62……zwei und sechzig(ツヴァイウントゼヒツィヒ)……リハビリについて
瞬の治療は、祖母と両親と姉達、そして雅臣が、医者と話し合う。
医師によると何度か手術をし、筋を繋ぎ、そして余り力は入らないが生涯、障害者として過ごすことに言われたことにショックを受ける。
そうすると、昶の父、一平が、1日外泊である場所に連れていく。
そこは、京都に本院のある大型病院の系列で、スポーツ選手の怪我のリハビリや、怪我をしにくくなるように、身体に合う運動の仕方を教える専門医がいるのだと言う。
「よーう! 祐次」
「何だよ。一平兄ちゃんか。祐也にいちゃんは?」
「アイツ検査入院中」
「はぁぁ? どうしたのさ?」
「頭痛がするらしい。それとめまいと吐き気」
眉を寄せる。
祐次と呼ばれた青年は、雅臣とさほど変わらないらしい。
しかし、医者にしてはスポーツ系のジャージなどを着込んでいる。
「MRI受けた方がいいかも……兄ちゃんはどこの病院に?」
「この子と同じ病院だ。祐次、紹介する。この子が、結城瞬ちゃん。診察してくれねえか?」
「診察?」
「紹介状」
一平が渡した書類を見て、祐次は何枚かの紙をチェックすると、
「こらいかんわ。この医者、ヤブや。おーい! お前ら。ストレッチしてろ。余計な事すんなよ!」
と、ポイッと紹介状を捨て、瞬の車椅子を押しながら、
「瞬ちゃんやったな? 俺は、この一平兄ちゃんの従兄弟。一平兄ちゃんの父さんの妹が俺の母。祐次って言うんは、祐也兄ちゃんと、親父が寛爾言うけん、一文字ずつもろたんや。一応内科なんやけど、元々親父も俺もスポーツしとったけん、スポーツで怪我をした人のリハビリなどを手伝うようにしているんだ。その資格も持ってる。で、瞬ちゃんは、どこまで元気になりたい?」
その声に、顔を上げ、
「雅臣さんやお姉ちゃんたち、お父さんとお母さんが泣かないで欲しい。えと、時間はかかってもいいです。普通にご飯を食べられるようになるとか、物を掴めるようになるとか……私のことで心配して欲しくない……」
「心配するんは家族やけんや。瞬ちゃんが可愛いからや。かまんかまん」
頭を撫でる。
「この紹介状じゃ分からんけん、一回診察させてや? もしかしたら、手術をするにしても、最低限の手術か、腕に負担のかからんもんにできるかも知れん。かまんかな?」
「はい。お願いします!」
診察の為に包帯を解く。
ずっと包帯をしたままの瞬の腕は筋肉が落ち、痩せ細っている。
「あかんなぁ……筋肉がここまで落ちたら身体が歪んでしまう。それに、肘を伸ばしっぱなしにすんなっての。傷がないんや、何で足首や、足の甲に点滴や注射するんや。あざだらけになるやろに」
怒っているが、それは祐次が少女を心配しているからで、声は優しい。
「確か、雅臣の仕事の休憩室に入ってた女が、雅臣のものを盗もうとしてるのを見てびっくりしてたら襲われたんだよな?」
「えっ?」
「ほら、俺と雅臣って歳が近いんだよ。雅臣の方が上だけどさ。俺は祐也兄ちゃんより10歳下。雅臣はこの一平兄ちゃんや糺姉ちゃんより7歳下。だから5つかな? 俺は小さい頃から、まぁ、親父が柔道、他に空手に合気道とかやってたから、雅臣がアニメとか映画の吹き替えする時、格闘技を基本しか習ってないから紹介して下さいって、ひな兄から紹介されたんだ。俺も一平兄ちゃんもこの体格だろ? あの長身で何でやってないんだよ! 羨ましい! とか思った」
アハハ!
笑う。
「で、基本を教えて、でも、投げたりしたら危険だろ? だから、指導してる相手と組むのを見てて貰ったら、めちゃくちゃ真剣なのな。俺は声優って仕事って分かんないけど、本気で仕事に向き合ってるんだなって感心したさ。本当はもっと会いたいんだけど、俺はここでトレーナーと、地方で医者してるんだ。後4年かな……風早が卒業した後2年したら、少し楽になるかな……」
「楽に?」
「うん、ここは一流スポーツ選手のリハビリも兼ねてる。俺は最近までオリンピック代表候補も兼ねてだったから、両方の仕事もあったり、観月……嫁もお義父さんも弁護士で、お義母さんは看護師、子供達をうちのお袋や、おじいさんにずっと預けるのもちょっとなぁ……娘に会いたい」
「祐次の子供は一人っ子で、まだ10才にもなってないからな」
一平は、祐次の捨てた紹介状を持っている。
「パパ〜! ママ〜! って、よく泣いてるらしいな」
「初月とよく寝ているよ。太秦や歌園も」
「3人……あれ? お子さんですか?」
「あ、初月達は、嫁の弟妹。うちの子供は柚愛って言うんだけど。嫁に似て可愛い。義父母や両親も溺愛してるな」
ニコニコと笑う。
「お義父さんも柚愛にデレデレで、甘やかさないでくださいね! って」
「可愛いんですね。私も弟か妹欲しかったです」
「お兄ちゃんかな?」
「いえ、姉二人です。えっと……」
ポーチを見たのを一平が許可を取り、開けるとその中から、家族写真を見せる。
「えと、おばあちゃんとお父さんとお母さんです」
「うえぇぇ! 祐也兄ちゃん!」
「祐也の母親違いのお兄さんだって。瞬ちゃんのお父さん。結城紀良さんだよ」
「あー焦った。雰囲気は似てるんだ。でも、全体的に優しい温厚さが出てる人だな」
二枚目を見ると、一瞬目を見開き、そして瞬を見る。
「えっと……瞬ちゃん? この3人、どの子が瞬ちゃん?」
「えと、私はこっちで、上の右側が双子の姉の瞳って書いて瞳ちゃんです。隣が、瞳ちゃんの双子の妹で、『画竜点睛を欠く』から睛ちゃんです。瞳ちゃんはおばあちゃんがつけて、睛ちゃんはお母さんの方のおじいちゃんが書家で、つけてくれたんです。私はお父さんが」
「はぁぁ……二卵性双生児。男女の二卵性双生児は知ってるが、それでもここまで似てない姉妹って面白いな。一平兄ちゃんの一番下の妹の媛姉ちゃんの旦那は一卵性双生児で、気持ち悪い位似てるぞ」
ガーゼを当てられ、包帯を巻くのだが、今までのように肘を固められることはなく、その部分はゆるく巻かれる。
「そうしたら、まずはゆっくり腕を肩の位置まで上げてみようか?」
「えっと……重くてあがりません」
「そうだよなぁ……じゃぁゆっくり肘を曲げてみよう。チクチク傷口が痛くなるまではしないんだよ?」
「こ、ここまで……」
「おぉぉ! すごい。やっぱり君はじっと寝てるより、リハビリしつつ治そうか?」
祐次はメモに何かを書きながら、微笑む。
「リハビリ内容は、これから先生が考えるから、一旦戻るかな? もしくはこっちに入院設備の空きがあるから、このまま入院でも良いよ?」
「えと……」
家族はいない。
どうすれば良いかと悩むと、一平が、
「まぁ、よろしく頼むわ。ここの近所に雅臣いるし」
「書類は後で、ご家族に書いて貰おう。じゃぁ、案内するかな」
と待機していた看護師に二言三言話すと、看護師は微笑み肯く。
「分かりました。不知火先生。じゃあ、瞬ちゃんでいいかしら? 私は、河野です。どうぞよろしくお願いしますね」
「結城瞬です。河野さん、どうぞよろしくお願いします」
「じゃぁ、行きましょうか」
と、転院することになったのだった。




