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78……acht und siebzig(アハトウントズィープツィヒ)……嘆く青年

 ロナウド達が探すより早く、あいは戻ってきた。


 手を繋いでいるのは、ひょろひょろと背の高い那岐なぎの幼馴染みである。


「どうしたんだ? 教護きょうご?」

「あぁ、お久しゅう。那岐……あて、あて……」

「あぁ、泣くな。何かあったんか?」

「あて、あては……また、あかんことを……」


 ボロボロ泣き続ける青年をあれ? と見ていた雅臣まさおみは微笑む。


「……教護って、紫野むらさきのさんとこの教護かい? 久しぶり。大きくなったね」

「臣あにはんっ、お久しゅう……あては……」

「あぁ、泣かんでいい。こっちこい!」


 那岐はせいと手を繋いだまま、空いた手で教護を引っ張る。


「すいまへん、あては……」

「謝るな! お前は悪くないって皆知ってるんだ」

「でも……」

「もう、ご飯だご飯! あいちゃん、まどかちゃんに食べさせてあげて。後で俺と臣にいで教護の話を聞くから」


 席を確保し、そして瞬と教護、瞳が待機、残りの3人は食事をとりに行く。


「あいちゃん……えっと、何が美味しいかなぁ? お兄ちゃんは何が好きですか?」

「まーちゃん! 可愛い! ごめんね! 酔っ払ってて。あいちゃんが一番悪いの〜!」

「違うよ〜! あいちゃん悪くないもん! 私、あいちゃん大好きだもん!」

「あぁ、可愛い! 教護くん。見てみて! この子が私の可愛いまーちゃん! まーちゃん。空港で会った瓜二つのおじさんの、イケメンの方の紫野おじさんの息子の教護くん。ほら、高凪光流たかなぎみつるさんの奥さんの弟で、私達より一つ下だよ」

「教護お兄ちゃん? 初めまして。私は瞬です。高校一年生です」


 ニコニコ笑う少女を見て、だぁぁと涙ぐむ。


「ねえはんはしっかりもんで、弟は器用で……あては、あては……おおきゅうなるにつれて、風邪をひいたり……体調を崩して……ねえはんが結婚しておにいはんができたんは嬉しゅうて、でも、弟が夜遊びしたりするようになって……あてはねえはんやおにいはんと、仲ようしたいと思とりましたのに……」

「ウンウン、分かるよ、分かるよ。偉かったね。教護くんは」

「そして、一回倒れて入院しましたんや。三日意識不明で……目を覚ましたら、髪の色と瞳が変わりましてん……ねえはんには言えまへんでした。でも、おにいはんが心配してわざわざお見舞いに来てくれましてん。やのに、こよみが追い出して……あては何でこないな……弱虫なんやて……」


 しゃくり上げる。


「お兄ちゃんは考え過ぎですよ。お兄ちゃん、頑張ってるのに」


 瞬はよしよしとするポーズをする。


「……ありがとう。まどかはん。かいらしいなぁ。あいはんもべっぴんはんで……あてはもっとしっかりしたおとうはんやおじいはんみたいになりたかった。こないにひ弱で、泣いて……」

「泣いても良いと思うんだけど……」

「うんうん。あいちゃんの言う通りだと思う」

「だよね。教護くんは悪くないよ? だから、ご飯食べてパーッとしよう」


 3人が持ってきたうどんと焼き肉、ちらし寿司に蒸しパンなどとともに、お酒が提供される。


「俺と臣にいは運転手だから飲まないけど、せいちゃんと教護は飲むと良い」

「瞬ちゃんはジュースだけど」

「わぁぁ! うどん、美味しそう」


 雅臣は瞬の服が汚れないようにタオルを広げる。


「何が食べたい?」

「全部!」


 妹の言葉に、瞳と睛が顔を見合わせ笑う。


「まーちゃん。大食いなのバレちゃったわね」

「本当。よく食べるんだから」

「あー! あいちゃん、せいちゃん、言っちゃダメ! ママやあいちゃんとせいちゃんが作るご飯が美味しいんだもん! 私が大食いだけじゃないもん!」

「へぇ、ええなぁ……あてのおかあはんは料理ができまへんのや。頑張っても全く上達せんかって、櫻子はんや、賀茂の龍樹たつきお姉はんが旦那はんと来てくれて……ねえはんがあてらが小さい頃は作ってくれはって……おかあはんは店の若女将やさかいに、お店のこと、掃除洗濯もがんばっとります。でも料理は知りまへんのや。包丁もったことない言う人で」


 苦笑する。


「おかあはんが嫌いやのうて、あての弱さが嫌やって……あてもおとうはんやおじいはん、櫻子はんやおかあはんを助けとうて……料理も……。ねえはんや光流みつるおにいはんは悪うないんどす。あてが……」

「うーん、お兄ちゃん、頑張りすぎ。あいちゃん、いーこいーこ、してあげて?」

「よーし! あ、それより笑わせよっか〜」

「えっ、えぇぇぇ!」


 腕をまくるようなポーズをする瞳に、驚く教護の横で、那岐なぎが、


「あいちゃん、やれ〜。教護は笑い上戸なんだ。笑わせちゃえ」

「よっしゃ!」

「那岐〜!」


教護の声に5人は笑い出す。

 それを聞いて、教護も笑い始める。


「あはははは……もう、やめて。僕は……あはははは!」

「何にもしてないのに、本当に笑い上戸なんだね〜」

「だろ? 小さい頃はよく笑ってたさ。愛来あきと一番仲良しで、教護も京菓子作りの練習にって、紙粘土で作ったり、こっち来たらテディベアを作ったり、手先も器用で、サキおじさんも嵐山らんざんじいちゃんも好きなようにしたらかめへん、言うとったのに、調子崩したってびっくりしたわ」

「……後継ぐのはええんどす。せやけど、暦が頑固であきまへんのや。ねえはんやおかあはんを泣かせ、おにいはんに怒鳴りつけ、言うてもあきまへん。それに、中高一貫校に進学してから、こよみがあての行動や、交友関係に口を挟んできて……仲の良かった友人も遠巻きにするようになって……暦の友人やて言う子らが来るようになった……少し悪い噂のある子らやって、何度も暦に注意したんや……でも、金庫から……」

「……アホや〜。暦」


 那岐が頭を抱える。


「おかあはんが見つけて注意したら、手をあげたらしいんどす。あてはその日、茶道部と生徒会の仕事で遅うなって、おかあはんが、おとうはんに連れられて病院から帰ってきたのを見て、あざだらけの顔と手首に驚いて倒れたんどす」

「えぇぇぇ! 雛菊さんにそんなことしたんか!」

「雛菊さん?」

「あぁ、せいちゃんたちは知らんかな? 教護たちのおかあはんで、前の戸籍では風遊ふゆさんの娘で、今はじいちゃんたちの娘として、嫁いだんだ。教護たちは蛍姉さんの従兄弟」

「あ、あの映画に出てくる……」

「……そうどすわ、あてのおかあはんは『妖精の取り替え子』どす。おかあはんはおとうはんと戻ってくるまで、精神的に傷つけられてきたんどす。それに……おとうはんやおじいはんや櫻子はんは、おかあはんを大事にしてはって……何てことをしたんや……」


 顔を覆う。


「本当はあても怒りたかったんどす。でも、急に目が回って、気がついたら櫻子はんや、賀茂はんのおねえはんらが泣いてはって……光流おにいはんもおいでたんどす。なのに、暦が追い払って……あぁ、もう嫌やと……もう嫌なんやと」

「はいはい、教護、あーん」


 瞳はうどんを食べさせる。


「美味しい?」

「えぇ! あてはここの食べ物、本当に大好きなんや。気取っとらん、あったかい、優しい味で。それに、おじいちゃんおばあちゃんたちが大好きで、だから、おとうはんに勧められて大学を選んだ時、ここに近い大学を選んだんどす。薬学部を選んだのは、ハーブとか身体に良いものを勉強して、新しい菓子をと……でも、同じ学部に入ってきて……」

「はい、口拭いて、お酒はビール? チューハイ?」

「チューハイを。甘いのが好きなんどす。そう言うと……こ……」

「はーい、ストップ。もう、暦はいないから、忘れてお話ししましょ? あ、瑠可ルカちゃん、確かいたるくん!」


 瞳は手招きすると、二人が近づく。


「ねえ、一緒に食べましょう? ね?」

「良いんですか?」

「良いわよ〜ね?」


 席を寄せ、二人を座らせると、皆でワイワイと食べ始めたのだった。

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