72……zwei und siebzig(ツヴァイウントズィープツィヒ)……ワイルド天使登場
那岐は、睛を下ろして、手を繋いで歩き出す。
その横を瞬の車椅子を押す雅臣。
「なぁ、臣にい。どこに行くんだ?」
「ほら、風遊さん達のブースに行こうかなぁって。そこまで行くのにおじさん達に挨拶もできるだろう?」
「そっか。じゃぁ、せいちゃんもいこっか」
「おりゃぁぁ!」
突然飛び出してきた人に、那岐は慌てて睛を抱いて避ける。
「何してんだ! お前は、何考えてんだ! せいちゃんが怪我したらどうするんだよ!」
「ふふ〜ん。那岐も仕事が来るようになったら、ころっと変わったんだ? 彼女かぁ? 色ボケ」
「……お前なぁ……」
「那岐くんを馬鹿にしないで下さい! 那岐くんはそんな人じゃありません!」
怒る睛に、ラフな少年のような格好のその子の後ろに立ち塞がる祐也。
「……杏樹……二年も戻らずに、何をしていた?」
「うわぁ! パパ! 生きてたのぉ? 何か、一平伯父さんがパパが意識不明だって言うから〜戻ってきたんだよ〜」
「父さんを殺すな!」
「だって、父さんの兄弟の中で一番打たれ弱いし、精神的に弱々だし、身体は一番大きいけど何故か頭脳派で、見た目だけ〜」
「一回、三時間正座するか? それより、じいちゃんばあちゃん達のちらし寿司とうどんと、焼き肉とかも用意しておいたが……いらないんだな? じゃぁ、那岐? 食べるか?」
腕を組む祐也は、那岐を見る。
「やったぁ! ありがとう。せいちゃんも瞬ちゃんも行こう。じいちゃん達の料理は美味しいんだぞ〜」
「わーん! パパ、ごめんなさい! それだけは、それだけはぁぁ! 食べたい〜!」
「馬鹿娘! 自由すぎるわ! まだ那岐の方がマシだ! 定期的に帰ってくるか、電話をしてくるか。じいちゃん達がどれだけ心配しとったと思うんぞ! あ、まずは、睛ちゃんと瞬ちゃんに謝りなさい!」
祐也が細身の少年の頭を下げさせると、
「ごめんね? 睛ちゃん、瞬ちゃん。これは見た目は男っぽいんだけど、叔父さんの次女の杏樹。高校卒業してすぐ、イギリスに留学して、休暇の時には帰国せずに、二年余り一度も帰ってこなくてね……本当に、那岐の方がマシ! 連絡も取れないし、スマホの充電もろくにしないし、メール送っても見ないし、手紙も読まないし……」
「だって、パパの手紙、愚痴ばっかりだし、ママとあきちゃんは惚気ばっかりだし、メイは素っ気無いし。一登は私のこと覚えてないのよ〜! 何で〜?」
那岐に訴えると、呆れたように、
「覚えてるかよ。一登、自分の歳も時々間違うけど3歳だろうが。お前、二年前に行ってるのに。それにお前、兄貴よりイケメン過ぎんだよ。性別間違って生まれたな」
「悪かったね! どうせ、好きになっても友人止まりだよ! 馬鹿ぁぁ!」
「だから、その髪型やめろ。髪伸ばせ! しかもお前、ロナウドと服の貸し借りすんな! 何で、その格好が似合うんだ!」
「イケメンのパパに似たから」
真顔できっぱりはっきり言い切る。
杏樹はファザコンである。
ため息をついた祐也は、
「杏樹。この二人は、父さんのお兄さんの娘さん。那岐と一緒なのは結城睛ちゃん。双子のお姉さんはさっきいただろう? あいちゃん。二人は大学四年生。そして、この子が瞬ちゃん。高校一年生。仲良くするんだよ? 乱暴なことはしないように。特に瞬ちゃんは一時退院だからね」
「あ〜! テレビで見た〜! めっちゃ可愛い〜! 臣兄さんの可愛いお姫様〜!」
「お、お姫様? ち、違います!」
「いやぁ〜。可愛い! しかも、お姉さんも美少女! 目の保養〜。こんな可愛いお姫様を傷つけたなんて、ぶっ殺す! あっ、そうだった! 一級の猟銃免許取る為に帰国したんだわ〜。パパ! いつ試験?」
「お前みたいに危険なのに、猟銃免許はいらんわ!」
祐也は娘を睨むが、けろっと、
「パパ、体調悪いんでしょ? 一平伯父さんが心配だって言ってたよ」
「……兄貴も余計なことを」
「またまた〜。伯父さんに構ってもらえるの嬉しいくせに」
「あ〜ん〜じゅ〜!」
「わぁぁ! パパ、ごめんなさい〜! なっちゃん〜。私の焼き肉五人前よろしく!」
父親に肩に抱えられ連れて行かれながら、手を振る図太さに、那岐はため息をつく。
「祐也叔父さんの子供の中で、一人だけあのワイルド系なんよな〜。いや、野生児や。『英語なんか単語を喋れたらいけるわ〜』とか言って、出て行ったもんだから、叔父さんは心配するし……俺でもせんわ。兄貴と俺と一緒に、夏休みはサマースクールに留学しとったのに。全然英語上達せんかったんで。叔父さんは数カ国語ペラペラやのに」
「あきちゃんは行かなかったの?」
「あー、愛来は身体が弱かったけん、良く調子を崩して入院とか多かったけん、行ってないんよ。それに愛来も兄貴より叔父さんが好きやけん、パパとおる〜って。街中より、ここがええんやと」
瞬は周囲を見回すと、
「私も、ここ好き。ねぇ? せいちゃん」
「うん」
微笑むと妹の頭を撫でた。
「色々見たいねぇ。まーちゃん」
「まずはお店に行って、その間に注文しとこうか?」
「あいつのも注文しとくか……」
「五人分はやめとけよ」
雅臣の言葉に三人は頷いたのだった。




