74……vier und siebzig(フィーアウントズィープツィヒ)……夢を叶えることは生涯その夢を捨てることなく生きること
一番奥に到着した四人は、待っていた那岐の幼馴染みたちに驚く。
醍醐にそっくりな6姉妹は、一番上が六花と言う。
六花は、愛来と、年は上だが同学年。
はっきり言えば、愛来は3月31日生まれで、六花は初冬生まれだった。
しかも予定より2ヶ月近く早産で生まれ、とても小さかったので、その後に生まれた那岐の方が大きかった。
そして、愛来達が可愛いシンプルなメイド姿で立っていたのは、一角のテント三つが全てハンドメイドやいらないもの、使わないものを売るフリーマーケットになっていた。
その中でも瞬と睛が目を輝かせたのは、テディベア。
瞬が気になっていたのがくりくりのお目目の可愛いベアだが、睛が目を引いたのは、がっしりとしているが表情が優しく、これぞ熊と言いたくなるようなベア。
「このベア、すごい……」
「あぁ、それはパパが作ってるの。ママやおばあちゃんに基本を習ったら、自分で型紙も起こして、モヘアの色も色々探して、めちゃくちゃレアだよ」
「いいなぁ……あ、やっぱりするよね……」
愛来の言葉に、値札を見て財布の中身を思い出し、がっかりする。
テディベアは、モヘアと言う布のランクがピンからキリまでの値段の差があり、40×60cm位のものでも1万円から。
ガラスの目も多いけれど元はブーツボタン。
アンティーク風のベアにするなら、1900年代前後に使われていたブーツボタンがおすすめ。
丸く盛り上がっていない少しペタンコなボタンは、今はレアアイテムで、一個が700円以上。
グラスアイも二個で500円前後、グラスアイは大きさがあるので大きいほど高額。
手足のジョイントも五組セットで500円前後。
ワタも300gで900円〜である。
ちなみに通信教育でテディベアを勉強することも昔出来たが、体長50cm強のベアは最高級モヘアを使っており、モヘア代だけで3万円、販売価格98000円で販売できると書かれていた。
覚悟はしていたが高かったのだ。
「どうしたの? せいちゃん」
那岐が後ろから覗き込む。
「あ、うん、何でも……」
「なっちゃん。せいちゃん、パパのテディベアが素敵だなぁって見てたよ」
「あぁ、これ。俺もおじさんのベア好きだわ。ずっしりするんだけど、抱き心地いいんだよな。でも、高い。まぁ、それだけ時間と愛情をかけて作ってるんだけどな」
祐也の作ったベアと睛を見た那岐は、幼馴染みを見て、
「愛来。これ、買うわ〜。俺」
「うえぇぇ、買うの?」
「あぁ。あ、後でおじさんにサインして貰おう。はい。お金」
財布の中身を出し、払う。
そして値札を外して貰ったベアを、睛に渡す。
「はい」
「え、えぇ! い、いいんですか?」
「うん。おじさんのベアって、本当に忙しいおじさんの暇を見つけて作るから、一年に一体か二体なんだ。今回ここに置かれてるのも、奇跡って位。せいちゃんは、一目惚れしたんだよね? おじさんのベアは転売する馬鹿がいて、滅多に出ないんだ。そんな馬鹿に買われるより、せいちゃんに大事にしてもらう方がベアにもおじさんにもいいと思うんだ。今日あって良かったね」
「あ、ありがとう……那岐くん……う、嬉しい」
頬を赤くする睛に、那岐も照れる様子に、
「バカップルがいるわ……」
「許してあげてよ」
六花達姉妹が冷やかす。
姉達の姿にニコニコする瞬に、雅臣は、
「瞬ちゃんはどうする?」
その言葉に、慌てて抱いていたベアを戻す。
珍しい、青濃いネイビーのモヘアのテディベアである。
「えっ、えっと……二人がいるので……で、でも、ドールハウスとかフリーマーケット見てみたいです」
「じゃぁ、行ってみようか。あ、ちょっと待って。先に行ってて。那岐、気をつけて押してあげてくれ」
「うん、臣にい。分かった」
「頼む」
雅臣に頼まれた那岐と睛と、瞬は一緒に回っていく。
瞬は姉とハンドメイドのレジンなどで作られた髪飾りや、天然石のついた手頃な値段のネックレスを見ては喜んでいる。
那岐は従姉妹と幼なじみがかなり破天荒なので、この可愛い姉妹が普通なんだと改めて思ったりする。
あるところで止まった二人を後ろから見ながら、癒される……と思うのは何に疲れているのだろうか?
「はい! 那岐お兄ちゃん」
瞬の声で我にかえる。
「ん? どうしたの?」
「お兄ちゃんに、私とせいちゃんから!」
「えっ……何でタヌキ……」
「あ、やっぱり分かったんだ〜! すごい!」
「ここの山に当たり前にいるし……」
二人は目を合わせる。
「すごいね! 私達動物園でしか見たことない」
「うん。すごいね〜」
「で、何でタヌキ?」
「このお店の方、羊毛フェルトの作家さんなの。タヌキさんがファンタジーの格好をしてるの。那岐くんは騎士。まーちゃんはお姫様。あいちゃんが戦士。私が女賢者。まーちゃんが持ってるのが、雅臣さんにだって」
「タヌキ……でも、可愛いな」
最初はなぜタヌキと思ったものの、信楽焼のタヌキよりも本当のタヌキに似たちょっと愛嬌のある顔である。
「わんちゃんも好きだけど、今回はタヌキって珍しいねって」
「犬と猫は多いの。あ、あいちゃん」
「わー! どうしたの〜! それ!」
近づいてきた瞳は、睛のテディベアに気がつく。
「えっ、あ、な、那岐くんに貰ったの。で、でね? ほら、可愛くない? タヌキさんの羊毛フェルトのお人形」
「か、可愛い! えっ? まーちゃん。これくれるの?」
「あいちゃん、女戦士なの」
「……ありがとう! まーちゃんもせいちゃんも大好き〜!」
瞳は性格が男前なので、二人の妹を溺愛している。
瞬の傷に触らないように、抱きしめ頬をすりすりした後、睛にはハグをして、那岐ににっと笑う。
「那岐くんもありがとう! うちの可愛い姫達の護衛」
「いいよ。あ、あいちゃんはテディベアより、うどんとか焼肉でいいかな? ごめん。正直に言うと、家に帰ったらお金あるけど、お祭り用のチケット結構購入してるから、食べて」
「ラッキー。私はそっちの方がいいわ。このタヌキが可愛いし」
「明日おごるよ」
「いいわよ。そんなに気にしないでよ。それにね、愛来ちゃんに頼んで、もうすでにはーくんに奢ってもらったから」
けらけら笑う瞳に、那岐は驚く。
「えぇぇ! あのドケチ兄貴に奢らせたのか?」
「ふふふ……入り口のあたりであったでしょ? 射的。あれで、勝負したのよ。で、7回勝ったから荷物持ちよ。それにテントでおじいちゃん達とお酒飲んでたの」
「……あいちゃん。この短時間でよくやった」
酒臭い瞳に顔を引きつらせる。
「7つあるけどもう2つ使ったからあと5つ……うふふ〜。まーちゃん。うどん美味しそうだったよ。焼肉もいい匂いしてた。それに懐かしい感じの蒸しパンとかあったわ。ママが欲しがっていた木のまな板もあったから買ってたわね」
「そうなの?」
「うん。じゃぁ、私は飲みに戻るからね〜。一平おじさん達とどっちが多く飲むか勝負中なのよ〜」
手を振って戻っていく姉に呆然とする二人の後ろで、那岐が、
「一平おじさん、めちゃくちゃ呑みまくるんだよ。大丈夫か?」
と呟いたのだった。




