79……neunundsiebzig(ノインウントズィープツィヒ)……結婚はすぐには考えられません。
ワイワイと食事をし、そして、
「あいはん! あてと結婚してください!」
「あー、もう。だから結婚しません!」
「あてが嫌いどすか?」
「好き嫌いはっきりするまで、付き合ってないでしょう? もう、悪酔いしたのね!」
「違います! この程度で、あては酔いまへん」
教護の言葉に、瞳はうんざりしたように答える。
「教護は友達。今はそれ以上とか言えません。それに留学予定よ」
「あても同じところに行きます!」
「それに一応、まーちゃんは雅臣さんがいるでしょ? うーん、そうねぇ……付き合うなら、ちゃんと家族と話し合うこと。お姉さん夫婦ともよ? それと、家三人姉妹なの。両親の面倒も見るのよね。でも、雅臣さんは実家のご両親いるし、教護は長男で実家のご両親におじいさんに櫻子さんがいるでしょ? 私、これでも長女だから、育ててくれた両親に可愛い妹達、ほっておけないの」
「……っ……」
「教護は解るよね? 大事なものは何か。お菓子の伝統も大事だよ? でももっと大事なのは、教護が守ろうとした家族だよ。その為に頑張ったんだから、ちゃんと大学卒業するなりしてから考えよう」
瞳の言葉に落ち込む教護。
その横で、
「うーん……あいちゃん。そんなに言わなくても良いんじゃないの?」
那岐が炭酸水を飲む。
甘みもない強炭酸水が、那岐は好みである。
「それに家族なんだから、3人が一緒に見たらいいと思うし、それ以前にご両親、まだ若いじゃないか」
「那岐くんの両親より上よ。確か、祐也叔父さんと5歳違いだもの。私は両親に諦められてるけど、せいちゃんのお婿さんは、かなり期待されてるわね。頑張って、那岐くん」
「えっ! えぇぇ!」
話を振られ、二人はワタワタする。
「そうすれば、教護との留学は考えるわ」
「あいちゃん〜。それは冷たいよ。教護お兄ちゃん、優しいのに」
「だって、まーちゃん。お酒飲んで勢いで、プロポーズはないでしょう」
「じゃぁ、お酒抜いて両親と櫻子はんや、おじいはん、ねえはんとにいはんと話し合って、考えてからプロポーズはかめしまへんか?」
「考えるわ……いい子ね〜。教護は」
頭を撫でられニコニコとする教護に、那岐と雅臣は顔を見合わせて、もうすでにあの伝統の老舗和菓子店を切り盛り出来そうな……いや、すでに手玉にとられているとため息をつく。
「ねぇ、あいちゃん。これは?」
「あぁ、ほら、そこのおじいちゃんがくれたのよ。おじいちゃん、ありがとうございました〜!」
手を振る瞳に、那岐が目を見開く。
「あいちゃん、すげぇなぁ……あの人、俺の兄貴の後見人。と言うか、ほら、今回のまどかちゃんの事件の弁護人の観月姉ちゃんのじいちゃん。大病院の理事長兼ここの診療所の院長なんよ。元の病院は別の人が院長してるけど、ここに来る途中に道の両側に点々と診療所や道の駅、保育園と並んどったやろ? 道の駅は祐也叔父さん一家が経営してて、保育園と診療所は大病院の法人になっとって、診療所院長はあのじいちゃん。看護師兼保育園園長は観月姉ちゃんのお母さん、柚月さん。副院長が祐次兄ちゃん」
「へぇ〜。でも、この地域にあったら楽よね。遠くまで行かなくていいもの。ここから街まで遠いでしょう?」
「内科はここをずっと川沿いに走っていって、街が見えてくるわ。総合病院とかはもっと向こうや。それに俺達、小学校中学校はここやけど、高校はここから街に出て二十分走った所。行きしはスクールバス。帰りは1時間に一本の電車に乗って、近くの駅に着いてから、待っとってもろとる父さんやおじさんの車でもんてきとったんよ。ここは自転車、坂きついけん」
「そうよね……でも小学校とかは……」
「歩きよ。下る坂の途中に、祐也叔父さんとこの田んぼに降りる小道があって、近道になっとんよ。それでも何キロあろか……で、正門からやのうて、そこにほら、坂があろ? そこから降りる。でも、慣れたら楽しいで」
那岐は笑う。
「田舎は田舎なりに、遊びも考える。プールで泳がんでも、川で泳げるし」
「川で?」
「あぁ。そっちは、家の栗畑と畑の間の小道を降りて、道路渡ったら、川に降りる坂があるんよ。カニとかどんことか……あぁ、カジカって言うんかな? そういうんとって、風呂を焚くとこであぶって、食べたり、このうどんの出汁にしたりしよった」
「川、危なくないの?」
「ん? あぁ、こっちが下流なんやけど、上流は堰作っとって、その上が天然プールみたいになっとるんよ。深いとこは子供だけやのうてちょっとやけど泳げるで? 親だけじゃなく年上が何人見るか決めとって、泳ぎの練習とか網を持って、さっき言うたようにカニとかを追い立てて、取って遊んだりなぁ。そこの小屋の横から川に降りれるけど、ここは浅いで。今日は暗なるけんあれやけど、明日やったら水遊びできるわ」
睛は、瞬の顔を拭きながら聞いている。
「もうちょっとしたら、行こや。早めの方が安全やし、まどかちゃんが見やすい位置に行けるわ」
「どこに行くの?」
「ここでも見えるけど、蛍の乱舞が見える所。明日は今日より多いけん、いいポジションで見れんと思う。今日は天気もいいし、雲もない。去年川の洪水もなかったし、最高やと思う」
「じゃぁ、車は誰が運転するの?」
「俺と臣にい。車は父さんと兄貴に出してもろとる。臣にい、あれ、運転できるやろ?」
その言葉に、雅臣は、
「最近運転してないからなぁ……」
「またまた〜。あるじゃん。愛車」
「最近、夜運転してないんだよ。それに、ここは夜になると一気に暗くなる」
「ライトはいっとるで」
「分かっとるわ」
甥に言い返し、総勢8人は、父親に正座説教させられていたロナウドとクリスティーンと、那岐の兄夫婦を誘い、二台に分かれ乗ることになった。
乗ってきた車は那岐が運転し、後ろに瞬の車椅子を乗せ、5人乗りの車には助手席に瞬を乗せ、後ろにクリスティーンと昶に瑠可が乗った。
そして、先行する那岐の車を追いかけたのだった。




