71……ein und siebzig(アインウントズィープツィヒ)……何が正しいのか理解できない悲しい人達
那岐が運転する車は連絡をしており、学校の上の第二運動場に用意された駐車場ではなく、一時的に玄関に車を止め、先に来ていた雅臣が車椅子を下ろして、瞬を抱いて降りた。
那岐はここで育った為、幾ら身を隠してもバレるが、雅臣は帽子と眼鏡で大丈夫らしい……と言うより、那岐に集まる新規ファンを尻目に逃げたとも言う。
「臣さん、那岐お兄ちゃん大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫」
くすっ、
笑いながら示す。
雅臣について来ていた瞬の両親と、仲良くおしゃべりしている結愛と瞳。
「あれ? 睛ちゃんいない?」
那岐は二言三言集まっていたファンに声をかけて頭を下げると、車を回して走り出す。
「えっ?」
「睛ちゃんと駐車場に停めに行ったんだよ。本当は、今日と明日はお祭りだから地域の人でも道路の上の駐車場だけど、那岐の車は許可取って、この向こうにある役所の支所の駐車場に停めさせて貰うらしいよ」
「許可?」
「そう。瞬ちゃんは車椅子がいるだろう? それに、先に出たけど祐也さんや、近所の人の調子が悪くなったらすぐ帰らせられるように、近くに置いておくんだって」
「そうなんですね……あ、こんにちは!」
挨拶をしてくれた女の子に微笑む。
大きな瞳の可愛い二人の女の子の一人は、瞬より多分……絶対身長が高いが、可愛いテディベアを抱っこしている。
「あれ? ういちゃんじゃなかったかな? それに、柚愛ちゃんだよね?」
「あい! ういちゃんでしゅ」
「あい! ゆあちゃんなの!」
「こらー! うい。ゆあ、知らない人について行くな!」
走って来たのは、瞬と余り歳の違わないような長身の少年。
「太秦? 久しぶり」
「は? えぇぇ! もしかして臣にい?」
「あぁ。久しぶり。それにしても、大きくなったなぁ」
「もう高校卒業だからね」
二人と手を繋ぎ、
「頼むから、うい、お前、柚愛よりお姉ちゃんだろ? わーって走り出したら転んで怪我するぞ? やめろ」
「うじゅお兄ちゃん、いじわゆ〜!」
「いじわゆ〜!」
「こら〜! うい、その喋り方やめろ! お前は歌園と違ってあざとくないが、兄ちゃんはお前が怪我したら困るから言ってるんだぞ! 柚愛も真似しない!」
兄妹の言い合いに、瞬はクスクス笑う。
「笑うなよって……この子誰?」
「あ、初めまして。結城瞬です」
「最近分かったんだけど、祐也さんの姪。で、俺の可愛いお姫様」
「お、臣さん!」
顔を真っ赤にする瞬に、雅臣は微笑む。
「で、瞬ちゃん。太秦は、お父さんが弁護士の大原嵯峨さん。今回瞬ちゃんの事件を担当する、祐次の奥さんの観月ちゃんの弟だよ。で、ゆあちゃんはこの間会ったよね? 祐次の娘。ういちゃん……初月って言うんだけど、ういちゃんは太秦の一番下の妹なんだよね?」
「うん! ういちゃん、小学校5年生!」
「……しょ、小学生の子に身長抜かれた……」
瞬はショックを受けるが、太秦は、
「は? 瞬ちゃんだっけ? 小学生じゃないの?」
と問いかけ、瞬は半泣きで答える。
「こ、これでも、高校一年生です! し、4月1日生まれです!」
「うえぇぇ! めちゃくちゃちっさ! うちの姉ちゃんよりちっさ!」
「太秦……」
いつの間にか背後にきていた眼鏡の男性が、持っていた六法全書を頭に叩きつける。
「忘れ物だ。馬鹿息子!」
「いでぇぇぇ! 親父! 六法全書で殴ることねえじゃん!」
「勉強してこい。司法試験合格最年少更新するんじゃないのか?」
「無理に決まってるだろ! 親父ですら大学生時代じゃねえか!」
「観月も大学だが。一応私は、一年の時に予備、翌年司法試験合格した。普通にできる」
真顔の父親に、太秦は答える。
「できるかぁぁ!」
「なら、医大現役合格だな。両方頑張れ。お祖父様も期待しているぞ」
「両方嫌だぁぁ! それに俺は、絶対無理……」
「お兄ちゃん、馬鹿だから」
「歌園!」
目がぱっちりとした美少女がコロコロ笑う。
グラマーでスタイルも良く、細身で痩せ形の瞬は羨ましそうにその部分を見る。
「パパ。大丈夫よ! 私、お医者さんになる! それにういは、パパといたいのよね?」
「うん! ういはパパといるからね! 弁護士さんになるの!」
「うちの子はなんて良い子達なんだ……太秦以外」
「親父!」
「あ、あんね? ゆあちゃん、パパと一緒なの。だから看護師さんになるの」
柚愛は手をあげる。
瞬の両親や瞳は、微笑ましげに見ている。
孫を抱き上げた嵯峨は瞬を見て微笑むと、その後ろに気がつき、
「あ、結城さんのご家族ですね。どうぞ。こちらに席を用意していますよ。臣はどうするんだ?」
「あ、風遊さん達のブースに行こうと思っているんです。結城さん達は、祐也さんのいるところで少し休憩どうですか? 瞳ちゃん達は来る?」
「二人の邪魔しません」
「じゃぁ、いってらっしゃい!」
雅臣達をニコニコと見送ったのだった。
そして、車を止めて降りた那岐は、扉を開けた途端、硬直する睛に、はっと我に帰る。
地域では道幅が狭いのでギリギリに駐車する為、睛に説明せず寄せてしまった。
慌てて、車に乗り幅を広げると、今度は、降りる睛を抱き上げ、
「ごめん。せいちゃんの降りる幅考えてなかった」
「大丈夫ですよ。えっと、重くないですか?」
「ないない。軽い軽い」
そのまま歩いて行こうとするので、
「那岐くん。このままじゃ皆さん……」
「大丈夫。それに、皆押し寄せるなら抱いて逃げた方がいいと思うんだ。首に腕回しといて」
「は、はい!」
睛は腕を首に回し、那岐の胸で顔を隠す。
その姿に、那岐は胸が鳴る。
不謹慎かと思うが、可愛い……自分を信じて身体を預けてくれるなんて……と思ったのだった。
そして、那岐を待っていたファンが、純白のワンピースの女性を抱いて現れた彼を見て
きゃぁぁ!
と悲鳴を上げる。
「那岐くん!」
「那岐先輩!」
「いやぁぁ! 何で? 那岐くん。付き合ってる人いるの?」
「ひどい……ファンだったのに。聞いてない……」
と言う言葉や、
「それに、何なのよ、あの子!」
「ベタベタくっついて、ムカつく〜」
「本当。酷いわよ。皆の那岐くんなのに、出し抜いて!」
「はぁ? 何が酷いんだよ?」
那岐は勝手なことを言う自称ファンを見回す。
「良く判らねぇな。俺が誰が好きになろうが、関係ないだろ? 自由恋愛だ。それに、皆は俺の名前知ってても、俺は知らない。好きとか嫌いとか言えって言っても、今会ったきりの皆に何を言えって言うんだ? 俺が言えるのは、『ゲームをしてくれてありがとう。俺のテオドールを好きになってくれてありがとう。これから俺が声優の道を進む上で最初の大きな仕事で、人生を変える程の仕事だと思う。今の気持ちを忘れないで、一つ一つの仕事を大事にして頑張りたいと思うよ。それを応援してほしい』……それだけだ」
「……」
「もし、俺のことを応援してくれるなら、これから所属事務所に確認を取るから、ちょっと待ってて欲しい。それに金魚すくいとか楽しむなら兎も角、大騒ぎして田舎の祭りを台無しにするのはやめて欲しい」
那岐はそう言い終えると、頭を下げファン達をすり抜けると、そのまま祭りの会場に入っていった。
入れ替わりにやってきたのは、那岐の兄の風早。
「申し訳ありませんが、道路に無断駐車されてませんか? 警察の方が来ています。今の間なら駐車場に移動可能ですので移動してきて下さい。私の弟の那岐は逃げませんので。どうぞよろしくお願いします」
ぶつぶつと3分の2の人が去っていき、残りの人はどうしようかと悩むのを、雅臣と那岐、そして瞬姉妹は隠れて見ていたのだった。




