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70……siebzig(ズィープツィヒ)……失われつつある世界の中の失ってはならないもの

 薬を飲む為に、少し遅い昼ご飯を食べたまどかは、今度は両親と姉達と、従姉妹の結愛ゆめと一緒に那岐なぎの運転で向かう。

 那岐の助手席にはせい

 そして、結愛と瞬とあいは並んで座る。

 結愛は、どことなく母の蛍ではなく父親に似ている。


「初めまして! 瞬ちゃん。結愛です。まーちゃんって呼んでも良い? 私はメイちゃんで良いからね!」

「メイちゃん?」

「うん。うちの家族『ゆ』がよくつくの。パパも祐也で、パパの弟は祐次先生でしょう? 祐次先生の奥さんのお母さんが柚月ゆづきおばさん。そして、嵯峨さが叔父さんの従姉妹が優希ゆうきお姉ちゃん。優しい希望って書くの」

「じゃぁ、家の苗字は結城だから『ゆ』一杯だ〜。メイちゃんのこと、メイお姉ちゃんって呼ぶね!」


 えへっと、照れ笑うと、結愛が、


「か、可愛い〜! 良いなぁ。あいちゃん、せいちゃん。まーちゃん可愛い! 私も妹欲しかったなぁ」

「でしょう? まーちゃんは、生まれた時から可愛かったの! いつもせいちゃんとお揃いのスカートでね。今度写真送るからね!」

「じゃあ、うちのあきちゃんとてんちゃんのも送るね」

「てんちゃん?」


首を傾げる結城一家に、ゆっくりと車を運転しながら、那岐が答える。


愛来あきと結愛の間。20かな。名前が杏樹あんじゅ。杏樹って言うのは天使からつけたんだって。元々は、穐斗あきとおじさんの本名がアキト・アンジュだったんだ。おじさんはイギリスで生まれて、洗礼受けてるから。もっとも、天使じゃなくて妖精の血を引く子供だったんだけどな。祐也おじさんが、穐斗おじさんにそっくりな長女に穐斗から愛来、おじさんの安部家に似てる次女を杏樹って。杏樹を呼ぶ時に天使のてんちゃんって呼んでるんだよ。結愛は祐也おじさんの一文字と、祐也おじさんの本当のお母さんであるめぐみおばさんの一文字。で、結愛はどうするんだ? 3年生だろう?」

「……なっちゃん、パパみたい〜」

「俺は22だからな。まだすねかじってるけど、絶対諦めない」

「……良いなぁ……」


 結愛はため息をつく。


「……夢はあるけど、私はここ出て行きたくないんだもん」

「どんな夢?」


 紀良きらが問いかける。

 ニコニコと笑う。


「私、普通科の高校に通っているんですけど、パパの方の朔夜さくやおじいちゃん、獣医師なんです。だから、獣医師になりたいんです。だから、この辺りじゃその学校がないから……成績は問題ないし、パパは行ってもいいって言ってくれるんですけど」

「すごい! メイちゃん」

「凄くないよ。あきちゃんは、はーちゃんといるんだって結婚したし、てんちゃんは高校卒業したらすぐ留学して、一回も帰ってないの。休みの間はヒッチハイクで放浪してるの」

「えぇぇぇ! ヒッチハイク?」


 絶句する。


 父に聞いたが、叔父の祐也は実母と引き離され、父親や義母、義母の連れ児兄弟に虐待され、10歳の時に逃げ出して、オーストラリアの半分をヒッチハイクで移動したのだと言う。

 痩せこけ、ボロボロの姿に、日本語が喋れず、スラングのひどい英語やフランス語の甥に、探し出した実母の兄で戸籍上の父は、これから大丈夫だろうかと心配していたが、無事に成長した今は末っ子のひめ夫婦に生まれた孫達を可愛がっているらしい。


 因みに、一平にはいたるを含めて二男二女、祐也も一男三女、くれないは三男一女、媛は、一男一女だと言う。


「あ、大丈夫よ。てんちゃんはものすごく悪運か強運か分かんないものが強いし、小さい頃からなっちゃんとかに罠仕掛けて、あきちゃん泣かせたから仕返しってやってたもん。英語はそんなに喋れないけど、パパによると『一平兄さんと紅と同じで、喋れなくても身振り手振りで何とかする、野生児だから大丈夫』だって」

「や、せいじ……」

「前に進学についてパパと話してたら『進学せずにぐーたらする』って言って、パパ激怒して『進学か就職しろ!』って怒ったら『じゃぁ、山でサバイバル生活する』って、ナタとサバイバルナイフだけ持ってこの後ろの山に入って行って3日かな〜? 山三つ越えた所で、イノシシさばいて食べてたから。一応襲われそうになって『うおりゃぁぁ!』って横から首を蹴って気絶させた後、坂を転がり落としたんだって。で、死んだから『山の神様、貴重な山の幸を頂きましてありがとうございます。お腹空いたんで頂きます!』って、さばいて食べてたんだって。で、その煙が見えて、心配して探してた父さん達が行くと、近くの竹を倒して切って削って串にして、それに挿した肉をあぶって食べてるてんちゃんがいて、パパが『蛍や愛来は泣くし、父さん達はこの数日眠れなかったのに、何でサバイバルを楽しんでんだよ、このバカ娘〜! 留学しろ!』って」

「俺だってしねぇぞ……死にたくねぇもん。ウリ坊から大きくなりつつあるのならまだいいけど、あいつ100キロ級さばいてたらしいから」

「そうそう。そのまま置いといたら、血の匂いでもういないと思うけど、ツキノワグマとか集まったらダメだからって、父さん達が血を消して、肉を小分けにして持ち帰ったんだよね」


 那岐は呟く。


「まぁ、その日は皆でボタン鍋だったけど、あいつ絶対、俺以上の化けモンだと思う」

「あ、そうだ。ねぇねぇ、なっちゃん。ゲームしたよ〜」

「えっ?」

「『GeschichteゲシヒテSpielシュピール』。学校でねぇ『えっ? この一条那岐って、あの一条先輩?』って噂になってたから、『そだよ〜。何かね、一回カシミールって言う役で落ちたんだけど、テオドール役を第二弾で選ぶ時に、選ばれたんだって』って言ったら、買うって。なっちゃんモテモテだねぇ〜。今日と明日のお祭りもサインしてってくるんじゃない?」

「やーめーろー! 結愛、教えるなよ!」


 からかう結愛に、那岐がうめいた。

 頭を抱えたいところだが、運転中である。


「違うよー。六花りっかちゃんとこ、皆年子でしょ? はーちゃんやなっちゃん、モテた上に、二人とも一年の時から生徒会所属だったじゃない。こっち田舎だもん、話題少ないんだよね。遠くのアイドルより、近くの先輩だよ。しかも、はーちゃんなんて医大現役合格に、高校卒業してすぐ結婚でしょ? なっちゃんは体育系の大学進むのかと思ったら、声優の学校に通ってるって」

「兄貴を噂しろ……」

「それに、ジャーン! いまだに学校に貼られてる、なっちゃんとはーちゃんとあきちゃんのスリーショット! 三角関係〜!」

「あるかぁぁ! 撮ったのは六花だな。ぶっ殺す! そんな噂が流れたら俺が、兄貴にボコられる!」


 那岐は左右を確認し、左に折れる。


「え〜! 見せて見せて!」


 瞳が声をかける。


「良いよ〜。愛来ちゃん男装中〜」

「か、可愛い〜! えっ? これ何年前?」

「なっちゃん高校一年、愛来ちゃん二年、はーちゃん三年。だから、7年前かな?」

「え〜。那岐くん童顔! まーちゃん、せいちゃん、見てみて」

「だから〜やめ〜!」


 大人しくても、女の子の幼なじみには、沢山のネタを握られていることを思い知った那岐だった。

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