63……drei und sechzig(ドライウントゼヒツィヒ)……リハビリの合間
すぐに転院した後、瞬は傷の治療だけでなく、リハビリを始める。
するとその帰りに、小柄な女性が女の子の手を引きながら、歩いているのをみる。
女の子は、どことなくディーデリヒの妹のフィー……ニュンフェに似ている。
「あ、パパ!」
「おぉぉ! 観月と柚愛! よく来たなぁ……」
祐次は瞬の車椅子をロックし、二人に駆け寄ると抱き上げてくるくる回す。
「祐次さん! 皆さん見てますよ!」
「大丈夫大丈夫」
「パパ〜! くるくる〜!」
瞬は、仲良し家族だなぁと微笑ましげに見ていた。
「祐次……職場で何やってんだ?」
「おぉ。よっ! 臣、元気で何より」
「祐次さん。臣さんは年上ですよ。失礼ですよ」
「いいのいいの。観月。なー? 臣、俺たち兄弟みたいなもんだよな〜?」
「……時々、お前が医者って嘘だと思う」
瞬の見舞いに来た雅臣は、幼なじみを見る。
初めて会った時は、実兄の祐也より野生児一平のミニチュアっぽかった。
でも乱暴というより、天然さと大らかさ、そして一平にない女性に気を使う優しさ。
日向に近いフェミニストである。
でも、医者になれる程賢いというのに、大らかすぎる上にジャージ姿もあって、世界中のオリンピック選手直々のご指名で、何人にも是非にと取り合いされる程の名サポートトレーナー兼主治医に見えない。
「時々、お前が医者だって忘れるよ」
「ありがとう。で、何に見えるんだ?」
「一平さんの様に自由人」
「やめい!」
実は、一平はヴィヴィと結婚したのだが、一平程自由で、人に無条件に好かれる人は滅多にいない。
しかも、妻のヴィヴィの実家に居候である。
ヴィヴィは一人娘で家を継がなくてはいけなかった。
するとあっさり、家どころか国を離れ婿養子になったのだが、仕事と言うのも屋敷の使用人と一緒に庭や馬、家畜の世話に、柔道、空手、合気道の教室を、妻の実家の一角に施設を作って貰い、それを上の子供達や習いたいという子供達に教えているのだが、それ以外は義父母とヴィヴィにお願いするだけである。
でも、最愛のヴィヴィや子供達、ヴィヴィの家族を大切にして、そんなに収入はないのだが、それでも妻やその両親、そして子供たちのボディーガードを自主的にしたりして、ヴィヴィの家の収入で暮らしている……しかし、英語はもう20年以上住んでいるのに、単語しか喋れないという恐ろしさで、日々切り抜けているらしい。
「俺は一平兄ちゃんと違うからな! ……ん? どうしたんだ? 瞬ちゃん」
瞬はおろおろするが、答える。
「えっと、祐次先生の奥さんと子供さん、とっても素敵ですね。可愛いです」
「だろう〜! 観月は弁護士で、この病院の理事長の孫で理事の一人。俺も理事なんだけどな。柚愛は、お花屋さんになるんだよな?」
「うん! それにね、テディベア作家になるの!」
「素敵!」
「お姉ちゃんは?」
その言葉に、瞬は一瞬躊躇い、そして、
「うーん。まずは元気になるかな。そして、お姉ちゃんたちの夢の応援をしてあげたい」
「結婚して嫁って手もあるぞ」
「えぇぇ。まだ高校一年ですよ。留年というか休学になってますが……それに、お付き合いしてる人なんていません! あ、最近、睛ちゃんと那岐お兄ちゃん、とっても仲良しなんですよ。那岐お兄ちゃんがお兄ちゃんになってくれたらいいなぁ……」
「……那岐かぁ……」
祐次と雅臣は遠い目をする。
「すぅ姉ちゃん、絶対喜んで『これ、喜んで差し上げます!』とかいうぞ? で、『瞬ちゃん下さい』とかいうぞ」
「そうだね……」
「それより、臣の所の両親は、どうだよ」
「うーん、母さんが聖地巡礼中。方向音痴だから、父さんが連れて行ってる」
「『聖地巡礼』……お前の声を吹き込んだ、アニメ映画やテレビアニメの地域か……」
雅臣の母は、二人の息子と嫁の糺が可愛く、糺達の息子達も溺愛している。
ちょうど孫達も成人したし、夫も退職したので、上の孫のいる関西に家をと思っていたら、孫の世話になっている病院の理事長が、祐次の妻観月の祖父という縁もあり、今、ほぼ空き家になっていた理事長の実家に住んで貰い、風早や、時々泊まる祐次の面倒を見て貰えないかと提案してきた。
那岐の兄の風早も、大学が近かった為ここに下宿する予定だったこともあり、やったぁ! と引っ越した。
「……まぁ、あの家には、お手伝いさんもいるから大丈夫……」
「申し訳ないというか……」
「聖地巡礼……えっ? もしかして、あの、初期の吹き替えのとかもですか?」
「そうそう。俺の実家に観月の実家も同じ地域だからな。瞬ちゃんも体の調子が良くなったらいくか?」
瞬がどうしようとおろおろする。
「ほたるまつりが明日明後日であるんだけど、行ってみようか?」
「えっ! 連れて行ってくれるんですか?」
雅臣は微笑む。
「那岐も戻るらしい。瞳ちゃんや睛ちゃんも見に言ったらすごいと思うよ」
「まぁ、兄ちゃんも大丈夫なのと少し、疲れだろうから薬処方して退院。後は向こうの大先生に見てもらおうと思ってる。じゃないとこれ以上置いとくと、蛍姉ちゃんが泣く」
祐次はぼやいたのだった。




