入ってくる久我直之。
「あー、またですか? 未布留やっぱりまだ戻ってないんだ、あーぁ。早めに謝らないと喧嘩は長引くと謝るタイミング逃しますよ。家や那岐の家は喧嘩ないですけどね」
「うるさいわ、小姑かお前は。喧嘩じゃねえっての。進学についての三者面談だよ。ほんっとにあの馬鹿め、テストを白紙で出しやがった!」
久我家には一男二女がいて、一番上の長男の瑠偉が、現在反抗期で手を焼いているらしい。
「あいつめ、帰ったらしばき倒す!」
「瑠偉も我慢してたこととか、言いたいことあるんでしょう。直之さん、何も聞かずに手を出すからダメなんですよ。瑠偉は良い子なんですから、しばくとか辞めてくださいね。じゃないとこの家侵入禁止しますよ。それじゃなくても瞬に子供ができたんです」
「は? 瞬ちゃんに子供?」
「は、はい……もうすぐに、2ヶ月です」
「……へぇ……おい、臣。ご両親に報告したのか?」
直之の言葉に、
「あ、してなかった! 瞬。瞬の両親にもしておくからね!」
「あ、後で電話……行っちゃった」
「あはは。あいつ、子供好きだからな。瑠偉は小さい時、俺が忙しくて幼稚園とか小学校の参観日とか父親同伴遠足にどうしても行けなくて、無理だって言ったら『パパ嫌い!』って大泣きしたんだよ。ちょうど家に来てた臣が、『ねぇ? 瑠偉。臣兄ちゃんはパパじゃないけど、瑠偉の大きいお兄ちゃんだよね? お兄ちゃん、瑠偉大好きだからさ。もし良かったら、パパの代わりに、瑠偉の頑張ってる顔見に行っても良い?』って。で、臣、眼鏡かけて、行くんだわ。で、瑠偉がこんなことしてましたよとか、報告してくれるんだ。ありがたいというより羨ましかった。俺は、この仕事してるのに、言葉であいつに言い聞かせたことない。分かるだろって、ひどい親だよなぁ……」
ため息をつく直之に、
「優しいパパです。瑠偉くんも分かってますよ。直之さん、ヒュルヒテゴット様みたいなこと言ってる」
「そうかな?」
瞬の一言に直之は笑う。
実際、あのゲームがなければ、直之は息子との距離も縮まらなかったし、瞬達に会えなかった。
世界に不思議は多いけれど、その不思議を経験したことによって人生が変わる。
直之が演じた役柄の中で一番はトリスタンと言う人も多いだろうが、直之はヒュルヒテゴットが今の自分がなりたい自分だ。
親として、先輩として、後輩や子供を見守る、そして、言葉ではなく子供達を守る強くて懐の大きな存在になりたい。
瞬の言葉で改めて曖昧になりかかった自分の夢を、ちゃんと捕まえられた。
「そう言えば、男の子、女の子、どっちだろうな?」
「えへへ……臣さんは前に、せいちゃんのところのひまりちゃんが可愛いので、女の子がいいなぁって。でも、私は臣さんに似た男の子がいいなぁって」
「そうだなぁ、俺から言わせると、瞬ちゃんに似た男の子もいいんじゃないかな? 絶対あいつ『うちの子が……』って事務所や現場の休憩中に愚痴るぞ」
「ぷっ!」
瞬の笑い声に、直之は頬を緩める。
帰ってきたら瑠偉と、ドライブに行ってくるか……。
大騒ぎ中の雅臣の背を見ると、直之は出て行ったのだった。




